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第9話 汚いままだったね


 大勢の国民が集まる場所に出くわさないよう、ほぼ無人と化した裏通りなどを通りながらこっそり帰る俺とアニス。アニスは満面の笑みで俺の右腕にしがみついている。


 「あ、そうだ」


 「ん?」


 アニスは突然右腕から離れる。もう甘えん坊は終わりかな? と思っていたら突然、俺の進行を邪魔するように俺の前に立った。


 「アービス、両手、こっち出して?」


 「なんで?」


 「嫌なの?」


 「いや、良いけどよ」


 なんなんだ? 一体? 

 俺は疑問に思いながらも両手を差し出すと、アニスも両手で俺の両手を掴む。アルプス一万尺? いや、この世界にそんなの無いか。

 

 「そうだ、この包帯も必要ないな」


 アニスは一度、俺の手を離すと適当に包帯を解き捨てた。そこには何かが刺さったような跡があったが大丈夫そうだった。良かった。

 お待たせとアニスは言い、再度、俺の両手を握った。


 「浄化魔法!」


 アニスがそう唱えると俺の両手が石鹸で念入りに洗われたように綺麗になる。この世界での手を洗う方法だ。この魔術は下級魔法だ。魔法をかじっていれば誰しもが使える。


 「ありがとう?」


 「アービスがどこぞの淫売の肩を無遠慮に叩いてたから、汚れてると思ってさ……」


 「俺そんな人の肩触ったっけか?」


 「もう綺麗になったから良いの」


 「そうか」


 俺が肩を触ったのは、俺の事を認めてくれていたのを俺が感極まって叩いてしまったナチだが、まさかアニスがナチの事を淫売と呼ぶわけ無いしな……誰の事なんだろ。まぁ、これ以上聞いて藪蛇になるのも嫌だし、聞くのはやめよう。


 「さぁ、帰ろうか!」


 「おう」


 って、結局、俺の右腕を占領するのね。まぁ、いっか、昔からだしな。

 俺の右腕を嗅ぎながら、器用に歩くアニスを見てつい笑ってしまう俺だった。


 ――――


「今日は俺の家来いよ」


 「え? 良いの?」


 「あぁ」


 意外だろうか、俺がこいつを家に呼ぶなんて。でもこんなめでたい日に家で一人は可哀想だ。だから、今日くらいは俺の家族とアニスの四人で祝おう。俺はあんまり祝われても苦笑いしか出来なさそうだが。


 「嬉しいよ、アービス……やっぱり僕が居ないと寂しいかい?」


 「ああ、寂しい寂しい」


 「むっ、適当だなぁ、でもそんなアービスの事も好きだよ! もっと他の娘の事は適当でも良いのに」


 「こんなに親身になってるのお前くらいだろ」


 「ふーん、そうかな?」


 「もう良いだろ、早く入ろうぜ」


 「そうだね! アービスと居るのは僕なんだもん! 僕が一番だよね」


 「ああ、幼馴染だからな」


 「そうだね……」


 あ、少し不機嫌になった。相変わらず難しいな。でも、アニスが一番なのは間違いない。初めての友達だったし、昔からずっと一緒だったしな。

 俺は気にしつつも、玄関の扉を開いた。木造のこの家は二階建てで上は俺の部屋だが、玄関を開けて左の空間は居間になっていて、居間に行かずに奥へ行くと両親の部屋だ。


 「ただいまー」


 「お帰り、アービス」


 「おかえりなさい、アービス、あら、アニスちゃん……勇者様って呼んだ方が良いのかしら?」


 出迎えてくれたのは俺の両親、母さんがそう聞くとアニスは困ったような顔をして手を振った。


 「僕の事はアニスで良いですよ!」


 「そう? 相変わらずアニスちゃん可愛いわね~! ね! アービス」


 「そうだな、可愛いよ」


 「あ、ありがとう」


 いや、確かに可愛いけどな、俺の親の前で褒めると思ってなかったんだろう。その照れた姿も可愛い。だが、アニスは色々危なっかしくて心配感情ばかりが沸いて、普段から可愛い可愛いと思っている暇はない。


 「ほら、アービス、アニスちゃん、勇者とその仲間になれたお祝いをしよう」


 父さんに言われ、俺とアニスは食卓に座り、牛肉のシチューやパン、サラダなどを食べながら四人で仲良く過ごした。

 

 「お前は昔から勇者になりたがってたのになれなかった時はどう、声をかけて良いか分からなかったがパーティーに入れて良かったな!」


 「ああ、うん、そだね」


 やっぱり苦笑いしか出来ない。アニスは俺を見てニコニコしていた。何がそんなにおかしいのやら。

 

 「そういえば、二人はこれから王国の中に住まいを移すのよね?」


 初耳だ。俺は、アニスの方を見たらアニスはにっこり笑っていた。え? 初耳だぞ? というかなんで母さんは知っているんだ?


 「お、俺、初耳なんだけど、それ」


 「え? だって普通、王都に住んだ方が便利じゃない?」


 「あ、規定とかじゃなくて母さんの考え?」


 「ええ、卒業したら王都暮らしさせないとと思ってたけど選ばれたなら早い方が良いわよ、ねえ? あなた?」


 「ああ、そうだな、そうした方が良い」


 なるほど、そりゃ初耳だわ。確かに卒業したら王都暮らしをしなければとは思っていたが、王都でまだ家探しもしてないから結局、卒業近くになるのではないか?


 「家探しもアニスちゃんがしてくれたのよね?」


 「はい、勇者が代々住んでいるという場所に住む予定なんですけど、その近くに勇者パーティーの人が使える家も一つずつ用意させました」


 「え?」


 「だから明日にも引っ越せるよ、アービス」


 「え? え? ちょっ、え?」


 「まぁ、良かったわね、寂しくなるけど頑張ってね、母さんと父さん、応援してるから」


 とんとん拍子で話が進みすぎだ。俺にだって選ぶ権利があるはずだ!


 「あ、あの、まっ――――」


 「嬉しいのかい? アービス? 嬉しいよね?」


 怖い目だ。俺はその目で見られたら頷くしかない。


 「う、う、うん」


 「そっか、なら明日、見に行こう?」


 「ああ……そうだな」


 結局、負けてしまった……。押しに弱い俺を俺は恨む。


 「これからはずっと一緒……」


 「ん? アニスちゃん何か言った?」


 「いいえ! このスープ美味しいです!」


 俺的には美味しくない展開です……。


 「あ、今日泊まるから」


 「え?」


 「アービスの部屋しか無いから泊めてあげてね?」


 「え?」


 え?


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