合格通知
合格発表の日。
朝から、エデンは落ち着かなかった。
スマートフォンを何度も確認してしまう。
まだ来ていないと分かっているのに。
(……まだか)
手のひらにじんわり汗がにじむ。
『心拍数が上昇しているな』
頭の中に響く声。
ケイだった。
(そりゃ緊張するよ……)
『お前は最善を尽くした。結果は既に決まっている』
(分かってるけど……やっぱ怖いよ)
その時。
――ピロン。
通知音が鳴った。
一瞬、心臓が止まったような感覚。
震える指で画面を開く。
「入隊試験結果通知」
喉が乾く。
深呼吸。
そして――開いた。
画面中央に表示されていた文字。
『合格』
「…………え」
一瞬、理解が追いつかなかった。
もう一度読む。
間違いない。
合格。
「……受かった……」
力が抜ける。
そのまま椅子に座り込んだ。
胸の奥から、熱いものが込み上げてくる。
『当然の結果だ』
(……うん……)
エデンはすぐに立ち上がった。
「父さん!母さん!」
リビングへ向かう。
両親が振り向いた。
「どうだったの?」
母の声には緊張が混じっている。
エデンは、笑った。
「……受かった」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
母が口元を押さえた。
「本当に……?」
父がゆっくり立ち上がる。
「……合格か」
エデンは大きく頷いた。
「うん」
母が駆け寄り、エデンの手を握った。
「よかった……本当によかった……」
目に涙が浮かんでいる。
父はエデンの肩に手を置いた。
「頑張ったな」
短い言葉。
でも、重みがあった。
「お前が努力してたのは分かってた」
父は少しだけ表情を緩めた。
「誇らしいよ」
胸が熱くなる。
「……ありがとう」
母はすぐに真剣な顔になる。
「でもね、エデン」
「無理はしないで」
「危ないと思ったら逃げてもいいのよ」
父も続ける。
「命が一番大事だ」
「正義も大事だが、生きて帰ってくることが一番だ」
エデンは少し驚いた顔をしたあと――
まっすぐ頷いた。
「うん」
「ちゃんと帰ってくるよ」
その言葉に、母はもう一度微笑んだ。
『……良い家族だ』
ケイの声が静かに響く。
(うん……)
エデンは心の中で答えた。
(だから俺、頑張れるんだ)
その日は合格したという事実を嚙みしめ、ぐっすりと眠った。
合格通知を受け取ってから数日後。
エデンのもとに、もう一通の正式な書類が届いた。
差出人は――ECO本部。
封筒は厚く、公式文書特有の重みがある。
「……なんだろ」
エデンは封を切り、中身を取り出した。
数枚の書類。
その中の一枚に、重要事項として大きく記載されていた。
ECO入隊者に対する学業支援制度について
ECOに入隊した学生隊員は、特例措置として
・在籍学校の休学制度を利用可能
・出席扱いの自由登校制度へ移行
・ECO支部教育課程への編入
が認められる。
これにより、隊員は任務と学業を両立することが可能となる。
ECO支部では以下の教育支援が提供される。
・一般教科授業
・戦術理論基礎
・対エイリ星人知識教育
学力評価は提携教育機関へ送付され、進級・卒業に影響はない。
「……え」
エデンは思わず声を漏らした。
「学校……休めるのか……?」
その時。
『正確には休学ではないのだろう。出席形態の変更だ』
ケイの声が響く。
(でも……自由登校って……)
『任務を優先できるようにした制度だろう』
書類をめくる。
さらに詳細が書かれていた。
・通常授業への出席義務なし
・必要時のみ登校可能
・学習はECO支部で実施
つまり――
「……ECOで勉強もするってこと?」
『合理的だな。戦闘員に教育を施すのは当然だ』
エデンは少し考えた。
(学校のみんなと会う時間は減るかもな……)
少し寂しさはある。
でも――
胸の奥には、別の感情もあった。
(本格的に……始まるんだな)
現実感。
自分はもう、ただの学生じゃない。
人を守る側の人間になる。
その夜。
両親にも制度の説明をした。
母は少し安心した顔をした。
「ちゃんと勉強も見てもらえるのね」
父も頷く。
「学校との両立が心配だったが……」
「それなら安心だ」
エデンは笑った。
「うん。ちゃんとやるよ」
『……忙しくなるぞ』
(望むところだよ)
エデンは心の中で答えた。
新しい生活。
学生でもあり、隊員でもある日々。
それが――
もうすぐ始まる。




