次が1話
「クソ爺。やるじゃねぇか」
勇者は老ぼれを睨んで吐き捨てる。
これまでも、いつもそうだった。スムーズにいくと思っていたのに予想外に手間取ってしまうのだ。この魔王に関わる者たちを相手にすると。
もちろん。それでも勇者はこれまで幾度となくそれらを打ち砕き、勝ち進んできた。
しかし、勝つのは当たり前であると認識している勇者にとってそれは何の慰めにもならなかった。
高貴な王族として生まれ、あらゆる学問に通じ、馬術、剣術においてもあらゆる専門家、将軍たちを圧倒してきた勇者にとって、思い通りにならない戦いの日々は、耐え難い苦痛だった。
「ふぉっふぉっふぉ。考え直す気になったかな?」
勇者の苦い顔を見て、コトが有利に進んでいると認識したのだろう。魔王の名を冠する老人は一転して余裕の笑みを見せる。その所作の全てが勇者をイラつかせる。
(たった一撃、凌いだだけだというのに、なぜこの老人はここまで調子に乗るのだろうか?)
そして、勇者は思い出す。これまでの苦々しいイライラとの戦いの日々を……。
彼の勇者としてのレガシーは魔王四天王の一人と名乗る不良青年の番長格を締め上げることから始まった。