ななちゃんの初恋?
武 頼庵さまの「初恋」企画のために書いたものです。
何故かママに連れてこられたところは、にこにここどもクリニック。
ママは受付で何か書いている。
待合室には、ななちゃんと同じようにママと順番を待つ男の子がいる。
「ななちゃん、お座りしてお熱計ろうね」
ママに連れられ椅子に座らされ、体温計を脇に挟まれ体温計がずれないように押さえらる。終了を知らせる電子音が待合室に鳴り響く。ママは体温計を受付に提出をする。
「36度5分ですね。座ってお待ちください」
診察室から泣き声や看護師さんのなだめる声などが聞こえてくる。だんだん不安になってきた、ななちゃん。
「おなまえは?」
ななちゃんより少しお兄さんな男の子が声をかけてきた。
「ななでちゅ」
「ななちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
「ななちゃん、待合室のどこかにうさぎちゃんいるよ。どーこだっ」
ななちゃんは、男の子に言われてキョロキョロあちこちを見渡してうさぎを探す。
「あっ、いたでちゅ!」
本箱の上にちょこんと置いてあるうさぎのぬいぐるみ。
「大正解」
ななちゃんの嬉しそうな表情に、それを見守っていたお母さんたちも笑顔が溢れていた。
手を繋いで本箱の前に移動して楽しそうに話をしているななちゃん。そんなとき
「ななちゃん、診察室にどうぞ」
ピンクのナース服を着た看護師さんが診察室の扉を開けて待合室で待つ、ななちゃんに声をかけた。
順番がきたのでママが椅子から立ち上がり、ななちゃんに声をかける。
「ななちゃん、お名前呼ばれたよ」
そう言ってママが手を差し出すと、ななちゃんは自分の手を後ろに隠して診察室に連れていかれないように頑張ります。
「ななちゃん、ななちゃんなら大丈夫だよ。行っておいで」
そう言って、ななちゃんの不安に寄り添う男の子。ななちゃんは男の子を見つめて小さくうなずいた。
看護師さんがななちゃんの顔が少し赤い気がするのは熱なのか室温が高かったかなと考えた。これまでのやり取りを知らない看護師さんが、ななちゃんの前に来てななちゃんの目線に合わせるようにしゃがんで、ななちゃんに小さな声で
「ななちゃん、医師かっこいいよぉ」
看護師さん、ななちゃんに喜んでもらおうと診察室で待つ医師は、怖くないと伝えようとしているようですが、その言葉に反応したのは、ななちゃんのママ。
「ななちゃん、医師イケメンだって! やまぴー居るかもよ」
そこにすかさず反応したのは看護師さんで
「あら、やだ。さすがにやまぴーは言い過ぎですよ。やまぴーだったら、この病院凄い事になっちゃいますよ」
ふたりで盛り上がっているのを、じっと見つめるななちゃん。
看護師さんに手を引かれ診察室の中へ歩いていく、最後に振り返り男の子を見つめると男の子はななちゃんに向かって笑顔で手を振ってくれた。心がポカポカしているななちゃんは診察室に入って行った。
「ななちゃん、こんにちは」
ななちゃんに優しく声をかける前野医師。
「こんにちは」
小さな声でしたが、きちんとご挨拶できました。
「ななちゃん、ちゃんとご挨拶できて偉いね」
お手手を繋いでくれていた看護師さんが誉めてくれます。そしてすかさず
「ななちゃん、先生の前の椅子に座ろうか?」
さすが看護師さん、さりげなく診察の準備に入れるように誉めながら進めていく。
前野医師の前まできて、急に帰ろうとするななちゃんに診察室に笑いが起きた。
「いやいや、ななちゃんここまで来て帰らないで~~」
前野医師がななちゃんに、お願いをするとななちゃんが振り返り前野医師を見た。
「ななちゃん、おいでぇ~」
「・・・・」
「前野医師、ななちゃんひいてます」
看護師さんが、笑いながらドクターに伝える。
先程の男の子が気になるのかななちゃんは待合室の方をチラチラと伺うのが見える。
「なな、先生にみてもらおうね」
ななちゃんのママがななちゃんに言う。ななちゃんは、前野医師をジーッと見つめる。
「ななちゃん、お話しよう」
前野医師がななちゃんに優しく語りかける。ななちゃんは、少しだけ前に歩いた。
「あらぁ、一歩歩けたね。はいもう一歩」
看護師さんが誉めながら、前へ促す。看護師さんの顔をジーッと見るななちゃん。
「あらぁ、そんなに見つめられたら照れちゃう」
看護師さんが、ななちゃんの緊張を和らげようとしている。気持ちが通じたのか、にっこり笑うななちゃん。
看護師さんの気持ちが通じたのか、前野医師の前へ歩いたななちゃん。
前野医師の前の椅子に、ママに抱っこされ座ったななちゃん。
「ななちゃん、何処か痛いところはあるかな?」
「ないでちゅ」
聴診器を見せながら
「モシモシしてもいいかな?」
小さく頷くななちゃん。
看護師さんが聴診しやすいように、フォローに入る。
「ななちゃん、いい子だね。モシモシするよ」
いい子に聴診を受けるななちゃん。
そしてあーんして喉を診てもらい、前野医師の一言
「はい、終わったよぉ~。いい子だったね」
ななちゃんの頭を撫で撫でしながら、誉めてあげる前野医師。そして次の瞬間前野医師からの言葉
「異常無しですから予定通り、予防接種しましょう」
「よろしくお願いします」
ななちゃんのママの言葉にななちゃんはまだ何が起こるのかを理解していない。
看護師さんが注射の準備をしているのがななちゃんの視界に入った。
この雰囲気に全てを悟ったななちゃんは泣き出した。
「あぁ、見つかっちゃったかな?」
前野医師に声をかけられてそちらに視線を向けるななちゃんの目は涙でウルウルしていて「嫌だ」と訴えているのが伝わって来るが、ここでしないと言う選択肢はない。
看護師さんが準備を整えて前野医師にトレーを渡す。
ママと看護師さんに押さえつけられて予防接種を受けるななちゃん。
ななちゃんの細い腕に消毒をして、
「ななちゃん、ちょっとチクッてするよ」
「いやでちゅ」
まさかここで返事をされると思っていなかった前野医師も看護師さんも一瞬緊張感が抜けて大笑いしていました。
「いゃあ、ななちゃん、そうだよね」
頭を撫でながら笑顔で話す前野医師。
もう一度はじめから仕切り直し。ななちゃんの腕に消毒をしてもう一度
「ななちゃん、ちょっとチクッてするよ」
押さえつけられて泣きながら受けた予防接種。
「ななちゃん頑張ったね。偉いよ」
看護師さんが誉めてくれた。そして前野医師からのラブコール
「ななちゃん、大きくなったら注射してあげる人になろうか?」
その言葉に、ななちゃんは瞳に涙を溜めてウルウルしていたのに、瞳をキラリと輝かせ
「はいでちゅ」
ななちゃん、注射してあげる人という言葉に惹かれ、ななちゃんの心の中に注射をしてあげる人、看護師さんに興味を持を持ち、そして診察室から出ると、ななちゃんを励ましてくれた男の子は、もういませんでした。男の子と話をしていた場所をじっと見つめているななちゃんを見るのは切なくなるほどでした。それはもしかしてななちゃんの初恋だったのかもしれない。
武 頼庵さま、添削してくださりありがとうございました。