契約
「……力が欲しいか」
耳元でも頭の中でもない。
だが確かに聞こえた声。
視線が自然と手の甲の黒球へ落ちた。
「……お前か?」
沈黙。
「……誰だよ、お前」
少し間を置いて、声が返ってくる。
「名前はない」
短く、感情のない返答だった。
エデンは思わず眉をひそめる。
訳が分からない。
だが――恐怖よりも先に、別の感情が湧いていた。
力が欲しい。
「……力が欲しいなら」
黒石の声が続く。
「契約すると言え」
それだけ言って――沈黙した。
拳が震える。
「俺は……」
その瞬間だった。
――ドンッ!!
廊下の奥から爆発音。
悲鳴が響く。
何かが引き裂かれる音。
そして。
重い足音。
ズル……ズル……
明らかに人間ではない音が近づいてくる。
病室のドアの向こうで影が揺れた。
エデンの呼吸が止まる。
恐怖が全身を締め付ける。
だが同時に――理解した。
今、決めなければいけない。
逃げるか。
戦うか。
エデンは目を閉じる。
そして――
「……契約する」
黒球が光り、エデンの手の甲へと吸い込まれるように動き
金属音と共にインターフェースへ完全に固定された。
次の瞬間。
ドォンッ!!
病室のドアが吹き飛んだ。
破片が宙を舞う。
煙の向こうから現れたのは――
エイリ星人。
四肢の長い異形。
歪んだ顎。
黒い外殻。
血の匂いをまとっている。
エデンの心臓が凍りつく。
(……無理だ)
そう思った瞬間。
声が響く。
「思考を止めるな」
「能力を使用しろ」
エデンは息を呑む。
「……どうやって」
一瞬の沈黙。
そして。
「イメージしろ」
「自分の限界を超えた力を」
エイリ星人が跳躍した。
床を砕きながら一気に距離を詰めてくる。
爪が振り下ろされる。
反射的にエデンは自分の拳を振り上げた
「くらえ.....!!」
相手の腕が一本吹き飛ぶ
エイリ星人のうめき声が上がる
「え......!?」
驚くエデン
「今のがリミットフォースだ」
「戦闘を継続しろ」
声は冷静だった。
エデンはゆっくり拳を握る。
力が溢れているのが分かる。
恐怖はまだある。
だが――
逃げたい気持ちは消えていた。
「……俺が」
息を吸う。
「止める」
エデンの足が床を砕いた。
ドンッ!!
爆発のような踏み込み。
一瞬で距離が消える。
「――ッ!?」
エイリ星人が反応するより早く。
エデンの拳が振り抜かれた。
ゴォンッ!!
重い衝撃音。
拳は外殻に直撃した。
その瞬間――
エイリ星人の体が吹き飛んだ。
壁を突き破り、
廊下を転がり、
医療機器をなぎ倒しながら十数メートル先で止まる。
動かない。
静寂。
エデンは荒い息を吐く。
「……俺が……?」
信じられない。
さっきまでただの高校生だった。
エイリ星人に重傷を負わされた人間。
それが今――
倒している。
声が告げる。
「戦闘終了」
エイリ星人が完全に動かなくなったのを確認した瞬間だった。
全身から力が抜ける。
同時に――
「っ……!?」
激痛。
右手の甲から始まり、
腕、
肩、
背骨へと突き抜ける。
まるで骨を内側から砕かれるような痛み。
「が……ぁ……!!」
膝が崩れ落ちる。
視界が揺れる。
呼吸がうまくできない。
「代償か....」
頭の中の声が響く。
だが。
その声は先ほどより僅かに歪んでいた。
「通常より負荷が大きい」
「初使用のため――」
言葉が途中で止まる。
その瞬間。
黒い光が右手から逆流した。
エデンの体から何かが引き剥がされる感覚。
痛みが――
消えていく。
「……え?」
代わりに。
頭の奥で鈍い衝撃音が響いた。
ズンッ
声がかすれる。
「問題ない」
だが明らかに先ほどより弱い。
「負荷の大半をこちらで受けた」
エデンは息を呑む。
「……お前……」
理解が追いつかない。
道具のはずだ。
ただの球のはずだ。
なのに。
(……庇った?)
沈黙。
数秒。
そして声。
「気にするな」
エデンは何も言えなくなる。
胸の奥に奇妙な感覚が残る。
安心とも違う。
信頼とも違う。
だが確かに――
一人じゃない。
その時。
廊下の奥からECO隊員たちの足音が響いてきた。
「こちらECO!状況を確認する!」




