会議
ライサム北部――ノマロード地区。
白い雪原の中心に、巨大な軍事施設がそびえていた。
ECO本部。
重厚な会議室の扉が閉まり、遮音ロックが作動する。
中央席に座る男が資料へ視線を落とした。
司令官ビユー・ジード。
「報告を開始しろ」
直立しているのは現場担当隊員。
大山 大地。
「対象――エミット・エデン。重傷状態で搬送後、原因不明の回復を確認。生命活動は安定しています」
司令官は即座に言う。
「問題はそこではない」
資料が机に映し出される。
少年の右手。
皮膚の下に埋め込まれた金属構造。
「このインターフェースだ」
医療主任が答える。
「既存ECO技術と一致しません。構造も素材も不明。製造者不明です」
沈黙。
司令官の目が鋭くなる。
「我々の知らない技術が存在する、ということか」
「……はい」
空気が重く沈む。
その時、軽い関西弁が響いた。
「ほーん……おもろいやん」
椅子に深く座り、笑う男。
右目に大きな傷。
盤上 流鹿。
「ただの外部の技術やのうて、もっと外の可能性もあるで?」
司令官が視線を向ける。
「外?」
「宇宙や」
一瞬で空気が変わる。
エイリ星人。
未知文明。
否定できない可能性。
別の男がラムネを口に放り込む。
赤い瞳。
赫月 鬼爆。
「でもさ、一番変なのそこじゃないよね」
パチン、と瓶を鳴らす。
「その子、初戦で倒してるんでしょ?」
大山が頷く。
「はい。単独でランクC相当のエイリ星人を撃破しました」
沈黙。
未訓練。
重傷直後。
あり得ない。
低い声が続く。
「戦闘記録を確認した」
姿勢を崩さない男。
ブレン・ドリアス。
「反応速度、出力、判断。いずれも一般人の数値ではない」
視線が鋭くなる。
「潜在適合率は極めて高い」
司令官が次の資料を開く。
黒い鉱石。
「黒色ラベジニウム。登録なし」
鬼爆が笑う。
「レアすぎない?」
流鹿が顎に手を当てる。
「盤面にない駒やな」
そして司令官が言った。
「父親の名前は」
大山が答える。
「エミット・リュートです」
空気が凍りついた。
鬼爆の笑みが深くなる。
「……マジ?」
流鹿の目が細くなる。
ブレンは静かに資料を閉じた。
司令官が低く呟く。
「……あの男の息子か」
偶然ではない。
誰もが理解した。
流鹿が笑う。
「ほな決まりやな」
司令官を見る。
「決まり?」
「せや」
少し身を乗り出す。
「こいつ――盤面ひっくり返す駒になるで」
沈黙。
数秒。
司令官は結論を出した。
「――入隊試験を受けさせろ」
命令は確定した。
ノマロード本部から下された決定。
それは一人の少年の運命を、大きく動かすことになる。




