二人の約束。
「逢いたいんだよ君に。だから、だからね…」
彼の言葉は、風にかき消された。でも私は聞き返さなかった。だって、彼のことなんてどうでもよかったから。
私は、自分で言うのもなんだけど、恋多き女だ。常に彼氏は2人以上いたし、いつも男には困らなかった。
え?ただの遊び人?
何とでも呼べばいい。でも確かなのは、ちゃんと相手を想っていたこと。確かに、すぐ冷めるし、飽き性だったけれど。
そんな中、彼だけは最初から好きじゃなかった。ルックスはまぁまぁだったから一応付き合うことにしたんだけど、性格は地味に思えたの。
「私、他に付き合ってる人がいるんだけど…」
デート一回目にして、私は彼にそう告げた。でも彼は苦笑いこそしてたけど、別に気にしないと言ってくれた。不思議な男だ。
「二股でもいいって言うの?案外軽い男ね」
私はさっさと諦めてほしくて、そんなキツいことも言ったりした。
でも愛してるから。
彼の答えだった。
そのうち、あまり彼とは逢わなくなった。私は他の男と遊んだりして、でも、なぜかうわの空。
逢いたくないと言って、拒絶したのはどっちだったかな?確か、私が言ったはず。でも、記憶が曖昧だった。
そして、久々に彼と逢った日のこと。風が強い日だった。
「もう別れようか?」
言ったのは彼だった。
「え?」
私は驚いた。胸に何かが突き刺さった。
「…うん、わかった」
それでも、私は強気を装う。でも確かに嫌な気分だった。
これが、傷つくということ?でも、何で?
彼が去っていく。私は、とっさに大声で彼の背に叫んだ。
「また逢いたいよ君に!だから、だからね…!!」
無様に思えた。でも、
「だから、ここでずっと待ってるから!!」
何故かそう叫んでた。でも、びゅうっと吹いた風に、たぶんかき消されただろう。彼は振り向きもしなかったから。
逢いたくないと言って、拒絶したのはどっちだったかな?確か、私が言ったはず。いや、違う?彼だったかしら?
曖昧な記憶。
「俺、他に付き合ってる人がいるんだけど…」
デート一回目にして、彼は私にそう告げた。でも私は苦笑いこそしたけれど、別に気にしないと言ってしまった。我ながら不思議だった。
「二股でもいいって言うの?案外軽い女だね」
どっちだったの?
どっちだったかな?
「逢いたいんだよ君に。だから、だからね…ここでずっと待ってるよ」
そんな約束を、確かにお互いが叫んでいた。風にかき消された、お互いの言葉。
一方的で、曖昧な約束を。