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2話 「運命と出会い」弐

本日は二話まで更新させていただきます。

次回また更新時はよろしくお願いします!

青年は身体を起こそうとするが思うようにいうことをきいてくれない。


「──どこ、だここ?」


まさに当然の疑問であった。意識はまだ朦朧としていて、流暢に喋ることすら許されていないらしい。手足もまだろくに動かすこともできずただただ息をするような存在である。

一度大きく深呼吸をする。香ってきたのは何の香りかはわからないが甘く、少なくとも嫌いなものではない。

首はどうやら動かせるようなため、周りを見渡してみる。朦朧とした意識の中ではあるがここが豪華な一室である事くらいは一目でわかった。


「さて、どうしたものか」


こんな豪華なものは自分とは程遠くかけ離れているものであり、そんな一室で寝ている自分はなにか場違いのような感じで身体は動かずとも心が落ち着かない。

上についてあるとてつもなく大きなシャンデリアが恐ろしい程この屋敷の主の権力や財力を現しているようでその落ち着かなさを加速させ、冷や汗すらもかいてきた程だ。

しかし、その思考を一瞬で断絶するような音がした。

コンコンと響くノック。とりあえず、返事はせず寝たふりをして、薄目で状況を把握することにした。


「失礼いたします」


扉を開け中へと入ってきたのは60代と思われる男性であり、自分が助けた女の子の隣にいた人だとわかった。


「薄目をしなくても良いですよ?」

「──!!」


(そんなばかな……)

青年は心底そう思った。


「なぜ……わかった……んです?」

「そんなに無理してしゃべらなくても良いです。ちなみに入った時からすでにあなたから視線を感じていましたので。ちなみにお嬢様はソリューシアアールツヴェルン様でここの主人であり私はヒースと申し、お嬢様の執事をさせていただいております。ちなみにここはお嬢様のお屋敷ゆえ、ゆっくりとおくつろぎください」


(つまり部屋に入られた時点ですべての思惑を見破られていた、というわけなのか)

この人は敵にしてはいけない、そう青年の脳内が警鐘を鳴らしていた。


「あそこまでの大怪我からここまで回復したのですから充分です。もう少しお休みになれば手足なども動かせるようになると思いますよ?それに、お嬢様は今お嬢様を狙った犯人に尋問中ゆえ、それが終わり次第こちらの部屋に来られると思いますのでそれまでお休みください」

「は、はぁ」


青年はヒースにすべてを見破られている、その恐ろしさに間抜けな返事しか出来なかった。

「では、失礼します」

ヒースは静かに部屋を出ていった。


◇ ◇ ◇


ソリューシアの屋敷の地下室では女性と少女の2人が机を境に椅子に座り向かい合っていた。

少女の方は手足を紐で縛られている。


「まず、あなたの名前は?」

「……カルティエ・シャルロティア」

「ではカルティエ。なんで私を狙ったのかしら?」

「……ソリューシア・アールツヴェルンを殺せ。さすればこの土地に再び平和が訪れるだろう。そう言い聞かされて、私はあなたを殺しに来た」

「誰がそんな事言ったのよ?」

「……その人、フード被っていたからわかんない。だけど今のこの土地だけでなくこの王都が混乱を期しているのは決して王のせいではなく側近である英雄六貴族のせいであるって言ってた」


その男の意見はほとんど的を射ている。だが、あくまでもほとんどの話である。

このアールツヴェルン領はもとはといえば王国の一部。王国〈ソレイユ・ユートピア〉の国王は代々世襲制となっている。前々国王であるゼルスファーゼもその一人であったが、ゼルスファーゼは治世の才能が無く、少しでも自分の意見に反対の要素がある者は斬り捨てられ、ついには自分の重臣までも斬り捨て始めた。

このことにより、それまで王国のために働いていた貴族たちの信頼を次々と失っていき、財政面などではもうこの国はもたないのではないのかと言われる程にまでなった。

さすがにゼルスファーゼもその危機を感じ取って政策を打ち出した。それは国民からの税を三倍にする、払えなければ即死刑という残酷な政策であった。この政策により王国を抜け出そうとする者の増加、国民の減少による税の負担の増加とさらに悪循環となってしまったのだ。

そんなゼルスファーゼの悪政をとめるため、革命軍『裁きの民』として立ち上がった六人の勇者達。国王ゼルスファーゼを討ちとり、その後民衆によって新たに選ばれた新しい国王であるランディストから授かった領地であるが、もとは革命を起こした一般国民である。そんな者達に他の国民をまとめられるような政治的能力は備わってはいなかった。

そのため、国王が変わっても状況が良くなるというわけではなかったのだ。

それでも、貴族たちの信頼を再び取り戻しつつあったのもまた現実である。

だが、ここで大きな問題となったのが前国王ランディストは赤子を産まず、そのまま崩御してしまったことであった。

そのことにより、ランディストに一番近い兄であるランディルが現国王となった。これがまた今の現状をさらに悪化させるものとなる。

ランディルはゼルスファーゼを崇拝していたため、ゼルスファーゼと同じような政策を取り始めたのだ。

しかし、英雄六貴族はそれぞれに領地を持っている。その領地では税なども一定に保たれていたため、まだ王都よりは住みやすかっただろう。

ランディルはそこに目をつけ、英雄六貴族の領地も例外なく税を三倍に引き上げることという御触れを出した。英雄六貴族は国王には逆らえない立場なため、税を引き上げざるを得なかったのだ。当然そうなると領地に住んでいる者達からは反感の声が上がる。そして、英雄六貴族のうちアールツヴェルン以外の五貴族は王国からの独立を宣言した。

だが、アールツヴェルンだけは王国への忠誠を誓った身であるのならばそれを果たさなければならないと独立を拒否した。

そのため、アールツヴェルン領への税の負担は増加し住民の反感もさらに強くなると同時に、税の負担から逃げ出すため麻薬を打ち一時の快楽に溺れ、そこから逃げ出せずに借金がたまりにたまって自殺をする者、自分の体を売ってそのお金から税を差し引き、やっとのことでその日暮らしをする者などまでもが増加したのだ。

国民が働き、差し引かれた税はランディルとランディルの重臣の私利私欲のために使われている。そんな現状がありながらも何も行動を起こさない反感は全てアールツヴェルン家へと向いてしまうのだ。

ソリューシアにはその荷が重すぎて、民からさえも目を逸らしてしまっていた。

その結果がこの騒動だとわかり、ソリューシアは少女に抱きつき、何度も謝罪した。


「ごめんなさい!ごめんなさいね、カルティエ。私はあなた達民の願いすら目を逸らしてしまっていたわ。このまま気づかなかったかもしれない。教えてくれてありがとね。ところであなたは親はいるの?」

「どちらも自殺した」

「そう……なら、私の下で侍女として働きなさい」

「そ、そんな!私はあなたを殺しに来た!」

「あなた、ヒースから聞いたけど銃の使い相当なものらしいじゃないの!別に二人しかいないから一人や二人増えたってそこまで気にしないわ。だから決めました。カルティエ・シャルロティア、あなたは今日から私の侍女として働きなさい。これは命令よ」

「はい……お心遣い感謝いたします」


カルティエからは大粒の涙が頬を伝った。


「ではまた後でね。カルティエ。私の事はシアと呼んでいいから」

「はい、わかりましたシア様」

「それじゃ」


トントトン、トントトンと軽快なステップで上へ続く階段へと向かっていくソリューシア。


「あ、あの……この紐誰かほどいてくれませんか」


カルティエの切ない願いは届くことはなかった。



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