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ダンジョン・リノベーター 〜住みにくい魔王城、改造します〜  作者: ラキラ
【魔王城再建編】 〜一級建築士の劇的ビフォーアフター〜

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乙女の部屋はトゲだらけ? ディアドラの断捨離と模様替え

その異変に、サトウが気づかないはずがなかった。


解体現場でのディアドラは、普段なら誰よりも正確で、誰よりも速い。

工具の持ち方も、手順の順序も、まるで身体に刻まれているかのようだった。

だが――この日は違った。


薄曇りの光が差し込む作業場。埃の匂いと木材の香りが混ざる空間で、ディアドラの動きは、どこかぎこちなく、慎重すぎた。


あくびを必死に噛み殺すその顔。金色の瞳の下には、うっすらとクマ。肩はいつもより少し落ち、足取りは鈍く、机の角や脚を無意識に避けながら歩く――まさかの警戒モード。


サトウは、足場の下から低い声で呼びかけた。


サトウ「ディアさん。」


ディアドラが顔を上げる。金色の瞳がわずかに揺れ、呼吸が一瞬止まる。


サトウ「その状態で高所作業は危ないですよ。集中力、落ちてますね……寝不足ですか?」


ディアドラ「い、イエス・サー!」


条件反射のように返事をした彼女だったが、数秒遅れてハッとした表情に変わる。

金色の瞳が泳ぎ、頬の赤みが角の先まで伝わる。


ディアドラ「……いえ、その……」


視線が、部屋の片隅や机の上、積み重なった書類やぬいぐるみの山へと落ちる。

手が微かに震え、腰に巻いた工具ベルトがわずかに傾く。


ディアドラ「サトウが以前話していた『生活動線』と『休息の質』について……考えてしまいまして。」


そして――意を決したように、ついに白状した。


ディアドラ「……自分の部屋が、恐ろしく住みにくいことに気づいてしまったのです。」


その告白に、サトウの胸に嫌な予感が走った。

視界に入る雑然とした部屋。机の角は尖り、床には本や雑貨が散乱し、ぬいぐるみが転がる。まるで小さな迷路のようだ。


サトウは、ため息交じりに作業道具を肩にかけ直す。

そして決意を固めた。


サトウは、その日の作業を切り上げ、ディアの私室へと向かった。


廊下の灯りに照らされる壁には、細かい傷や絵画の額縁。サトウはその一つ一つを眺めながら、頭の中で作戦を練る。


魔王城・西塔の最上階。

ここは――エリート中のエリートに与えられるはずの部屋。


サトウは扉の前に立ち、指先を伸ばす。

その瞬間、心の奥底で何かが警告音を鳴らした。


扉を開けた瞬間、理解は即座に訪れた。


サトウ「……これは」


目に映ったのは、部屋というよりも、紛れもなく処刑室だった。


ベッドフレームは漆黒の鉄製。

全面に鋭いトゲが突き出し、どの方向に寝返りを打っても確実に刺さるだろう。

椅子も机も、照明器具すら――まるで刺突兵器のようにトゲだらけだ。


視線を落としただけで、そこに触れれば即流血が避けられないことがわかる。


ディアドラ「寝返りを打つと……刺さります。」


小さく、控えめに――しかしその声には一切の迷いがない。

事実の重さだけが静かに響く。


サトウ「でしょうね。」


言葉少なに、眉間にしわを寄せる。

一歩床を踏み出すたび、足元には歴代の魔剣、斧、槍の山。

無造作に置かれているが、その一つ一つが、絶妙に踏みにくく、確実に痛い。


鉄と血の匂い、埃と古木の香りが入り混じる空間に、緊張が重くのしかかる。

サトウの視線は、部屋の隅々にある凶器の配置を瞬時に解析し――どうやって安全に通るかを頭の中で計算する。


サトウ「……これは、もはや寝るどころじゃないですね。」


ディアドラは机の端にそっと手を置き、冷静に現状を確認する。

金色の瞳は揺れない。むしろ、この“危険すぎる部屋”を日常の一部として受け止めているかのようだった。


床を見て慎重に歩こうとした――その瞬間。


サトウ「いっだぁ!?」


――見事に魔剣の上に足を置いてしまったのだ。

靴底に伝わる冷たい感触。思わず体が反射的に跳ねる。


サトウ「ちょ、ちょっと待ってくださいディアさん。これ、完全に事故物件ですよ!」


ディアドラ「強さの象徴なので……」


淡々とした声。角の先まで赤く染まりつつも、全く迷いがない。

部屋全体に散りばめられたトゲと武器の数々――まさに彼女の“戦闘力”を視覚化したような空間で、誇らしげに語る。


サトウ「強さ以前に、睡眠不足で死にます。」


息を整えながら、サトウは慎重に一歩ずつ床を進む。

トゲのベッド、トゲの椅子、トゲの机、そして踏むと確実に痛い歴代武器――

部屋全体が、乙女の精神と物理的危険を同居させた迷宮のようだった。


照明は、ドクロ型のキャンドルが一つだけ。

火を灯せば、壁や家具に映る影がひらひら踊り、文字までもが生き物のように揺れる。

読書? いや、火の揺らぎだけで失神しかねないレベルだ。


サトウ(……寝室というより、日常サバイバル訓練場だな。)


吐き出す言葉にも力が入る。

ディアドラの部屋――通称「乙女の地雷原」は、強さの象徴と日常生活の危険が奇妙に共存していた。


サトウは深く息を吸い、慎重かつ戦略的に歩き出す。

だが――次の一歩が、またしても鋭利な魔剣へ向かう。


サトウ「うっ……」


ディアドラは、トゲまみれのベッドに座り、金色の瞳で無邪気に頷く。


ディアドラ「この部屋、私の力の象徴でもありますから。」


その言葉に、サトウの眉がピクリと跳ね上がった。


サトウ「象徴もいいけど、乙女の睡眠は犠牲になってるんじゃないですか!?」


今日もまた、サトウの怒声が西塔の最上階に響き渡った。

静寂を切り裂くその声に、壁の影も微かに揺れる。


サトウは即断した。


サトウ「全撤去します。方向性は【北欧風ナチュラル】。異論は認めません。」


ディアドラ「ほ、北欧……?」


角がかすかに震え、目がきょとんと見開かれる。

普段なら一瞬で決める彼女も、この提案には言葉を失ったようだ。


サトウ「……さて、覚悟してください。乙女の部屋改造、スタートです。」


その瞬間、部屋の空気が微かに変わった――

トゲと魔剣に支配されていた西塔の最上階が、これから二人の手によって“安全な乙女の楽園”へと生まれ変わる戦場となるのだった。


数時間後――


黒鉄とトゲは跡形もなく消え去り、代わりに温かみのある木目調の床が部屋全体に広がっていた。

中央には、低反発ウレタンマットレスが静かに鎮座している。


ディアドラ「ト、トゲのないベッド……?」


まるで夢か幻か――そんな目で、金色の瞳がベッドを見つめる。

指先でそっと触れ、恐る恐る押す。その沈み込みに、思わず息を漏らす。


サトウ「いいから横になって。」


半信半疑ながら、ディアドラはベッドに体を預ける。

柔らかく沈み込む感触に、数秒後には完全に身を委ね、動けなくなってしまった。


ディアドラ「……ふわ……空を……飛んでいるようです……」


金色の瞳は半開きのまま、やがて閉じられる。

寝落ちした彼女の寝顔は無防備で、角の先まで呼吸に合わせてゆらりと揺れるだけ。

その瞬間、部屋には静かな幸福が漂った。


照明はLED調光・調色のシーリングライト。

明るさを落とすと、部屋全体を柔らかな間接光が包み込み、闇は消え、しかし安らぎだけが残る。


ディアドラ「闇が……消えているのに……落ち着く……」


壁一面には、整然と並んだシステム収納。

引き出しや棚には、魔剣や斧は“見せる収納”として美しくディスプレイされ、普段着や書類は奥に隠されている。

これまでの“戦闘空間”は、整頓された静かな居住空間へと変貌していた。


サトウ「魔剣は“見せる収納”。こっちは普段着」


ディアドラ「……普通の、服……?」


サトウが差し出したのは、淡い色合いの室内着。

ふんわりとした素材が、体を優しく包み込む。

武器や鎧の重さから解放される、初めての“人間的休息”。


ディアドラは小さく息をつき、目を閉じる。

角の先まで、微かに揺れながら、安心に満ちた呼吸を繰り返す。


サトウ(……やっと、落ち着ける空間にできたか。)


完成後――


ディアドラはモコモコのルームウェア姿で、ラグの上にちょこんと座っていた。

足元にはクッション、手にはサトウが淹れたインスタントのカフェオレ。

湯気がゆらりと立ち上り、部屋中にほのかな甘い香りを漂わせる。


ディアドラ「……これは……落ち着く……」


ふと天井を見上げると、照明の柔らかな光が角の先まで優しく届き、影は穏やかに揺れている。

深呼吸をひとつ――緊張と疲労が身体からふわりと抜けていき、全身がゆるりと沈み込む感覚に包まれる。


ディアドラはゆっくりと立ち上がり、金色の瞳に光を宿した。


ディアドラ「……サトウ。私は、強くなることとは耐えることだと思っていました。しかし……休まる場所があるからこそ、現場で戦えるのですね。」


その言葉に、サトウは軽く肩をすくめる。


サトウ「まあ……そういうことです。」


部屋の温かさ、柔らかさ、整った収納。

小さな照明の光が、日常の安心感をそっと照らす。

戦場での力ではなく、生活の中で生まれる強さ――

その意味を、ディアドラはゆっくりと噛み締めていた。


感極まった彼女は、思わずサトウに駆け寄る。


ディアドラ「サトウ……!」


抱きつこうと――その瞬間、ふかふかのラグに足を取られた。


サトウ「わっ――」


二人はそのままラグの上に倒れ込み、柔らかい感触に体を包まれる。

微かな笑い声が、部屋の空気に溶けるように響いた。


だが、その瞬間――


魔王ゼノン「サトウ、例の件なんだが――」


扉が静かに開く。

魔王は一歩踏み出すが、二人の姿に言葉を失ったらしい。

倒れ込む二人と、温かく柔らかな部屋――戦闘を思わせるものは、もはや何もない。


魔王ゼノン「あ……ごめん。……今、取り込み中?」


小さく頭を下げる。

サトウも、ラグの上で顔を赤らめ、目をそらす。

部屋の空気は静まり返り、だがどこか柔らかく、温かく――

西塔最上階の一角で、生まれたばかりの日常が、静かに息づいていた。


翌日――


ディアドラの部屋の快適さは、魔王軍中に瞬く間に知れ渡った。


魔族A「私も……その、断熱を……」

魔族B「収納を……お願いしたいです。」


希望者が次々に現れ、改修希望書が山のように積まれる。

気づけば、ディアドラの部屋の改善は、福利厚生制度として魔王軍に公式認知されていたのだった。


サトウは額に手を押さえ、ため息交じりに呟く。


サトウ「……福利厚生ですね。よし、寮の全室改修、やりましょう。」


全魔族が快適空間に包まれる未来――

考えるだけで少し憂鬱だ。

しかし同時に、やりがいは十分にある。

作業の手間も、設計の苦労も、これで報われるだろう。


その夜――


ディアドラは、新しい部屋で久々に、深く静かな眠りに落ちた。

ふかふかのマットレスに体を預け、柔らかなラグに足を伸ばす。

整頓された収納の安心感が、彼女の心を穏やかに包む。


夢を見ず、ただ静かに、安らかに眠る――

それだけで、世界は十分に優しかった。


安眠。

それは、戦いよりも尊い――乙女の戦果だった。


部屋の隅で微かに揺れるキャンドルの炎も、外の風の音も、

すべてが柔らかく彼女を抱きしめるようだった。

ゼノンのセリフがディアドラになっていたため、変更させていただきました。教えてくださった方ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
今日見つけて、面白くここまで読ませて頂きました。少し気になったのですが ディアドラ「あ……ごめん。……今、取り込み中?」 これ、ディアさんのセリフではなく、魔王ゼノンさんのセリフではないでしょうか…
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