継がれた力
「動くな!!」
複数の銃口が一斉に向けられる。
武装したECO隊員たちが廊下に雪崩れ込んできた。
だが――
床に倒れているのはエイリ星人。
そしてその前に立っているのは。
黒髪の少年一人。
「……は?」
隊員の一人が思わず声を漏らす。
「エイリ星人……撃破?」
「いや待て、ラベジニウム反応が……」
別の隊員が装置を確認する。
数秒の沈黙。
「反応源……この少年だ」
空気が変わる。
驚愕。
困惑。
警戒。
リーダー格の隊員がゆっくり近づく。
「君、名前は?」
「……エミット・エデン……です」
「高校生……」
周囲がざわつく。
「高校生……?」
信じられないという視線。
その時だった。
「エデン君!!」
聞き覚えのある声。
人混みをかき分けるようにして一人の隊員が駆け寄ってくる。
エデンを救助した隊員だった。
息を切らしながらエデンの肩を掴む。
「無事か!?」
「どこか痛むところは!?」
エデンは少し驚きながら答える。
「……大丈夫……です」
隊員は全身を確認するように視線を走らせる。
少しかすり傷を受けているがそれ以外の外傷は見当たらない
隊員は右手を見る。
「ラベジニウム.....」
一瞬、表情が固まる。
だがすぐに戻した。
「……無茶しやがって」
少しだけ安心したように笑う。
その時。
廊下の奥から叫び声。
「エデン!!」
エデンの心臓が跳ねる。
振り向く。
母が走ってくる。
その後ろから杖をついた父。
「母さん……」
母はそのままエデンに抱きついた。
「よかった……!!」
「生きてて……!!」
泣いている。
強く抱きしめてくる。
エデンは少し困ったように笑う。
「……ごめん」
父は少し離れた場所で立ち止まっていた。
無言で。
エデンを見る。
そして。
視線がゆっくり右手へ落ちる。
ラベジニウム。
父の目がわずかに揺れた。
ほんの一瞬。
だが確実に。
静かな声。
「使ったんだな」
一歩近づき。
肩に手を置く。
「……無事でよかった」
その言葉は本心だった。
だが。
その奥にある複雑な感情を――
エデンはまだ知らない。
病院の一室。
騒ぎが一段落し、エデンはベッドに座っていた。
母は少し離れた場所でスマートフォンを握りしめている。
「はい……はい……」
何度も頭を下げるようにしながら話している。
「すみません……しばらく登校は難しいと思います……」
学校への連絡だった。
担任。
事務。
保健室。
順番に事情を説明している。
エイリ星人襲撃。
入院。
経過観察。
母の声は丁寧だったが、時々震えていた。
電話を切ると、大きく息を吐く。
「……とりあえず、しばらく休学扱いにしてくれるって」
エデンは少し申し訳なさそうに笑う。
「……ごめん」
母はすぐ首を振る。
「そんなことない」
「生きててくれただけでいいの」
その言葉にエデンは少し黙る。
父は窓の近くに立っていた。
外を見ながら、何も言わない。
だが――
視線は時々エデンの右手に向いている。
やがて父が静かに口を開く。
「……少し、いいか」
母が空気を察したように席を立つ。
「飲み物買ってくるね」
部屋を出ていく。
扉が閉まる音。
二人きりになる。
しばらく沈黙。
父はゆっくり振り返った。
「……箱、覚えてるか」
エデンは目を瞬かせる。
「……うん」
思い出す。
幼い頃。
父に渡された小さな箱。
『もしお前の身に何かあって、困った時にはその箱を開けろ』
そう言われた。
「……あれの中身」
エデンは右手を見る。
黒球。
「これ……だよな」
父は数秒黙った。
そして小さく頷く。
「ああ」
声は静かだった。
だが重い。
「……本当は」
父は少し目を伏せる。
「そのラベジニウムは使うことにならないのが一番だった」
エデンは驚く。
「え……?」
父は椅子に腰を下ろす。
杖を横に立てかける。
その動作だけで分かる。
足が不自由な理由。
普通ではない。
「……俺はな」
父はゆっくり言う。
「そのラベジニウムを使ってた」
心臓が大きく鳴る。
「嘘だろ……」
父は椅子に腰を下ろす。
杖を横に置く。
そしてエデンの右手をじっと見る。
懐かしむように。
「三十年前」
父は静かに言う。
「俺はそいつと契約してた」
エデンの脳裏に声が響く。
『契約を確認』
同じ言葉。
同じ存在。
「……なんで……父さんが……」
父は少しだけ笑う。
「縁があったんだろうな」
そして続ける。
「戦いが終わったあと」
「俺はもう使えなくなった」
足を見る。
不自由な脚。
「だから封印した」
「次に必要になる奴のためにな」
エデンは息を呑む。
「……俺?」
父は頷く。
「多分な」
少し沈黙。
父の目が真剣になる。
「覚えとけ」
「そいつは道具じゃない」
「生きてる」
エデンの鼓動が速くなる。
父は続ける。
「俺は何度も助けられた」
「命もな」
その言葉には確信があった。
そして。
少しだけ優しい声になる。
「……多分、今もお前を守ってるだろ」
エデンは何も言えなくなる。
父は立ち上がる。
扉へ向かう。
そして最後に言う。
「仲良くしろ」
「いい相棒だ」
父は部屋を出ていった。
静寂。
エデンは右手を見る。
ラベジニウム。
その瞬間。
頭の中に声。
「……なるほど」
いつもより低い。
「記録の断片と一致した」
エデンは息を呑む。
「……覚えてるのか?」
数秒の沈黙。
そして。
「断片的にだが」
「以前の契約者は」
少し間。
「お前の父だった可能性が高い」
胸が熱くなる。
過去と今が繋がる感覚。
そして声は続ける。
「ならば納得できる」
「お前の行動原理が似ている」
エデンは小さく笑う。
「……そうかよ」
その時。
声が少しだけ柔らかくなった。
「安心しろ」
「前回も今回も」
「契約者の選択は間違っていない」
エデンの胸の奥に――
静かな確信が生まれた。




