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ダンジョン・リノベーター 〜住みにくい魔王城、改造します〜  作者: ラキラ
【魔王城再建編】 〜一級建築士の劇的ビフォーアフター〜

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迷宮(迷路)すぎる城下町に、Amazon(魔界便)を呼べ

その異変は、一脚の椅子から始まった。


魔王ゼノン「……届かぬ。」


低く、押し殺した声が仮設応接間に落ちる。


そこは玉座の間を一時的に封鎖し、佐藤の監修で整えられた簡易応接スペースだった。

床は水平。照明は均一。背中に変な冷気も来ない。


――だが、椅子だけがない。


魔王ゼノンは腕を組み、空席を睨んでいた。


問題の椅子は、サトウの【異世界マテリアル・カタログ】で出したものではない。

城の倉庫に眠っていた、数百年前に人間国から献上された「伝説級の玉座用椅子」。


見た目は豪華。

金装飾。宝石。重厚な彫刻。


そして――とんでもなく座りにくい。


腰を壊した魔王が「せめて背もたれのある椅子を」と命じ、倉庫から運び出させたのだが。


届かない。


ディアドラ「サトウ。輸送担当からの報告です。」


サトウ「どこで止まってます?」


ディアドラ「それが……」


ディアドラは一瞬、言葉を選び。


ディアドラ「“谷底付近で所在不明”と……」


佐藤は、ぴたりと動きを止めた。


サトウ「……ああ。」


魔王ゼノン「“ああ”とはなんだ。」


サトウ「それ、普通の物流ですね。」


佐藤はこめかみを指で押さえた。


サトウ「俺のカタログ経由なら、その場で出ます。設置も即完了です。」


事実だ。

工具も、資材も、厨房設備も――注文すれば即座に展開される。


だが今回の椅子は違う。


異世界にもともと存在する「物」。

倉庫から、人力か飛行で運ぶ、従来型の配送。


原因は、すぐに割れた。


配達担当はガーゴイル族。

重量物運搬は得意。

だが――


城下町は迷路。

国境付近は断崖。


結果。


迷子。

旋回。

高度低下。


落下。


サトウ「……谷に落ちましたね。椅子。」


魔王ゼノン「…………。」


魔王の沈黙は、怒りよりも深かった。


魔王ゼノン「五百年。」


ぽつりと呟く。


魔王ゼノン「五百年、この城は物を作り、溜め、奪ってきた。」


ぎ、と拳を握る。


魔王ゼノン「だが……運べぬとは、どういうことだ……!」


魔力が揺れ、簡易パネルが軋む。


だが佐藤は、冷静だった。


サトウ「問題は椅子じゃないです。」


魔王ゼノン「何?」


サトウ「この城、物流が存在してない。」


はっきりと言い切る。

サトウは、静かに――しかし、深くキレた。


怒鳴らない。

机も叩かない。

ただ、声の温度だけが、すっと下がった。


サトウ「……道が通ってない現場に」


一歩、前に出る。


サトウ「どうやって資材を搬入しろって言うんですか。」


仮設会議室に、重い沈黙が落ちた。


広げられた城下町の地図は、もはや地図と呼べる代物ではない。

曲がりくねった線。

意味不明な分岐。

行き止まりの連続。


防衛特化の迷宮都市。


侵入者を惑わせるためだけに、増築と破壊を繰り返した結果だ。


サトウ「ここ、行き止まり。」


指先が地図をなぞる。


サトウ「ここも袋小路。ここはフェイント用?……いや、住人しか引っかかってない。」


城下町の現実は、地図以上に酷かった。


市場へ行くのに、三時間。

一本道がないため、荷車は使えず、全て人力。


回復魔術師は路地に入れず、担架が引っかかる。

ぎっくり腰になったオーガは、曲がれない角で倒れたまま。


誰も悪くない。

ただ、道が悪い。


ディアドラ「不便こそが防衛なり!」


誇らしげに、胸を張る。


ディアドラ「敵を迷わせ、時間を稼ぐ!それが魔王城の――」


サトウ「違う。」


低い声。


ディアドラの言葉を、途中で断ち切った。


サトウ「それは“防衛”じゃない。」


佐藤は、ゆっくりとディアドラを見る。


サトウ「住人が迷う。運ばれない。助けが届かない。」


間を置く。


サトウ「それ、自傷行為です。」


ディアドラが言葉を詰まらせた。


反論しようとした口が、動かない。


サトウ「住人が死ぬ防衛に」


はっきりと、一喝。


サトウ「意味はない!」


その瞬間。


魔王ゼノンが、静かに立ち上がった。


怒りではない。

魔力も漏れていない。


ただ、重い決断の音がした。


魔王ゼノン「……五百年」


低く呟く。


魔王ゼノン「我らは、攻められることばかりを恐れてきた。」


地図を見下ろし、ゆっくりと続ける。


魔王ゼノン「だが……守るとは、こういうことか。」


視線が、サトウに向く。


魔王ゼノン「サトウ」


サトウ「はい。」


魔王ゼノン「城下町の改修を、命じる。」


一拍。


魔王ゼノン「防衛は捨てぬ。だが、生活を優先せよ。」


ディアドラが、息を呑んだ。


ディアドラ「……魔王様……」


魔王ゼノン「異論はあるか。」


誰も、口を開かなかった。


その日。


魔王城の歴史に、静かに刻まれた。


――城下町改修計画、始動。


迷宮は、街になる。


甲高い駆動音が、城下町に響き渡った。


ギィィィィ――ン!


道路カッターの刃が回転し、魔石で固められた舗装を容赦なく切り裂く。

火花が散り、削れた粉塵が宙を舞った。


かつて「不壊」と謳われた魔石舗装は、適切な工具の前ではただの硬い路面に過ぎない。


続いて――


ガコン、ガコン。


小型ショベルカーが前進する。

鋼鉄のアームが地面を掘り起こし、無意味に蛇行していた路地を一直線に貫いた。


それは、城門から市場までを結ぶ――最短距離のバイパス道路。


ガンツ「監督ゥ!この鉄の馬、最高だぜ!」


運転席から、巨漢のオーガ――ガンツが吠える。

その顔は、戦場で暴れる時よりも楽しそうだった。


ガンツ「力はいらねぇ!言うこと聞く!しかも疲れねぇ!」


サトウ「だから“機械”だって言ってるだろ。休憩時間は守れ。」


ガンツ「へへっ、わかってらぁ!」


ショベルが止まり、整地された道が姿を現す。


それを見て、周囲に集まった魔族たちがざわめいた。


「……まっすぐだ。」

「迷わない……?」

「敵も来やすくなるんじゃ……」


不安と期待が、入り混じる。


だが、佐藤は次の手を打っていた。


道沿いに設置されていくのは、蓄光式ピクトグラム看板。


緑色に淡く光る板には、単純な絵。


袋を持った魔族――市場。

水滴と人影――便所。

十字の印――治療所。


サトウ「文字読めなくてもいい。一瞬で理解できれば、それで十分です。」


ゴブリンが、恐る恐る看板を指差す。


ゴブリン「……これ……市場?」


サトウ「そうだ。」


ゴブリン「……迷わない?」


サトウ「迷わない。」


ゴブリンは、看板と道を見比べ――

信じられないものを見るように、息を呑んだ。


そして、夜。


太陽が地平に沈むと同時に、街が闇に沈む――はずだった。


だが。


ぽうっ。


一本、また一本と、柔らかな光が灯る。


ソーラー式街路灯。

昼に蓄えた光を、夜に返す。


炎ではない。

魔法でもない。


ただ、安定した光。


路地の奥まで、均等に照らされる。


「……明るい。」

「影が、怖くない……」

「夜でも、歩ける……?」


魔族たちは、立ち止まり、空を見上げ、灯りを見つめた。


佐藤は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。


耳に届くのは、機械の余熱が冷める音と、誰かの笑い声。


サトウ「……ようやく“街”だな。」


誰に聞かせるでもなく呟く。


――その時だった。


「魔王城の弱点を見つけたぞ!」


高らかな声が、夜の城下町に響き渡る。


ソーラー街路灯に照らされたバイパス道路を、白いマントが翻った。

聖剣を掲げ、迷いなく突っ込んでくる男。


勇者レオ。


整備された真っ直ぐな道。

均一な幅。

見通しの良さ。


――これまでの迷宮都市とは、まるで違う。


勇者レオ「愚かな魔王め!防衛を捨て、道を開くとはな!」


自信満々に笑い、剣を構える。


その進路上に、作業灯を背にして立つ男がいた。


白いヘルメット。

反射ベスト。

疲れた目。


サトウ「その道、住民専用だ。」


淡々とした声。


勇者レオ「は?」


意味が分からない、という顔。


次の瞬間。


サトウが、軽く指を鳴らした。


カチン。


音は小さい。

だが、それが合図だった。


勇者の足元で、道路のラインが淡く光る。


進行方向を示す矢印。

「→」

「←」

「直進不可」。


勇者は気づかぬまま、前進する。


そして――


環状交差点。


中央に植えられた低木。

円を描く滑らかな路面。


気づけば、勇者は自然と円を描くように走っていた。


勇者レオ「……ん?」


違和感。


さっき見た街路灯。

同じ看板。

同じ建物。


再び、交差点。


勇者レオ「……?」


分岐路に入ろうとするが、目に飛び込む標識。


一方通行。

進入禁止。

関係者以外立入禁止。


従うつもりはない。

だが、無意識に“道として正しい方向”へ体が流される。


再び、円。


また、同じ景色。


勇者レオ「……ちょっと待て。」


三周目で、ようやく異変に気づく。


勇者レオ「……で、出口は?」


息を切らし、剣を下ろす。


少し離れた場所で、サトウが腕を組んでいた。


サトウ「ない。」


勇者レオ「……は?」


サトウ「戻れない。」


事実を告げるだけの声。


道路は「侵入を拒まない」。

ただ、通過させない。


それだけだ。


五分後。


勇者は走るのをやめた。


十分後。


視界が揺れ、足取りがおぼつかなくなる。


勇者レオ「……お、俺は……世界を……」


ふらり、と膝をつく。


そして。


勇者レオ「う、うぇ……」


完全に、目を回した。


最終的に、彼は剣を杖代わりにしながら、ふらふらと元来た方向へ撤退していった。


――もちろん、正規の退出ルートから。


その背中を見送りながら、ガンツがぽつりと言う。


ガンツ「……戦ってねぇのに、勝ったな。」


サトウ「道路だからな。」


佐藤は、街路灯に照らされた交差点を見渡した。


サトウ「人を守る道は、敵も迷わせる。」


誰に向けたわけでもない言葉。


その夜。


魔王城の“弱点”は、

最も安全で、最も厄介な防衛設備として認識されることになった。


数日後。


城門前に、慎重すぎるほど慎重な隊列が現れた。


先頭には、命綱を二重に巻いたガーゴイル。

左右には、落下防止用の補助翼。

後方には、荷崩れ防止の固定具。


そして中央。


分厚い緩衝材に包まれた、巨大な荷物。


――椅子。


今回は落ちない。

落とさせない。


その緊張感が、隊列全体から伝わってきた。


魔王ゼノン「……来たか。」


仮設応接間で待ち構えていた魔王が、ゆっくりと立ち上がる。


運び込まれ、梱包が外され、設置。


魔王ゼノン「……っ」


背中。

腰。

肩。


的確すぎる圧。


魔王は、何も言わなかった。

ただ――目を閉じた。


数秒後。


魔王ゼノン「……よい。」


それだけだった。


だが、その一言で、周囲の魔族たちは全てを察した。


――文明は、正しかった。

執筆の原動力は、読者の皆様からの反応です! 画面下の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしていただけるだけで、作者のやる気が跳ね上がります。少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ評価・応援をよろしくお願いします!

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