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妹フレグランス  作者: かいうす。
1章 唯
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2話 目線


 ニャンニャンニャンニャンニャニャニャっにゃにゃにゃ!!!



 不快な目覚まし音で目が覚める。毎朝このブサイクな猫を模した目覚まし時計で起床するたびに吐き気がするほどの嫌悪感が体中を走り回る。

 言わずもがな、この目覚まし時計は中等部に上がる頃に結城向日葵から送られたプレゼントだ。嫌いな女からの贈り物をわざわざ使い続けるのも一概に敵の存在を忘れないため。

 この目覚まし時計で目を覚ます度に、結城向日葵への憎しみを再確認出来る。

 それにしても途中から発狂しだすのはどういう事だ。可愛くないにも程がある……。


 深い溜息を付いてから体を起こした。



 私、圷唯の朝は早い。起き掛けの未だ少しだるい体にムチを打ち自室を出て洗面台で顔を洗い、眠気を飛ばすと朝の身支度に入る。化粧水を顔になじませるとそのまま不自然にならない程度にナチュラルな化粧を自身の顔に施して行く。

 この工程の手を抜く事は一切許されない。毎朝好きな人に一番に見せる顔は完璧なものでなくてはならない。


 化粧と同時に髪形も整え、頭部の両端を結って行く。

 涼は自覚していないかも知れないが、どのアニメや漫画でもツインテールのヒロインを気に入る事が多い。ツインテールではなくツーサイドアップにしているのは、あからさま過ぎてバレてしまうのを防ぐためである。

 クリーニングを済ませたYシャツに腕を通しスカートを腰の位置まで持ってきたのち、いつもの様に2回織り込む。ネクタイを綺麗な形で締めれば朝の身支度は完璧に仕上がる。


 一階のキッチンで二人分の朝食の用意を開始するが、私はここで涼を起こす事はしない。例え、涼が寝坊したとしても、起こしてほしいと頼まれたとしても起こす事は無い。

 なぜなら、あの女が毎朝犬の様に家の前で待っているから。


 涼は朝に非常に弱く寝坊する事が年間でも多々ある。流石にあのストーカーのような幼馴染でも遅刻しそうな時間になれば諦めてようやく一人で登校する気になるらしく、トボトボと我が家の玄関から去って行くので年に数回ある二人だけの登校のためにあえて涼を起こさない。



 朝食の準備が丁度終わりを迎えたところでリビングの戸が開かれ、未だ眠そうに欠伸をしながら寝癖の付いた涼が顔を覗かせた。



「涼、あと20分で出なきゃだからさっさと食べよ?」



―――



「涼ちゃんおっはよ! 今朝はよく眠れた~?」



 玄関を出るとまるで男に媚びを売る様な笑顔をこちらに向けてくる少女。

 この花を売るかのように媚びを売る女こそが結城向日葵。幼稚園から既に知り合っていた涼の幼馴染。赤みがかかった茶色いショートカット、もみあげの部分が少し伸びているのが特徴的でそこから覗く男子が好みそうな整った顔立ち。男を誘惑しているのかと思わせる下品なスタイル。


 もう何年も私とは挨拶はしていない。毎朝お互いの出で立ちをチェックするためだけに触れれば切れてしまいそうな視線を一瞬交わすのみ。



「おはよう向日葵。寝すぎて眠い……。」


「ええ! それ本末転倒だよ!?」


「あはは……まあ冗談だけど、俺が朝弱いの知ってるだろ?」


「もちろん知ってるよ! 毎朝涼ちゃんがちゃんと起きれてるか心配してるもん~!! ほ、ほんとは毎朝起こしてあげられたらいいんだけどね……?」


「いや流石に悪いし、向日葵にそこまで迷惑かけられないよ。」


「ええ~! 遠慮しなくてもいいのに~! む~! 涼ちゃんの為ならそれくらいお茶の子さいさいだよ~!!」



 モジモジと同性を苛立たせるかのように顔を赤面させ、まるで演技かと思わせるかのような白々しい態度。この女は間違ってもこんな態度を他の男子やそれを見ている女子に見せる事は無い。

 学院3大美女として校内の女子からも支持を得ている事から分かるように、普段はサバサバしたさっぱり系のさわやか女子。ここまで言えば理解出来るだろうが、この天然じみた態度は演技。


 仮にこんな会話をしていても向日葵が涼を起こしに来る事は無い。以前実際に図々しくも起こしに来た事があったが、チャイムを鳴らしても涼はその程度の音では目を覚ます事は出来ず、私も完璧に無視を決め込み向日葵は悲しく待ちぼうけ。そんな事が二回程あってからは家の前で待つ形に変わった。

 それで諦めればいいものを、この女はいつまでもお弁当だけは作って来るという、あざといアピールを性懲りも無く続けている。



「え!?!?! ホント!!?!?」


「あ、ああ。なんか急に振られちゃってさ……はは……はあ。」


「そうなんだ……そっか……そっかそっかあ!!」



 それまでの意識を吹き飛ばすかのように向日葵の大きな声が鼓膜を刺激する。向日葵は上体を涼にグイッと寄せていた。涼に近づき過ぎよ、このビッチが。

 一瞬の苛立ちを隠す事無く向日葵の耳に届くように舌打ちを鳴らす。


「……ちっ」


 向日葵は舌打ちに反応し、目線だけをこちらに向けてくる。途端口元に軽い笑みを走らせた。



「え、じゃ、じゃあさ、じゃあさ。今日の放課後とか……前みたいにどっか2人で……」


「残念。今日の放課後は私と涼は生徒会なの。またの機会にしてね? 向日葵ちゃん。」



 涼の視線の死角から牽制するように会話に釘を差した。向日葵は目線だけで此方に言葉を放ってくるのを笑顔で答えた。



 ハナシカケンナ

 サッサトハナレロ



 一瞬の不穏な空気を一蹴した向日葵はまた媚びるような目つきで涼に笑顔を見せた。



「そっかあ~それなら仕方ないね~じゃあまた時間がある時行こうね!涼ちゃん!」


「あ、ああ。悪いな向日葵。」


「今日日直だから先行くね~!涼ちゃんじゃあね!」



 そのまま向日葵が小走りで校内に走り去っていく。

 残された私たち兄妹も別段いつもと変わり映え無く言葉を交わしながら別れた。



「涼、じゃあまた放課後ね。」


「ああ、またな。」


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