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Words〜言葉達の体現者〜  作者: 天野 雅
1/1

prologue〜序章〜


我儘とは一種の押し通す力なのではないかと私は考える。

駄々をこねるとはまた違った押し切る力。

それは矛盾さえも、理さえも、概念さえも無視して押し通す力、それが【我儘】だ。


そしてこの世の言葉には【体現者】と言う言葉がある、〇〇の体現者…など良く聞いたことあるのではないだろうか。

この社会においてこの言葉に忠実な体現者は少なからず居る、それも普通の一般的な人間からみたら体現者達は普通という言葉から、定義から逸脱した存在、変人として見られる。


そんな体現者達はある日突然、唐突に、不思議な力を持った。

自分の背負った言葉を司る力、その力を持った者達を周りはこう呼んだ。


【Words】…即ち言葉達と。



===





「オラァ!!さっさとくたばりやがれクソ虫ガァ!!!」

一人の少年が周りにある物など関係なく破壊しながら俺を付け狙ってくる、細身で首れた様子が制服越しからも分かる風体と金髪を逆立てて目が血走りながら追いかけて来る。


その少年の名は白金しらがね 黒破こくはという俺の事を何故か分からんが執念に狙って来る【破壊の体現者】である。


「なんでお前のために死ななきゃなんねーんだよ!この脳筋馬鹿が!」

そして白金 黒破に付け狙われているこの俺は自分のやりたい事があるならなんでも押し通す力がある【我儘の体現者】だ。


「逃げたい…それが今日の我儘だ!」

俺がそう言い放った瞬間、白金の身体はピタリと固まり動かなくなる。

その事を確認した俺は余裕の表情で言う。


「じゃ、もう二度と会わない事を俺は祈ってるとするかね」



===


四月下旬。

冬の寒さが抜けきってない事を実感してしまう日もあれば、肌暖かい日差しの日もある。


埼玉の廃ビル。その屋内も破れた窓ガラスから差し込める陽光で少し前までは冷たさが感じられたコンクリート剥き出しの壁も床も今では温気を纏い保っている。


灰色一色に染め上げられた取り壊し予定のコンクリート剥き出しの廃ビルに異色なコーン色の制服を着た学生がいた。茶髪に温厚そうな顔つきで印象の良い笑顔をする少年だった。


「春ってつまらないよね、秋なら食欲やらスポーツやらと色々あるのに春ってなーんもない、出会いも別れもそんなチンケなもんつまらないしさぁ、そう思わない?先輩」

学生服の少年、人付ひとずき 裏採うらとは、傍らに座っている同じ紺色の制服を着た少女に話しかけた。


先輩と呼ばれた少女はサイドテールの黒髪に白い眼帯をした姿だった。一見すると可愛らしい見た目だが、無表情な顔と何処か見透かしたような目からクールビューティにも見える。


少女は本を読む手を止め、呆れながらに答える。


「そうね…確かに春はつまらない季節かもしれないけど、ここまで短く感じる季節も珍しいと私は思うわ。何故短く感じるのか、それは楽しいからだとは思わない?つまらない季節だったら無駄に長く感じてしまう筈よ」

「確かにそうかもしれませんけど…それは本来全ての季節関係なく起こる【イベント】が春だけに起こるからじゃないすかぁ?ほら一昨年は俺たち【Words】が四月に見つかり、昨年の五月には【Words】達による大規模異能テロ、そしてついこないだの四月中旬に発足された内閣Words《言葉達》対策組織の立ち上げ、そりゃこんだけ春に俺たちに関わる事案があっちゃ季節も短く感じられるもんですよ」


内閣Words対策組織

かつて起きたWords達よる大規模異能テロにより政府が一般警官では手に負えないと判断し作られた組織だ。

全都道府県から優れた公安や警官などを集め、一個軍隊として完成させる事で自衛隊の無駄な出動と戦力低下に繋げる事を防ぐ事ができる初のWordsに対向できうる知識を持った集団である。

ただ、普通の組織と違うのは普通の警察が担当していた事件にWords達が絡んでいることになると、その調査に介入し時には担当することができる。


「で、先輩?さっきから何読んでるんですか?」

「恋愛モノよ」

「へぇ珍しいですね、いつもサイコホラー小説なんか読んでるのにそんな乙女チックなモノ読むんですね」

「えぇ、だって人の恋心を見てると嗤えてこない?」


少女の言葉に意味がわからない人付は首をかしげる。

「『笑う』ではなく『嗤えてくる』ですか?」


少女は微笑みながら頷く。

「人の感情を感じられるのは人の理性ある者だけなのよ、人間の恋心を犬に覚えさせようとしても無駄でしょ?それは犬が人間の理性を持ってないからなの、だから恋愛小説を見て感情を感じ取れるから人間は面白いと笑うのよ、でも人間から少しズレた理性や感情を持つものはその小説を見て愚かだと思い嗤うものなの」

と言いながら少女は人付に笑いかけた。


少女の戯言、と受け流すわけではなく、淡々と少女の言うことを聞いていた人付は硬い床の上に尻を下ろし、納得したように言う。

「『狂気を持った者に人の感性有らず』ですか…、まぁ、確かにその説で行くと先輩…いえ、緋錠ひじょう 狂華きょうかさんの能力【狂気の体現者】のことわりにあってますね、そういう考え嫌いじゃないですよ?」

「【偽善の体現者】がよく言うわね…相手が言うことに適当に口合わせてるとしか思えないわ、貴方が本当はどう思ってるかなんて興味もないし知りたくないけれどね」


緋錠が呆れた…と肩を下げる。

そんな様子の緋錠を見ながら人付きは笑う。


「そんな、酷いじゃないですか……とでも普段は言う所ですがこう返しておきます



当たり前じゃないですか、私、偽善者ですから」


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