〜夏の蟬時雨〜
その日は、青空に薄っすらと雲がかかっていて、でも日差しは強くて。蟬時雨が五月蝿い夏の日だった。
__そう、僕が君に恋したのは。
目が覚めて体を起こし、窓にベッドから体ごと視線を向けた。其処には、あの日と同じような景色が広がっている。思わず見入っている僕は、今日もまた学校には行けない。
かなり暇を持て余している時。
「狭依。おはよう」
もう聞き覚えた声の主に視線を変える。白衣を着て名札があり、少し長いような短いような黒髪の琳堂千春先生。僕の主治医。
僕の名前は風咲狭依。俗に言う“貧弱”な為通院していたけれど、発熱続きや貧血などが増えた為入院となってしまった。
「おはようございますっ、ちはにぃ」
笑みを向ければ少し困った顔をされるのは何時もの事だ。
「今日は?どう?」
「はい。熱は治まった気がします。けど、貧血が酷さを増して…」
それでも、と一息ついてから後をつなげた。
「いつものことです。僕だってもう慣れっこですから、心配しないで下さい」
右腕でガッツポーズをしてみれば、ちはにぃは頭を撫でてくれた。だって、安心させたいから。僕を拾ってくれた、ちはにぃを。
「心配するに決まってるだろ。俺はお前の主治医なんだし。それに、関わった人なんだ。誰だって心配する。そういう、普通の事しか出来ない残念な医者なんだよ、俺は。」
いつもそうだ。ちはにぃの目には映ってるようで何も映っていない。目を細めて頭を撫でてくれる笑みだって悲しそうな顔が薄っすらと見える。
でもこれが、僕の、僕らの日常なのである。