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我輩は魔王である  作者: もしかしたらエタニティ
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魔王登場

「よくぞここまでやってきた。我輩が魔王である」

 ここは王都の隅にあるスラム街。

 その中でも一段と埃っぽくて、荒くれどもすら歩くことがない辛気臭さが漂う通りのボロ屋の中である。

 王によって勇者の認可を戴き、世界各地を回って魔王の配下たちと戦い、ついにたどり着いた魔王の本拠地がここだった。


「覚悟しろ魔王。お前の命はこれまでだ」

 そう言って勇者は足の一本かけた腐った椅子に座る、目も見えているか定かではない老人を見下ろした。正直に言えば、放っておいても後1年もすれば勝手にくたばってしまいそうな雰囲気である。

 しかし、それはそれとして彼はやはり魔王であった。

 何よりも、玄関に掛けてあった文字のかすれて傾いていた表札が彼が「魔王」であることを示している。

 そうであれば一切の手加減は無用である。その見た目がたとえ、ただの乞食の老人でしかなかったとしてもだ。


 勇者は剣を鞘から抜き放ち、ためらうことなく上段に構える。

 すると、魔王は狼狽したかのように、言を紡ぐ。

「待て、私の仲間にならないか? そうすればお前に私の財の半分を分けてやろう」

「ふ、何を言い出すかと思えば……」

 剣を振り下ろす腕を止めて、勇者は荒屋の中を見渡す。4歩もあるけば端から端まで辿り着いてしまうほどの狭い部屋の床には、足の踏み場もないほどに物が散乱していた。そのほとんどが酒の空き瓶であり、魔王がどうしようもない飲んだくれであるというのがうかがい知れる。

 それはつまり、王子として将来国の財の全てを継承することを約束されている勇者にとって、何の価値もないものだった。


「寝言は寝てからいいな、爺さん。俺の人気集めのために死ね」

 そう言って、勇者は中空に止めていた剣を無造作に振り下ろした。


「……。何!?」


 振り下ろした剣が魔王の脳天に直撃することはなかった。

 全く見えない魔力の壁に防がれていたのである。

 そう、このあとさき短いように見える老人は魔王なのである。

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