表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

太陽黒点が悪いんです

 人類皆、自分だけしか信じられず、他人との些細な意見のくい違いに腹を立てた。

 夜半は言うに及ばず、朝昼晩。とにかく目茶苦茶、腹が立つのだ。

 老若男女、誰もが怒りっぽい。

「なんだ、馬鹿野郎!」

「なんや、阿呆んだら!」


 べっぴんさんもすぐ怒る。

「ほんと頭きちゃう!」


 ジャニーズ事務所のタレントも怒る。

「ホントは、ジブンってえ、硬派だからあ、怒りっぽいんですよー。ホントだってば。やっだなー。見えません?」


 吉本の若手芸人も怒る。

「何考えとんのじゃ! ボケエ! 客のくせに! 笑わんかい! 何しに来とんのじゃ! アホンダラ! ワレ! いてまうど!」


 ネットアイドルも怒る。

「もお! ほんとにパピューンって感じ。ピーポピーポって? う〜ん? プリプリ! って感じ! あれ? プンプンの方がいいカナブン?」


「カッワイ〜!」

 と、これは親衛隊の声。


 アニメのピカチューも怒る。

「ペカペカ、怒ってまチュー」


 無理もない事だ。

 良い事、善い事なんにも無い。

 悪人のみがほくそ笑む。

 こんな世の中。

 間違ってる!

 続く不況に大恐慌。

 倒産企業は後を絶たず。

 リストラに採用取り消し。

 失業率と自殺率はうなぎ登り。


 一方、エリート官僚の皆さんは、国民に背を向けたまま、やりたい放題。

 締めくくりは天下り。

 もはや天下人って感じ。


「俺なんかエリートじゃないよ。俺より上にいる人をエリートって言うんだよ。俺なんかまだまだザコザコ。さあ、暇だらけだけど、自分の為に、つまりは、官僚機構の維持の為に、面倒な仕事、たっぷりこしらえなくっちゃ。むふふふ。カスども、しっかり税金払えよ!」


 政治家はなお酷い。

 中でも、もっとも悪い奴は、何もしない政治家だ。


「私は悪い事はしない。だからと言って、良い事もしない。どうせ何をしたって、民衆に謗られる事が分かっているからだ。えへん。だから賢い私は、馬鹿な有権者の望む、口あたりの良い言葉を、何度でも何度でも、それこそ何度でも喋って、当選回数を重ねる事にしか興味がないのだ。そして、晴れて大臣になった暁には、うんと悪い事をしよう」

 毎晩鏡に向って誓いを新たにする。


 このように、自分さえ良ければ、それで良いのだ!

 と誰もが思っている。

 こんな大人が、若者に対しては、夢や希望を持てと言う。


「まったく! やんなっちゃう」

「ムチャクチャやおまへんかー」

 と、若者。


 高齢化により不良老人が巷に溢れ、我が儘、勝手のし放題。

 都合の悪い時はボケたふりをする。

「え? スカートめくり? わしが? はて? 大根が二本吊してあったようじゃがの? 万引き? わしが? 偉いお坊様がやってきて、ボタモチをくれたんじゃ。もっほっほ」


 その上、にわかに太陽黒点が増加した。

 科学者は、かつて無い規模だと言う。

 だから、変なぐあいの太陽風が吹いて来た。

 どうしても、やめられなかった大気汚染の結果、シールドを無くした地球は、これをモロに浴びてしまった。

 その結果人間様も、決定的に変なぐあいになっちゃった。


「えーい! 何だか無性に腹が立つ!」

 とばかりに人々は、インターネットに百科事典、何でも調べて、どんどんお勉強して、なんと、自家製爆弾を作り始めた。

 工業用の薬品、肥料に洗剤、医薬品に医薬部外品。はては食料品やゴミまでが、以外に高性能な爆弾の材料となった。

 元来、有能で勤勉な日本人は、紅茶キノコやカスピ海ヨーグルトのように、変な物ほど、よくハマる。

 今や、爆弾作りがブームとなっているのだ。



 そもそも現代人は爆発が大好きだ。

 何故なのか? 

 スカッとするからに決まっている。

 だから、ハリウッド映画にも、カーチェイスと爆発シーンは欠かせない。

 勿論、自分が巻き込まれたら悲惨の極みに違いないが、端で見る分には、最高の刺激が味わえるのだ。

 きっと脳の中で、快感物質が分泌されるのだろう。


 ニュースだって、ドキュメンタリーだって、爆発はつきものだ。

 戦争などと言ったら、爆弾を爆発させる為にやってるに違いないのだ。

 それから日本人は花火が大好きだ。

 これだって爆発だ。

 故、岡本太郎画伯も言っていた。

「芸術は爆発だあ!」

 ま、これは関係ないか。


 アントニオーニの70年代初頭の映画『砂丘』で、ヒロインが、セレブの邸宅の破壊を願うイメージシーンがあって、爆発のスローモーションシーンが、なんとも綺麗だった。

 また古い話になってしまった。

 ちょっと反省。


 いやいや今回は開き直ろう。

 古い爆発映画と言ったら、なんと言っても『アトミック・カフェ』だ。

 この映画は、核爆発の実写フィルムをふんだんに使っている。

『博士の異常な愛情』のラストシーンも、原水爆の爆発シーンが、てんこ盛りだ。


『史上最大の作戦』の中、ロバートミッチャム指揮するアメリカ軍が、ノルマンディーの上陸地点で、ドイツ軍の分厚いコンクリート壁を、なかなか破壊出来ない。

 容赦の無い機銃掃射に、兵隊達はバタバタ倒れ、観客は手に汗握る。

「ああ、早く! 早く! 早くぶっ飛ばせ!」

 と、みんなの願いはただ一つ。

 そうだ。俺達は、大爆発が見たいんだ!

 だからこそ、日本の怪獣は断末魔の時、大爆発して花と散るのだ。


 悔しくも弾薬尽きて玉砕した日本陸軍の、南方の英霊達の供養の為にも、せめて怪獣くらいは、盛大に爆発してもらおうじゃないか。


 という訳かどうかは知らないが、爆弾フェステバルが催される。

 新しい仕組みの爆弾を開発しては、広場に集まり爆発させて、批評し合い自慢し合うのだ。


「ほお? ペットボトルが原料ですか?」

「粉塵爆発の要素も取り入れてみたんです」

「斬新ですな」


 すぐに官憲の手が伸びて、禁止されてしまう。

 見せしめの為に逮捕者が出たのだが、ブームはまだまだ、始まったばかり。

 やはり作ったからには、使ってみたくなるのが、人間の悲しい性なのだ。

 何しろ爆発ほどスカっとする事なんて、滅多にあるもんじゃない。

 テロと言われ、やたら警戒されると、思わず裏をかいてやりたくなる。

 思想や宗教は様々だが、やむにやまれぬ情熱は皆同じだ。


 学者も言ってるじゃないか。

 太陽黒点のせいなのだ。

 そうだ! 悪いのは太陽黒点だ!

 俺個人としては、とにかく爆発させたい。

 ああ、爆発が見たい。

 爆発だあ!

 だから爆弾を使いたい。


 こうして、高みの見物をしたい人は、時限爆弾やリモコン爆弾を作った。

 死にたい人は自爆テロを敢行した。

 こうなったらもう、気に入らない物は何でもかんでも、ぶっ飛ばしてやるのだ。


 あちこちで爆発が起こった。

 バスとか電車の棚の上、柱時計や自動販売機、テレビにパソコン、携帯に電卓。

 爆弾はあらゆる物に仕掛けられた。

 街を歩いていても、家にいても、会社に行っても始終、爆発音を聞く。

 手足が千切れ、首がすっ飛んだ。

 犠牲者は増加する一方だ。


 法では裁けない理不尽で非道な行いについて、テレビなんかで報道されると、「悪い奴」は一両日中に爆死した。

 政治家やタレントも、嫌われた奴は爆死する。



 近所の犬がうるさいとばかり、真輔は、隣家の犬小屋を吹っ飛ばした。

「痛快痛快。ざまあみろ」

 翌日、お返しとばかりに、真輔の家のガレージがぶっ飛んだ。

「ちくしょう! やるなあ。仕事が済んだら、お返しのお返しに、隣りの台所を吹っ飛ばしてやろう」

 真輔の仕事は警察官だ。

 爆発処理班に所属している。

 時節柄、忙しい部署で、現在増員を重ねている。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ