1話
魔王直属四天王の一人ミソッカスは王都から遠く離れた国境沿いの町にいた。
その町はかつて炭鉱として栄えたが、廃坑になった途端に人々は町から離れていった。
ゴーストタウンになった町に残された家屋には各地から集まったならず者たちが群がるようになった。その中でもとりわけ大きな屋敷、炭鉱の経営者が使っていたものには一際凶暴な男が住み着いた。魔王直属四天王の中でも最強最悪の男、そう自称するミソッカスである。
ミソッカスは周辺の警備隊を全滅させ、町を完全に自分の支配下に置いてしまった。
その噂は王都にも伝わってきた。
ゴーストタウンになった炭鉱町カーウェイが無法者に支配されてしまった。そして、その無法者は魔王直属四天王を名乗っていると。
時の王様は何よりも、魔王直属四天王という言葉に興味を惹かれた。重い税金と王家・貴族の散財によって非常に民衆からの評判が悪かった王様だったが、魔王という敵を立てることによって、民衆の敵意を反らせると思ったのである。
そして何より、王は自分の息子である第一王子の才能に絶対の信頼を寄せていた。王子が邪悪なる敵、魔王を打ち倒せばきっと王家の人気はうなぎのぼりになるだろう。そう考えた王様は王子を勇者として任命して、魔王討伐の任を与え、カーウェイに向かわせたのである。
王子も最初は乗り気だった。何よりも勇者という響きが甘美なものだったし、魔王を倒せば早々に譲位するとボンクラの父親が言ってきたからだ。
しかし、1ヶ月もあれば終わると、大した下調べもせずに意気揚々と出発したミソッカス討伐の旅は多難を極めた。
まず問題になったのがカーウェイがあまりにも僻地にあったことだ。
カーウェイにたどり着くためには非常に狭く曲がりくねった道を進んでいかねばならず、馬車を走らせることができなかった。そのため、王子は仕方なく馬車から降り、自ら馬の背に乗って進まなければならなかった。
それだけで済むなら良かった。何よりも王子の心を痛めたのはこよなく愛していた香水や酒を手放さなければならなかったことだ。馬車を手放すことで、随従たちが手分けして持ち運ぶことができるのは旅の必需品だけだったからである。
王子は怒りに燃えた。自分にこのような惨めな思いをさせるミソッカスをズタズタに切り裂いてやらなければ気が済まなかった。その思いがあったからこそ一行は旅を続けることができた。
それでも一行の足取りは早くはならなかった。長旅になれない王子が風邪に倒れ、カーウェイへと通じる森が大雨によって沼地となって襲いかかり、カーウェイの隣町にたどり着いた頃には既に満身創痍だった。王子は3ヶ月もかかってしまった道のりを思い出し、広大な国土を築き上げた歴々の先祖たちを呪い、大して役に立たない随行の者たちを罵ったが、最後に笑って言った。明日にはこの旅の目的も果たして王都に帰れると。