精霊王と邂逅が侯爵令嬢(悪役令嬢)の運命を変えた
「精霊王に愛されし令嬢は、本当は悪徳令嬢だった」
の序章になる話。
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少しだけ最後に話を追加しました。
私があたしの記憶を思い出し始めたのは、3歳の頃のことだった。断片的に見るあたしの記憶は、昼寝の時が多かったので、不思議な夢だなーと思いながら人ごとの様に思っていた。
忘れている記憶も多々あると思うが、5歳になる頃には前世の記憶…自分が誰であったか、完全に思い出していた。
記憶が25歳までで止まっているということは、事故か病気かわからないけど死んだのだろう。何で死んだかは気になったけれど、今気にしても仕方ないことだと早々に考えるのは止めた。
それよりも知らなかった知識が流れ込んでくると、色々試したくなる。ただ実行する前にどこまでその知識が活かせられるのか、この世界の常識を周りの侍女やお父様、お母様に聞くようにした。
まずは身辺調査から。
「母様、父様はなんのお仕事をしてるの?」
正直二人ともかなりおっとりで、ラノベの世界だとこんないい人は狙われて、お金を無心されたり陥れたりされやすい。いざという時に戦える知識やお金を手に入れるために。
「父様は宰相をしているのよ」
「えっ、宰相様?!」
身分的にはありだけど、あんなに優しい人で厳しい判断をしなければならないのに、大丈夫なのかと心配してしまった。胃に穴が空いたりしないだろうか。
「エレンは偉いわね。宰相様のお仕事がわかるなんて」
「だって、王様の補佐をする偉い人でしょ?知ってるもん」
わざと誤魔化すために、子供の振りしてどや顔を決めてみた。
初めてやったけど、これは恥ずかしい…。
「父様は普段とてもぼんやりしている人だけど、やる時にはやる人なのよ」
善人の代表みたいな優しい母に、どこか黒さを感じるのは気のせいだろうか。
…多分気のせいではない、とあたしの勘が告げていた。
でも、凄く納得した。侯爵家が潰れないわけが。子供のあたしに見せないだけで、政治的判断はする厳しさも兼ね備えているのだと。
もしかしたら他にも秘密があるのかもしれないけれど、なんとなく悪寒を感じるからそこは後回しで。
だったら安心。だけど2つ下の弟が同じタイプとは限らない。
ねえたま、ねえたまと後をついてくる、滅茶苦茶可愛い弟。変な女に引っかからないように、目を光らせないといけないぐらい、美少年になると決定している容姿だ。
あたしはというと、財力があるお陰で馬子にも衣装的な、ちょい可愛い感じの女の子だ。衣装を着飾らなければ多分その他大勢の中に埋もれる感じ。生まれはいいので、前世にはない気品が溢れていることが、侯爵令嬢としての矜持だろうか。
とりあえず母様に黒さを感じたことを誤魔化して、絵本でも読んで貰おう。
「凄いね。父様!母様この絵本読んで!」
「いいわよ。これを読み終わったらエレンはお昼寝よ」
「はーい」
読んで貰ったのはファンタジーな世界らしく精霊が出てくる話。
そう、この世界には精霊がいる。それも自然の仲に溶けこんでいるほどいるらしい。らしい…というのは、その姿を見ることが出来る人が稀で、実際にはわからないそうなのだ。
しかも滅多に人前に姿を現さないというのだから、もっと見る機会は少ない。
本当に、残念。ファンタジーな世界に来て精霊が見えないなんて。
でも、まだあたしは5歳。諦めるのは早い。
何故なら加護を貰うと精霊魔法が使えるようになるのだが、その魔力が安定するのが7歳。精霊は魔力を貰ってその力を行使するので、魔力の少ない幼児には姿を現さないだろうと言われていた。
いつか精霊が見えますように!
そして母様が話してくれている物語のように、一緒に戦うことは出来ないけれど、みんなで一緒に幸せになるお手伝いが出来たら、凄く嬉しい。
まずは以前の生活でやっていたハーブを育てて、ハーブティやオイルを作りたい。それが出来れば風邪などの予防や消毒が促せるはずだ。普通の石鹸はあるものの、多分一般にはまだまだ高いものだと思う。日本のように何でもかんでも抗菌仕様というのは問題だが、全くしないというのは論外だ。
もちは悪いが簡単な作り方なら知っているなので、たくさんの量が欲しい。
緑と浄化を司る精霊さん!
水と生命を司る精霊さん!
よろしくお願いいたします!
それが出来たら気軽に食べられるお菓子を絶対に作る!
思い出さなければ思わなかったけれど、美味しさを知っているだけに、プリンやアイスクリームがないなんて、寂しい。
「さあ、もう寝る時間よ」
「はい、母様」
自分の部屋に一緒に向かって、ベッドに寝かされた。
ポンポンと頭を撫でてくれた母様が部屋からいなくなると、窓の外に気配を感じた。
ホラーとかないよね?
恐る恐る窓のカーテンを開くと窓にはこちらを覗き込む二つの光があった。
初めて見る光だったが、怖いとは思わなかった。むしろ、温かい。
まさか、「精霊さん?」
「当たりだよ!」
くるんと回って姿を現したのは、緑の羽根を羽ばたかせている可愛い男の子。
「緑と浄化を司る精霊さん!」
「わたしもいるわよ」
にっこりと笑顔で現れたのは、おしゃれな青の羽を耳にかけふわっと浮いているのは、可愛い女の子。
「水と生命を司る精霊さん!」
「「美味しいお菓子を作ってくれるんでしょ?名前ちょーだい」」
どうやら甘いお菓子目的で、あたしの心の呟きを拾ってくれたみたい。
「頑張って作るね」
「「なまえー」」
名前…難しい。以前みたいにネットがあるわけじゃないから、色々調べられない。思いつく限りでいいかな?ボキャブラリなさ過ぎて、ごめんなさい。
「じゃあー、緑精霊さんは『ヒスイ』「幸福の石」と言われる石の名前よ」
『わーい!ヒスイ』
「水精霊さんは、『アクア』アクアマリンという「天使の石」と呼ばれる石の名前よ」
『わたしにピッタリ!アクア』
「これからよろしくね!」
「エレン…あのね、」
「うん」
「他の子達も呼んでくれない?」
「はい?」
子供らしからぬ声になってしまった。だって、それって…。所謂チートというやつでは?
それって目立つと思うんだけど、大丈夫かな?あたしの目指すまったりが遠くなる気がする。
ちらりと精霊二人を見れば、期待に満ちた顔でこっちを見ていた。
はい、降参します。
可愛いは正義!昔から可愛いものには、目がない。
「どの子が来てくれるの?」
「「みんな!」」
皆って、どこまでがみんななの?!
精霊の種類というか数とか、詳しくわからないのだけど!
あたしが知っているのは、火と魔術を司る精霊と風と大気を司る精霊。
「うんとね。取りあえずあと二人じゃなくて、三人!本当は光も闇も来たがってたけど、年齢的に負担が大きいからダメだって」
「誰が?」
「偉い人」
偉い人が物語に出てくる精霊王とかじゃなければいい。精霊王があたしを知っているとか、恐れ多すぎるし、しかも絶対に平凡な生活が送れそうにない予感しかしないから、邂逅するのは避けたい。
「じゃあ、呼ぶね!」
アクアがミッションイン達成とばかりに、ドヤ顔で聞き取れない音を発した。
出てきたのは、紅いマントを羽織った少年。どうやら火と魔術を司る精霊さんのようだ。
「あなたの名前は『ルビー』情熱と勝利を意味する石の名前よ」
『ルビー、僕にピッタリな名だ』
次に出てきたのは、どの精霊よりも美しく大きな羽をもつ少女で、風と大気を司る精霊。
思いついたのはオパールだけど、可憐な少女にはもうひねり欲しい感じ。
じぃ――――と見られてる。
えーと、えーと。
「あなたの名前は『ウパラ』自由を象徴とするオパールの語源となった言葉よ。宝石という意味があるわ」
『ウパラ!自由を愛する私にピッタリね』
最後の一人。
えーと…。完全に皆さんと一線を画してますよね。
どうしてこんな大物が現れているの?負担になるからと言って、光も闇の精霊は控えたと聞いたのは、聞き間違いかしら?
『我はキリル・フィラレーエフだ。キリルと呼べ』
呼べと呼ばれて、呼べるような風貌をしていませんが、何の精霊様でしょう。
耳元でこっそりとウパラが「風の上位精霊ということで」と呟く。
確かにうっすらと見える羽は、風の上位精霊といってもおかしくないほど綺麗ですが。
見た目からして青年の域にきてますし、キラキラと輝くエフェクトが見えるようです。
今の姿が5歳児だから耐えられますが、もう十年もすれば間違いなくこの青年の精霊様の隣には立っていることは出来ないでしょう。
全身ダイアモンドで身なりを整えなければ、負けたと跪く運命しか見えません。
『ほら、呼んでみろ』
周りの名付けた精霊たちがハラハラとしながら、固唾をのんでいます。
呼んだら最後。そんな言葉が浮かんでくるのですが、呼ばなきゃダメですかね?
みんなが一寸の狂いもなく、大きく頷いた。
ですよね。
最後に出て来るなんて、卑怯だ。
でも、綺麗な物にも目がないあたしに抗うことは出来なかった。
『キリル』
「そなたは未来の花嫁ぞ」
ロリ…いえ、何でもないです。
こうして周りに埋もれるぐらいの容姿の侯爵令嬢は、精霊王と出会ったのだった。
どこかで会ったことがあるなんて、気のせいよね?
だって、こんな綺麗な男性を見たことないもの。
まるで、乙女ゲームの主人公のように。
この邂逅が悪徳令嬢の運命を変えていくことになる。
これでエレンの最悪な運命は狂わせることが出来る。
俺は誓ったのだ。
この世界にやってきたおまえの魂を今度こそ守ると!
悪役令嬢なんて『希吏』に似合わないし、絶対にさせない。
前世なんてこれ以上、思い出さなくて良い。
おまえは、おまえらしく俺の傍で輝いて欲しい。
逃がさないからな。10年なんて、あっという間だ。
今度こそ幸せになろうな。エレン。
拙い話を読んで頂き、ありがとうございました。