第97話 挿絵のついてない本も読みます!
アモンさんの部屋を出る際、アニスを事務室で寝かせた俺は図書館を見て回ることにした。図書館は入口から入ってすぐの中央館、右のライジン館、左のウィンド館と分かれており、本棚がいくつも鎮座していた。
俺はまず中央館を見回ることにした。すでに図書館の中にはまばらだが人が歩いており、すれ違ったことのある人も居た。
「あそこで朗読会か」
中央館内の真ん中の受付近くに大きい台座があった。台座には綺麗な飾り付けがされており、上から垂れている垂れ幕には物語の題名だろうか。
「March Fantasy Zero……?」
え、なにそれは。どんな話なんだよ。さっきの説明じゃそんなファンタジーでも無かったろ。
「アービスくん! あ、その紐……」」
残念な垂れ幕を見て疑念を覚えていた俺に舌っ足らずな天使のような声が耳に入る。振り向けばそこにはナチ天使。いや、ナチだ。
「ああ、使わせてもらってるよ、ありがとうな、ナチ」
「い、いえ! 使ってくれてありがとうございます!」
照れながら笑うナチ。俺は紐を家宝にすることを決めながらナチに笑いかける。
「にしてもさすがお子様。聞きに来たのか」
「だ、誰がお子様ですか!」
「お前だ」
「むう! 毎年通ってるんです! 習慣になってるんです!」
ふんっ! と言わんばかりに顔を背けたナチ。毎年やってるのか……。いや、毎年、アモンさんが考えた話ではないだろう。
「去年は何をやったんだ?」
「へ? 去年は確か……MarchFantasyですね」
それ今回のやつだろ? え? Zeroがついてないってことは関連作? もしかしなくても続編か?
「え? これ続編?」
「いえ、Zeroって書いてあるので過去の話では?」
なんでそんな壮大なの?
「一昨年は?」
「Marchです」
どんどん字面が減ってるんだが。ていうかすでに三部作なんだけど。これ、網羅してる奴少ないだろ。ていうか三年連続台本、企画、アモンさんなの?
「その前は?」
「MarchQuestⅢです」
「え?一は去年やったんだろ?」
「いえ、去年のはMarchFantasyです」
「は?」
「MarchQuestは三部作でした」
もう既にアモンさんが六年連続、企画、台本を担当してるんだが、アモンさん、13歳からやってることになるんだけど。
「マーチ何歳なんだよ」
「マーチちゃんは永遠の二十六歳ですよ!」
「なんて微妙な年齢なんだ……それがQuestからならすでにかなりのお年なのでは?」
「物語の話なんですから細かいことは良いんです!」
「お、おう、もしかして、好きなの? Marchシリーズ」
なぜかナチは必死に擁護するのでそう思って聞いてみた。
「良い話なんですよ? MarchWarでは親友のデルタちゃんが悪の親玉のお腹を切り裂いて出てきた時は圧巻でした!」
なんでその描写が良くてキスはダメなんだよ! どう考えてもそんな悲惨な光景の方が子どもには早いだろ。
それよりまた新しいシリーズが出てきたんだが。もういいか。
「ナチ、よくそんなの見れたな」
「へ? なんでですか?」
「だってにお腹から出てくるんだぞ、悲惨だろ」
「大丈夫です! アモンさんが言ってました! 悪の親玉のお腹は切り裂いても痛みもなく、喜んでいるので良いのだと! ぎゃああああ!! という叫び声は喜んでいる証拠だと!」
やだ。この子、騙されてる。
まずそんなドMな悪の親玉嫌だろ。お腹切り裂かれて嬉しいって裏設定だとしても子ども向けじゃねえし、万が一、ナチがお腹裂き出したらどうするんだ。
「ナチ、自分のを裂いても決して気持ち良くないからな?」
「裂きませんよ! 私は悪の親玉じゃないですから!」
「そういう問題か?」
「悪の親玉さんはお腹裂かれるの好きなんですよ!」
悪の親玉への偏った知識が凄いな。悪の親玉殺されに行ってるんだけど大丈夫か? 悪の親玉なんでそんなに病んでるの?
「とにかく俺は初見だけど楽しむことにするわ」
「はい!」
「じゃあ俺はここで……なぜついてくる?」
「あ、いえ、まだ時間があるので一緒に居たいなって……ダメですか?」
照れながらの上目遣い頼み。これが効かない男は居ない。遊びに行くわけじゃないんだが。まあいいか。
「そこら辺見て回るだけだから面白くないぞ」
「はい! 大丈夫です!」
ナチは短い歩幅を駆使して俺の横を歩き出した。なるべく歩幅を合わせてやるとナチはえへへと笑い出す。可愛い。
「ナチは普段絵本ばっかり読んでるよな」
「子どもの頃の話ですよ! それ!」
いや、十五の時の話だが。これを言うと拗ねられそうだから黙っておこう。
「今は専ら、物語小説を読みますよ!」
「絵のついた?」
「挿絵の話ですよね!? 絵本じゃないんですからね!?」
「挿絵挿絵」
「いえ! 私は本格的なので挿絵が付いた本はもう読みませんよ!」
まあ、頭が良いからな、ナチは。そういう本も理解して読めるのだろう。俺は説明文を読むのは得意だが物語を読むのは苦手だ。
「アービスくんは?」
「俺は――」
「卑猥な本」
「アービスくん!?」
「俺じゃねえよ!?」
全然声色が違うだろうに! 俺は顔を赤らめて叱咤してきたナチに少しガックリしながら後ろを振り返るとそこに居たのはガリレスだった。
「よお、アービスの旦那」
「ガリレスさん、どうしたんですか?ここは酒場や賭場じゃないですよ」
「ああ?しょうがねえだろ……」
そう指摘すればガリレスの顔が曇る。シャロちゃん辺りに脅されてるのだろうか。なんでかは分からないが。
「何がですか」
「……まあ、今回は味方だからよ……悪い悪い、邪魔したな、お二人さん」
「はあ……」
ガリレスさんは一方的にそう言うと背を向けて立ち去っていった。俺はガリレスさんから目を離し、ナチの方を向くとすごい膨れっ面のナチが居た。
「アービスくん! 卑猥な本はダメです!」
「だから読んでないってば!」
俺は目をぐるぐると回しながら俺にダメですダメですとい言いながら迫ってくるナチをなだめるのに集中した。




