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「運命と出会い」参

ソリューシアは新しくカルティエを侍女とし、いい気分であった。


「今日はなんだかいい日かも」


地下から上がる階段を上り終えた時ヒースが待っていた。


「お疲れ様でございます、お嬢様。お機嫌がよろしいようでなによりです。それで、あの者はいかがなさいましたか」

「あの子ね、侍女にしちゃった」

「ほう」

「反応それだけ!?もっとなぜしたのです?とかあるんじゃないの?」

「いえ、ただお嬢様は心がお優しいのでそうすると思っていたまでです」

「そ、そうかしら。ふふ……」

「お喜びのところ失礼ですが、お嬢様をお助けになられた青年がお目覚めになられました」

「なんですって!?」


ソリューシアは一貴族の当主ということを忘れる程の大声を出した後、青年がいる部屋へと駆け出して行った。

そこに取り残されたヒースは駆けていく主人を見て微笑み、地下の方から救助要請の声があがったため地下の方へと階段を下りて行った。


◇ ◇ ◇


ヒースが部屋を出てしばらく。

青年はだんだんと朦朧としていた意識も回復してきて、体も起こせるほどにはなった。

早速体を起こしてみると、かすかに部屋の扉の外からダッダッダッと近づいてくる足音がする。


「なんだなんだ……?」


そして、部屋の前の扉で足音が止まったと思えばノックもしないで勢いよく部屋にソリューシアが入り込んできた。


「大丈夫!?怪我は治った!?喋ることできる!?聞こえてる!?」

「待ってくださいよ。そんなに一遍に質問されてらどれから返答すればいいかわからないじゃないですか」

「あぁ、ごめんなさい。あなたが目覚めたってヒースから聞いてビックリしちゃったものだから」

「いえ、大丈夫です」


とりあえず青年は目の前の女性に対し笑いかけた。

改めて目の前の女性を見ると、自分よりは少し年上な感じで、全力で走ってきたためか息が切れ頬が紅潮し、まるで深海のように洗練された蒼い瞳が見とれるほど透き通っていて、その瞳で見つめられているため逆に緊張してしまう。

すると今度は目の前の女性が青年に向かって顔を近づけてきた。


「あ、あのなにを……」


突然のことに心臓の鼓動は速くなり青年は目を瞑った。

目の前の女性は青年の額と自分の額をくっつける。


「頬が赤いから、熱があるのかなと思ったんだけど……熱はなさそうね」


そう言って額を外し顔を遠ざけた。


「あ、これは、その……」

「どうしたの?」


目の前の女性は不思議そうに青年を見つめるが、ハッとした顔つきでもう一度青年を見る。


「そういえばまだ名乗っていなかったわね。私はこの屋敷の主人であり、この国の英雄六貴族のソリューシア・アールツヴェルンよ。あなたの名前は?」


「ぼ、僕ですか?僕の名前……」


(あれ……思い出せない、あの時の衝撃でか?)


「どうしたの?言いなさいよ」

「い、いえ……なんというか、覚えてない……です」

「覚えてないの?」

「はい……」

「でも、私の言葉はわかるのよね?」

「そうみたいです」


どうやら、今まで気付かなかったのだが、言語面ではお互いの言葉が通じあっているため心配はいらなそうだ。


「じゃあ……あなたはどこから来たの?空を飛んできたんじゃ、どこから来たかさえわからないから」

「どこから……?」


(どこからだろうか……全く思い出せない。なぜ自分は空を飛んでいたかも全て)

思い出そうとすると、鋭い痛みの頭痛がする。

まるでその部分の記憶には触れるな、そう思わせるように。


「うっ……!」

「だ、大丈夫!?頭痛いの?とりあえず今は休んでおきなさい」

「はい……すみません」


青年は、ソリューシアに支えられながら体をベッドに傾ける。


「どうしましょう……全く覚えていないなんて」

「なんか……すみません」

「いいのよ、謝らなくたって。あなたは何も悪くないわ」

「ほんとに……すみません」

「だから謝らなくたっていいのよ?」

「はい……すみま……ありがとうございます」


青年はソリューシアに苦笑いで答えた。


「それにしてもあなたの髪の色は銀色で、瞳は黄金色なんて。早々いるような姿じゃないわ」

「は、はぁ。そうなんですか」

「そうよ。だいたい髪の色は白、青、赤、金、緑、茶のどれかなんだけど……あ、この髪の色は住んでいる地域と得意分野を表しているの。ちなみに私は金色で銃撃が得意な人達なの、アールツヴェルン家は特にその中でも一級品ってわけ」

「ふむふむ、ならその一級品のソリューシア・アールツヴェルン様は飛んでいる鳥も撃ち落とすことができないということですね」

「え!?嘘でしょ!?あ、あの時見てたの!?」

「ええ、見てましたよ」

「悶え死にそうだわ……」

「死なないでくださいよ。少なくとも僕があなたに恩を返すまでは」

「死ぬわけないわ!私はこのアールツヴェルン領に住んでいる者を守ると誓う当主なのですから」

「そうですか。安心しました」

「安心?」

「ええ、安心です。もしソリューシア様が死ぬことがあれば民は悲しみましょう。しかし、それ以上に僕はソリューシア様が死ぬことを悲しみ、嘆く事になる。それはなぜか。僕はソリューシア様に助けられた。

それだけです。ですが、たったそれだけでもあなたから感じた恩は一生忘れられないものなのです。それはヒースさんだって変わりはないはずです。だから簡単に死ぬなんて言葉を使ってはなりませんよ?」

「わ、わかってるわよ」


ソリューシアは微かに感じていた。

この青年ならもしかしたら王国を平和へと変えてくれるような、そんな存在になるのではないかと。

民を導ける存在なのではないかと。


「そうでしょ?ヒースさん」

「ホッホッ、気配を消していたつもりなんですがね。よくおわかりになられて」


微笑みながらヒースが透明化を解いた。


「あなたどうして分かったの!?私でも気付かなかったのに」

「いえ、まぁ簡単に言えば空気の流れですね」

「空気の流れ……?」

「そうです。人が一人多くなるだけでも空気の対流がおこり、流れが変わります。ソリューシア様が髪の色について説明なさっている間に空気の流れが変わったのがわかったため、誰か入ってきた。そこで空気の反射を利用して透明化する魔法を使って隠れる。そんな大それたことが出来るのは空間魔法位だと推定できます。故に、空間魔法を使えるのはここではただ一人。ヒースさんってわけです」

「お見事でございます」

「ほんと……すごいわね」

「いえ、ほんの少し知識があっただけで。それに僕は空気の流れを読むのが少し得意なようです」


ソリューシアが突然手を叩く。


「あのね、提案がいくつかあるんだけど」

「何でしょう?」

「一つ目はあなたに名前を付けてあげようと思う」

「ふむふむ、名前ですか」

「そう、あなたがもし名前を思い出した時はそっちの方の名前を使っても構わないわ。でも今は仮という形で」

「いえ、ソリューシア様からつけていただいて、僕はその名前でこの世界を生きていきます。あなたのために」

「そ、そう。わかった。なら……そうね……メーティスていうのはどうかしら。古代に伝わる『知恵の神』という意味の言葉よ。あなた賢そうだし、いいと思うんだけど。ヒースはどう思う?」

「ええ、素晴らしい案だと思いますよ」

「それで……どうかしら?」

「はい、勿体なきお言葉。その名前、謹んで頂戴致します」

「決まりね。では、メーティス。次の提案なんだけど、私の養子にならないかしら?」

「え、養子ですか?」

「えぇ、姉弟として養子にいれようと思うの。あなたはなにかと……そのほとっけないからね」

「いいのですか?僕なんかを」

「いいわよ。だってメーティスは私の恩人だもの」

「は、はぁ……それではよろしくお願いいたします」

「これも決まりね。ついでに養子となったからには敬語は使わなくていいわよ。ついでに私のことはシアって呼んでいいから」

「では……わかった。これからよろしくねシア姉さん」


そう言ってメーティスはソリューシアに優しく微笑みかける。

(く〜っ!可愛い!それにこの言葉聞いてみたかったのよね!)


「ええ、よろしくねティス。それで……最後の提案なんだけど……今の王国を救うために一つ手を貸してくれないかしら?」

「え……」


メーティスは養子になったばかりではあるが、これほど辞めたいとすぐに思った事は多分初めてであろうと思った。


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