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向日葵が咲く季節、君はいなくなった

作者:



アレはちょうど1年前のコトだった。

私はあの日のコトを一生忘れないと思うし…凪砂も忘れるコトは出来ないだろう。



「おはよう、凪砂。」

「…おはよ。」


昨日から降り続いている雨の中、私達は待ち合わせ場所である公園から出て優香の御墓へと向かった。

私達の会話は親友の優香が死んでから素っ気ないものになってしまった。

高校2年の夏、優香は私達の前から消えていなくなった。

優香がいなくても当たり前のように過ぎて行く時間。

私は受け入れるコトが出来なかった。多分、それは凪砂も同じだろう。




今日は1年前のあの日と違ってどんよりと浮かぶ雲から雨が落ちていた。

傘に落ちた雨音を聴いて何だか優香が泣いているような気がした。

胸が締め付けられる様な気分だった。


前を歩く凪砂は傘で隠れていて、どんな顔をしているかは私から見えなかったけどなんとなく分かる。

凪砂も泣いているのだ。


私は手に持っている向日葵の花に視線を移し、じっと見つめながらボーッと昔のコトを思い出していた。



◇◇◇

私は人見知りがはげしく中学の時クラスでは一人でいるコトが多かった。

友達と喋りたかったのだが口下手なせいもあってなかなか友達が出来ずにいたのだ。

そんな時に出会ったのが優香だった。

『ねぇ、佳奈ちゃん。一緒にお昼食べていい?』

『…う、うん。』

『良かった。』

優香はそう言って私に笑いかけた。


優香は元気で可愛くて面倒見が良くて…要領をえない私の話もたくさん聞いてくれたし楽しい話もたくさん、たくさんしてくれた。

そして優香の幼馴染みだったのが凪砂だった。

優香と一緒に居るようになって自然と凪砂とも喋るようになった。男子と話すコトが苦手だった私が凪砂とは普通に喋るコトが出来た。それからは3人で一緒にいるコトの方が多かった。

だから私は気付いたんだ。優香が凪砂を好きだというコトを。

別に本人から聞いた訳じゃなかったけど私はそう思った。

でも、実際そうだったのだろう。

そして優香の想いが通じ高校に入学して間もなく二人は付き合うようになった。

それでも三人で居るコトには変わりはなかった。

学校が毎日楽しくて、時々三人で授業をサボったり一緒に勉強したり馬鹿な話をして笑ったり私はその時幸せだった。



いつからだったんだろう…。三人の歯車が狂い始めたのは。



『私ね、実は好きな人が出来たんだ!!』

『うそ!?本当?良かったじゃん!!んで、誰なの?』

優香は私に好きな人が出来たのを凄く喜んでくれた。

『…これで佳奈も私達から巣立って行ってしまうのかぁ。』なんて泣き真似しながら言ってた。


本当は違った。

私は凪砂のコトが好きだったんだ。

でも、そんなコト優香に言えない…そう思った。

それに優香も凪砂も大好きだったからこの"友情"を壊したくなかった。

だから、別に好きな人を作って気持ちを誤魔化そうとしたのだ。

三人で笑っていられたら良かった。

◇◇◇



「…あ、この公園。」「どうした?佳奈。」

「ん…何でもないよ。」

私が答えると凪砂はまた前を歩き始めた。

そして沈黙が雨音と共に二人の間に落ちる。



◇◇◇

『佳奈、今日の夜少しの間だけでいいから会える?話がしたいんだ。』

『…うん?いいよ。でもバイト終わってからになると思うから少し遅くなるかも。』

『分かった。じゃぁ後で時間とかメールするから。…また。』

『部活頑張ってね。』

凪砂からそう言われたのは優香が委員会で遅くなった時だった。

凪砂の深刻そうな顔に私は少し"不安"になった。けど、この時はその"不安"が何なのか分かってなかったんだ。


『…佳奈おまたせ!…じゃっ帰ろっか。』

『うん。』

私は優香を見て少しズキッとした。

凪砂と二人で会うというコトへの後ろめたさがあったからだと思う。

そこに私の凪砂への気持ちが無かったらこんなふうには思わなかっただろう。



『…まだ来てない、か。』

私は携帯を片手に人がいなくなってシンとしている公園に入った。

夜だが近くに民家も電灯もあり暗くはなかった。

私はベンチに座りボーッと凪砂が来るのを待っていた。



『ゴメン、待たせて。』

少し息の切れた凪砂が私に声を掛けた。

『大丈夫。』


進みだすには遅過ぎて─


『佳奈さ、好きな奴出来たんだって?』


進みだすには早過ぎた─


『えっ?…うん。』


どうして私達は歩みを止めるコトが出来ないんだろう…。


『優香が言ってたから…誰かは教えてくれなかったけど。』

『……。』

少しの沈黙に夏の夜風が通り過ぎて行った。

『俺さ、本当は佳奈が好きなんだ。』


私は一瞬凪砂が何と言ったのか理解出来なかった。

『昔から好きだった。』


私の抱いた"不安"はこのコトだったのだろうか?嘘だよね?──

『えっ?…でも優香と付き合ってるじゃない?』

『…うん、付き合ってる。優香のコトを嫌いになったとかじゃない。ただ、そんな感情がないんだ。』

『ね、私をからかってるの?』

凪砂が私をからかってないコトくらい顔を見れば分かった。

でも、そういう風に言うコトで私はこの"友情"を守ろうとしたのかもしれない。


『ゴメン。驚くよな?でも…嘘じゃない。』



進みだすには遅過ぎて─


進みだすには早過ぎた─


どうして私達は歩みを止めるコトが出来ないんだろう…。


好きな人は凪砂だけど、凪砂も私を好きだと言ってくれたけど、私には三人でいるコトの方が大切だった。

私は前と変わらず凪砂と接した。



そして数日後、優香と凪砂は別れた。

三人で居るコトはなくなった。

凪砂は別れる時、優香に理由を言わなかったらしい。

私は以前通り優香とも凪砂とも話していた。

元に戻したかった。


三人で居た頃に戻って欲しかった。

叶わない願いだとしても。


私は罪悪感におそわれていたんだと思う。

私のせいで二人の関係を壊してしまった…。

だから、凪砂にも自分の本当の気持ちは伝えなかった。




それから三人の仲を修復できないまま夏休みに入った。


あの日は良く晴れた日だった。

私はバイトに行くため外へ出ようとした時、手に持っていた携帯がなった。


凪砂からの電話は…私の頭を真っ白にさせた。


『─…優香が、事故にあった!!すぐ、病院に来てくれっ!!』

凪砂の慌てた声。

私は駆け出した。

その時、覚えているのは夏の陽射しが暑かったコトと頭の中では今までの出来事がフラッシュバックの様にチカチカと流れていたコトだけ。



『…っ、凪砂!優香は?』

凪砂の顔は青褪めてた。

陳腐な喩えだけど、青くなってた。

『ねぇ、優香は?!』

再び聞くと凪砂は首を振った。

私はその場に崩れ墜ちた。

何も考えられなかった。

涙とかも出てこなかった。


どのくらい座り込んで居たのか分からなかったけどいつの間にか優香の両親も駆け付けていた。

嘘だと思った。

あの時、凪砂に告白された時と同じ様にそう思った。

『今までのコトはドッキリだよ!』って笑って二人に言って欲しかった。

私、怒らないから…そう言って欲しい。


優香がいる所に案内された。

私は思う様に歩けなくてずっと凪砂の服の袖を掴んで俯いていた。




案内された場所に入って優香の顔を見た。

ただ寝てるだけの様に見えた。

全然、きれいじゃないって思った。事故にあったんならこんな風なはずないって思った。

『ね、優香…なんでこんな所で寝てるの?帰ろう?もういいよ?ドッキリとかって言って笑ってよ?嘘だよって言ってよ?ねぇ?!!!』

凪砂は泣きながら私の手をとって優香の顔に触れさせた。


驚く程、冷たかった。


そして、涙が溢れた。


優香は、本当に…─。

◇◇◇




「…佳奈?」

「えっ?!あっ何?」

「いや、花を飾ろうと思って。」

凪砂は私の持っている向日葵を指差した。いつの間にか優香の御墓の前にいた。

それほど私は考え事していたのだろうか。


「ゴメン、ボーッとしてて。…はい。」

私は向日葵を手渡した。

優香の大好きな花だった。

「今でも、この花好きかな?」

「…好きだろ?」

凪砂は花を入れながら答えた。

「だと、いいな。」

私は凪砂の傘を持ちながら呟いた。

「許してくれてるかな?」

「……。」




◇◇◇

優香の死から私は夏休みの間、何もするコトが出来なかった。

身体が動かなかった。

でも、その分頭は考える。


もう、本当に三人に戻るコトは出来なくなった。



私がいなければ。


死ぬべきだったのは優香じゃなく私だったのだ。


何故、私なんかが生きているのだろう?


それほど優香の存在は大きかった。



『…佳奈起きてる?凪砂君が来てるわよ?』

母の声で私はベッドから起きた。


『何…?』

『…話がある。』

『うん。』

『ちょっと出かけよう?俺、外で待ってるから。』


私はボサボサの頭を櫛でといた。

凪砂の顔はやつれてた。



『…話って何?』

歩きだす足は重かった。

久しぶりに出る外だった。

『優香が、死んだ日の事。』


凪砂の口から言葉が出た。改めて死んだのだという事実が突き刺さる。

正直、聞きたくなかった。

『……。』

私が答えずにいると凪砂は遠慮しがちに話し始めた。


[[[あの日、凪砂は優香に別れた本当の理由を言う為、優香を公園に呼び出したのだ。

そして、話をした。

『優香のコトは兄弟みたいに好きなんだ。それに…俺、本当は佳奈が…』

『聞きたくない!!』

『聞いてくれ!!優香が聞いてくれないとお前自身も俺自身も前へは進めない。』

『嫌だ!!前に進むって?私はどうすればいいの?凪砂はそれで進めるかもしれないけど私は進めないよ。』『分かってる…でも、』

凪砂が言おうとした時、優香はそのまま公園を出て走り出した。

その時、歩行者信号は赤だった。


『優香危ないっ!!』


キキ──ッ!!!!

ドンッッ!!!!]]]



『一瞬だった。俺の前から姿を消した。あの時、俺が何も言わなければ良かったんだ。俺のせいだ。だから…佳奈は自分のコト責めんな。』



それから私達は前の様に話をするコトはなくなった。

◇◇◇




「…優香、今までずっと言えなくてゴメンね。私さ、中学の時から凪砂のコト好きだったんだ。」

「─?!」

凪砂は私を見て驚いていた。

「今更、言うなって話だよね?…凪砂もゴメン。…私、優香に言いたかったけど…私にとって大事だったのは三人で一緒に居るコトだったから。…違う、偽善だったのかもしれない。許してくれなくてもいい。けど、今までもこれからも優香も凪砂も大好きだよ。」


帰り道、凪砂は相変わらず前を歩いていた。

「…凪砂、あの時言ったよね?『俺のせいだから佳奈は自分のコト責めんな。』って。」

「…あぁ。」

「私もずっと言いたかった。凪砂のせいじゃないって、責めないでほしいって。」

「……。」

「さっき、私は"偽善だったのかも"って言ったよね?優香に…。私はあの時、凪砂にいろんなコト押しつけた。自分の気持ちは何にも言わないで。だから、凪砂だけじゃない私のせいでもあったの。」

「…佳奈、ありがとう。」

凪砂は泣いてた。

私の手を力強く握って。

そして私も泣いた。



◇◇◇

『私、ヒマワリ好きなんだぁ。』

『何で?』

『また、優香が変なコト言い出した。』

『何よ!変なコトじゃないもん!!だってさ、ヒマワリって漢字で書くと向日葵って書くじゃない?うちらの名字に一文字ずつ入ってるんだよ?』


『あぁ〜本当だ!私が向井佳奈で優香が日高優香、凪砂は葵凪砂ね。』

『本当だ。』

『三人一緒じゃん?!だから凄く好きなんだぁ〜。』

そんな会話を三人で学校の帰り道、向日葵を見ながらした。

◇◇◇



私はまた来年も優香が大好きだって言ってた向日葵をもって優香に会いに行く。

やっと歩いて行けそうだと思った。

不器用な私達はこうするコトを繰り返し進むしかないのだ。立ち止まるコトなく進んで行く。




雨が止んだ──。


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして、九樹林ツバサと申します。 今回この作品を見せて頂いて、と 友の重要さが伝わってきました。 ただ、展開が急過ぎかな、という印象も同時に受けました。 とても良い内容なので、是非じっく…
[一言] 初めまして。江中田桂と申します。小説読ませて頂きました。 とても書き方が良かったです。もちろん内容も。人の感情の複雑さの描写がとても良いと思います。 これからもいい作品を書いていって下さい。…
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