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ソリューシアの企み

しまった……二週間過ぎていました。申し訳ありません。

「それで……返事は?」

「え、ちょっと待ってよシア姉さん。あんまり唐突過ぎて。それにこの国のこと全然僕知らないんだよ?」

「まぁ……それもそうね」

「うん。だから保留ということで。でも、一応内容を教えてもらえると助かるよ」

「ええ、内容も含めながら簡単に教えるわね。まず、ここは王国『ソレイユ・ユートピア』のアールツヴェルン領。そして、王国の現王に座しているのはランディルという男よ。ランディルは民たちに対し重税をかけ自殺者、逃亡者が増加しているの。しかし、アールツヴェルン家は王国に中世を誓っているため反乱の狼煙を挙げられない。そこで、あなたの知恵を少し借りながらランディルを討ち倒し革命を起こそうというわけ。その革命軍のリーダーをあなたにやって欲しいのよ」

「……え!?革命軍!?待って。それじゃ、順番が間違っているんだけど」

「え、何の?」

「もし、僕が養子に迎えられているのなら、反乱の狼煙を挙げられない。だから少なくとも僕を養子に迎え入れるのであればこの革命が終わったあとだ」

「そ、そうね……そうよね……」


ソリューシアの顔色がどんどん沈んでいく。


「ん……どうしたの?」

「い、いえいえいえいえ!何でもないわよ!じゃあ養子にするのは後ってことで。でもメーティスって名前は決まりなんだからね!あとちゃんと今まで通りシア姉さんって呼ぶこと!」

「うん、もちろん」


そう言ってメーティスとソリューシアは互いに笑い合う。

そんな光景を見ていたヒースは昔を懐かしむように目を細めていた。

まるで、ソリューシアの父ソリューガルと妻のアリシアと何ら変わらない日常がまるで生き写しかのように行われていた。

この方々ならいずれかこの王国を変えてくれるだろう、そんな期待をしてもいい。

このような光景がここだけでなく、街中でも見ることができれば……。

これからの自分の期待の星となる目の前の二人を信じ、静かに目を閉じた。


◇ ◇ ◇


「それで、メーティス。これから私たちはどうすればいいと思う?」

「え!?そこから!?」

「思いつきで言っちゃったから。えへ」

「……はぁ、まったく。シア姉さんは当主でしょ?それくらい考えとかなきゃ」

「ごめんなさーい」

「全っ然反省してないな……」


そのような二人のほのぼのとした会話が繰り広げられているなか、ヒースから提案がでた。


「それでは、メーティス様にはこの王国の現状をもっと詳しくお話しましょう」

「そう!それがいいわ!じゃあ私は仕事が入ったから──」

「──いいえ、お嬢様も復習を兼ねてしっかりとお聞きください」

「うげ……」


ソリューシアの変な声にメーティスは思わず吹き出してしまった。

「はは、もしかして……シア姉さんって座学苦手?」

「な、なによ!当主が全員座学がピカイチなんて思わないでよね!」


ヒースはこれはダメだなとばかりに頭を抱えている。


「まぁまぁ、シア姉さんがわからなくても僕がわかると思うからその時は教えるよ」

「と、年下から座学を教えてもらうなんて……」


そんな会話が始まりソリューシアが青ざめて涙目になってきたので、メーティスは少し困ってしまった。


(シア姉さん……情緒不安定?)

「はいはい、では始めますよ」


こうして長い長いヒースの座学の授業が始まったのであった。


◇ ◇ ◇


それから地球でいえば2時間ほどたったころであろうか。ようやく、メーティスとソリューシアの二人はヒースの座学の授業から解放されたのである。

なんとこの世界では1年が1800日周期だという。

ということはソリューシアの歳は……それを思うだけでメーティスは背中から寒気が走った。


「あぁ〜っ!疲れた疲れた!メーティス私疲れたよぉ」

「一当主がそんな事言ってはいけません」

「うう……」


メーティスは涙目になりながら腕に抱きついてくるソリューシアに対し、緊張して顔が紅く紅潮した。


「あれ?メーティスまた熱があるの?」

「い、いや!?全然ないよ!ピンピンしてる!ほら!ほら!」


メーティスはその場を誤魔化すため、腕立て伏せを何回もした。


「そう、それなら良かった。病み上がりだからね。無理しちゃダメよ」


ソリューシアはメーティスを優しく抱いて頭をそっと撫でた。


「う、うん。ありがと。シア姉さん。僕、頑張るから」


そう言って、お互いの部屋に戻ろうとした。しかし大事なことに気がついた。

メーティスが寝ていたのはソリューシアの部屋であり、二人ともそこが寝室と思っていたため同じ扉のドアを握った。


「「あ……」」

「ど、ど、ど、どうしゅる?わ、わ、私と一緒に眠る?」

「い、い、いやいや?ぼ、ぼぼ僕は床で雑魚寝でもす、するから大丈夫だよ?」


二人とも噛み噛みしながら、突然の出来事に頭が混乱していた。

その夜、同じ一室の部屋で楽しく話しながら笑っている男女の声が部屋の外まで聞こえていたという。


◇◇◇


夜が明け、鳥の鳴き声が朝の目覚まし時計の代わりとなり、ソリューシア部屋のカーテンを開けるとこの世が今でも民が苦しんでいる様な世の中なのだろうか。そう思えてくるような朝である。

だがいつもの朝と違うのは銀色の髪の青年ことメーティスが朝から白髪の執事ことヒースと魔法の練習をしていたことである。


「おはよう、って何の魔法の練習してるの?」

「あ、シア姉さんおはよう。今風魔法をヒースから教えて貰ってるところ」

「メーティスって魔法も使えるのね!」

「使えるといっても初級魔法と簡単な中級魔法くらいだと思うけど……」

「ヒースから見てどうなの?才能ありそう?」

「ええ、素晴らしく読み込みが早く、またメーティス様は空気の流れを読むのがお上手なので風魔法は中級程度大丈夫ではないかと、それにもしかすると……」

「すごいじゃない!メーティス!」

「それに、誠に言いづらいのですがメーティス様はお嬢様よりも格段に銃の使い方が素晴らしいです」

「な、な、ななんですって!?ま、まぁ……さすが私が見込んだだけあるわね!」

「は、はぁ」


メーティスはまた間抜けな返事をすることになってしまった。


「ところでメーティス様。風魔法をお使いになって何をなさるおつもりですか?」

「あ、それ私も気になる」

「それは魔法ができるようになってからのお楽しみということで」

「つまんないのーぶー」


ソリューシアは頬を膨らませる。その表情を見ただけでも普通の男共は虜となるだろう。

それを独り占めしている罪悪感はこれから一生つきまとっていくものだとこの時決心した。


「メーティス様。魔法というのはイメージです。自分の中に存在する魔力を自分のイメージによって形づくるのです」

「イメージ……か」

「まずは普通の風を起こすことからで構いません」

「わかりました」


メーティスは目を閉じ、右手をかざしイメージを膨らませるため集中する。頬に汗が一筋流れる。

魔力を右手に流すと、涼しいとはまだ思えはないがそよ風ほどの風を繰り出すことは出来た。


「おお、最初にしては言い出来ですよ」

「いえ、こんなものではダメです。もっともっと鋭くかつ少量に抑えなければ」

「そんなに焦っては集中も途切れましょう。いいですかメーティス様。確かにメーティス様には目標ができました。しかし、その目標とはあなたの願望ではなく、民達の、いやお嬢様の願いでもあるのであります。焦られる気持ちもお察ししますがもっと自分のお体のこともお嬢様のためにお気になさってください」

「はい……」


ヒースはその言葉を聞きほっとした。執事としてのお嬢様の泣くような姿は想像したくない。そしてその姿を阻止できたと。

ただ、次にメーティスが発した言葉にヒースは驚くこととなる。


「ただ……これは練習ですよ。練習の間には無理は付き物なんですから。これから行うのは革命だ。革命というのは戦争です。戦争で無理したら確実に死ぬこととなります。だからこそここで無理することで、確実に無理をしなければならない時、また違う自分が見えているのではないでしょうか?」


ヒースは目の前の青年を面白いな、というような顔で見る。

「その心意気、私は感動いたしました。どうやら私達とは少し違う考えをしているようだ」

「そうですか?でも……僕は少なくとも自分が言ったこと位は信じてやり遂げて見せます。所謂有言実行って奴ですね」

「ユウゲンジッコウ……いい響きの言葉だ。どういう意味か教えていただけないですか?」

「自分で言ったことは必ずやり遂げる、そういう意味です」

「では、そのユウゲンジッコウとやらを果たすためにも頑張っていきましょう」

「はい!」


こうして二人は、また風魔法を習得するため早朝の練習を始めた。

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