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ダンジョン・リノベーター 〜住みにくい魔王城、改造します〜  作者: ラキラ
【新大陸・都市開発編】〜空飛ぶ城と、地図にない絶景分譲地〜

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24/34

不変の完工:世界再開発計画を差し止めろ!

ドゴゴゴ……!


地脈の奥底が、完全に割れた。

轟音とともに隆起した大地は、まるで世界の内臓を引きずり出すかのように裂け、

その深淵から“それ”は姿を現す。


巨大な定規。

巨大なコンパス。


直線と円弧だけで構成された、あまりにも無機質な輪郭。

感情も装飾も排した、純粋な幾何学の集合体――

それこそが、崩壊神だった。


彼の一歩ごとに、地脈が軋み、法則が揺らぐ。

測量器具は武器ではない。

世界を「測り」「切り捨てる」ための、執行装置だ。


崩壊神は、ゆっくりと首を巡らせる。

その視線が聖域全体をなぞるだけで、空間の歪みが数値のように浮かび上がった。


崩壊神「この世界は築数万年。地脈の配管は詰まり、構造は限界だ……私はすべてをスクラップ&ビルドし、新世界を造る!」


宣告だった。

怒りでも、憎悪でもない。

ただの“判断”。


その声が響いた瞬間、聖王は思わず一歩、後ずさる。

顔から血の気が引き、手にしていた杖がわずかに震えた。


聖王「そんな……私たちの世界が……!」


視線の先にあるのは、

民の暮らす都市、

積み重ねてきた歴史、

祈りと争いと和解のすべて。


それらが、設計図の余白として切り捨てられようとしている。


魔王は歯を食いしばり、拳を強く握り締めた。

指先が白くなるほどの力。

背後に広がる魔界の景色が、脳裏をよぎる。


魔王「我々の城も、都市も、ただの瓦礫に……!」


それは恐怖ではない。

守るべきものを失うことへの、純粋な怒りだった。


崩壊神は、二人の声に一切反応しない。

定規をゆっくりと地面に当て、

コンパスで円を描く。


その軌跡の先にあるのは――

「次に壊すべき範囲」。


世界は今、

再設計の対象として、冷酷に測られていた。


だが――

その場でただ一人、サトウだけが動じていなかった。


崩壊神の威圧に、誰もが息を呑む中。

彼はむしろ、現場に入ったときと同じ所作で、ヘルメットの縁を指で軽く叩く。

カン、と乾いた音が響き、思考が切り替わる合図となった。


サトウは腰を落とし、静かに図面を広げる。

風に煽られても、紙は揺れない。

彼の手が押さえているのは、設計図ではなく――この世界そのものだった。


そして、にやりと笑う。

それは挑発ではない。

無理難題を前にしたときだけ浮かぶ、建築士の笑みだ。


サトウ「待ってください。勝手に更地にするのは反対です。」


その一言で、空気が変わった。

崩壊神の巨大な影が落ちる中、

人間一人の声が、はっきりと通った。


サトウはゆっくりと顔を上げ、

幾何学の巨人を真正面から見据える。

恐怖はない。

あるのは、設計思想への確信だけ。


サトウ「この世界には、住人たちが積み重ねてきた増改築の歴史があります。それを無視した新築なんて――ただの“冷たい箱”でしかありません。」


その言葉は、

剣でも魔法でもなかった。


だが確かに、

崩壊神の論理に、ひびを入れた。


世界は、最初から完成品ではなかった。

失敗し、直し、足し、守り、

住み続けることで形を変えてきた“現役の建築物”だ。


サトウの背後で、誰かが息を呑む。

聖王も、魔王も、

そして精霊たちでさえ――

初めて「別の答え」が存在することに気づいた。


崩壊神の持つ定規が、わずかに止まる。

コンパスの先が、空中で揺れた。


測るだけの存在に、

「住む」という概念はなかった。


サトウは、崩壊神が掲げる

「完璧な新世界」の設計図へと視線を向けた。


次の瞬間、彼の前方に淡い光が走る。

建築聖眼ビルド・スキャン】が起動し、設計情報が強制的に解析されていく。


空中に展開されたのは、青白く輝く巨大な図面。

寸分の狂いもない直線、完璧な円弧。

理論上は、非の打ちどころがない――はずだった。


だが。


ピッ。

ピッ。

ピッ―――。


無機質な警告音とともに、

図面の各所に赤い警告表示が次々と灯っていく。


致命的。

要修正。

長期耐久性:低。


サトウはその光景を前に、ため息まじりに指を走らせた。

神の設計図を、まるで新人の図面をチェックするかのように。


サトウ「……神様。この設計、バリアフリーがまったく考慮されていませんね。」


その言葉に、空気が凍りつく。


崩壊神はわずかに身じろぎし、

巨大な定規を持つ腕を止めた。


崩壊神「なに……?」


サトウは構わず、別の箇所を示す。

赤い警告が、新たに点灯する。


サトウ「それに、この通気計画、300年で確実にカビだらけになります。湿気が抜けない。結露も逃げない。メンテナンス動線も最悪だ。」


数字と構造が、冷酷に事実を語る。

完璧なはずの神の設計が、

「住み続ける」という視点を完全に欠いていることを。


ディアドラは思わず一歩、サトウに近づく。

眉をひそめ、声を潜めた。


ディアドラ「サトウ……さすがに神様を怒らせるのでは……」


サトウは一瞬だけ振り返り、

口角をわずかに上げた。


それは、覚悟を決めた現場の顔だった。


サトウ「怒らせるのは構いません。現場の知恵を上回る計算なんて――神にだって、無理ですから。」


その言葉と同時に、

さらに赤い警告が灯る。


動線の矛盾。

将来改修不可。

住民ストレス値:臨界。


次々と突きつけられる矛盾。

修正指示が重なり、

“神の設計”は、真っ赤に赤入れされていく。


完璧だったはずの新世界は、

今や――

「机上でしか成立しない建物」へと変貌していた。


崩壊神のコンパスが、

初めてわずかに震える。


ドゴォォン!!


天地を叩き割るような轟音とともに、

崩壊神が怒りに吼えた。


幾何学の巨体が軋み、

巨大な定規とコンパスが融合するように変形する。

それはもはや測量器ではない。

世界を終わらせるための――崩壊の槌。


振り下ろされた瞬間、

空間そのものが割れ、衝撃波が津波のように押し寄せた。

地脈が悲鳴を上げ、配管が耐久限界を迎えかける。


だが。


サトウは一歩も引かなかった。


反射的に【異世界マテリアル・カタログ】を開き、

指を走らせ、選択を確定する。

その動きに迷いはない。


サトウ「壊すのは一瞬です。でも、直しながら住み続けるのは――永遠だ。」


次の瞬間、空間が歪み、

柱と地脈の間に巨大な構造体が出現した。


召喚されたのは、

人智を超えたサイズの制振ダンパー。


衝撃波が直撃する。

だが――爆散しない。


ゴォォ……ッ!!


鈍く、深い音を立て、

ダンパーは衝撃を受け止め、分散し、逃がしていく。

地脈は守られ、

魔導配管は一本たりとも破断しなかった。


破壊神の力は、

“壊せない構造”の前で、意味を失った。


サトウは崩壊神を真正面から見据える。

拳を握り、声を張り上げる。

それは宣戦布告であり、未来への設計宣言だった。


サトウ「凸凹工務店が、この世界を『神の手伝い不要』の――長期優良惑星にしてやります!」


その言葉とともに、

補強された柱が、静かに、しかし力強く輝きを放つ。


破壊ではなく、更新。

終わりではなく、住み続けるための未来。


崩壊神の影が、

初めて後退する。


世界は今、

壊される対象ではなく、

守られ、直され、使い続けられる構造物として――

新しい時代へと踏み出そうとしていた。


サトウは、これまで共に現場を駆け抜けてきた仲間たちへと視線を向けた。


魔族。

エルフ。

ドワーフ。

そして人間。


種族も立場も違う。

だが今この瞬間、彼らは同じ図面を見て、同じ未来を支えようとしていた。


サトウの合図とともに、世界規模の工事が動き出す。


空に、地に、海に――

巨大な魔導ネットワークが展開され、世界全体を覆っていく。

それは支配ではない。

監視でもない。

維持管理のための、神経網だった。


まず行われたのは、全地脈のバイパス工事。


詰まり、劣化し、限界を迎えていた旧地脈は、

一斉に新設された配管網へと切り替えられる。

魔導流体は滑らかに流れ、

世界の血流は、再び健全さを取り戻した。


続いて、構造補強の最終工程。


前に補強した四本の地脈柱を起点に、

補強梁と制振構造が次々と接続されていく。

縦と横、力と力が噛み合い、

世界はまるで――

「ボックスラーメン構造」のように、一体化していった。


局所ではなく、全体で支える。

一部が傷ついても、即座に荷重を分散する。

壊れにくく、直しやすい――

住み続けるための世界。


光に包まれた空間の中で、

崩壊神はその様子を静かに見つめていた。


もはや怒りはない。

測量のための定規も、裁定のためのコンパスも、

その手にはなかった。


崩壊神「……今の住人に、これほどの保守管理能力があるとは……」


それは敗北の言葉ではない。

評価だった。


次の瞬間、

崩壊神の身体は光へと還り、

静かに、音もなく消えていく。


スクラップ&ビルドの時代は、終わった。


残された世界は、揺れない。

崩れない。

そして――

直し続けられる。


空は澄み、

大地は安定し、

季節は正しく巡る。


世界は救われ、

平和が訪れた。


だがそれは、

「何もしなくていい平和」ではない。


定期点検があり、

補修があり、

次の世代へ引き継がれていく平和だ。


サトウは深く息をつき、ヘルメットの位置を指で直した。

張り詰めていた肩の力が、ようやく抜けていく。


サトウ「ふぅ……これで世界の基礎は、当面安泰ですね。」


見渡す限り、安定した大地。

正しく巡る季節。

補強された柱が、静かに世界を支えている。


ディアドラもまた、小さく息を吐いた。

戦場を駆け抜けた後のような疲労と、

それでも前を向く覚悟が、表情に滲んでいる。


ディアドラ「……でも、まだまだやることは多そうです。」


その言葉が終わった――

まさに、その時だった。


遠くから、慌ただしい足音が響いてくる。

息を切らし、書類束を抱えたルルが、全力で駆け寄ってきた。


ルル「監督!大変です!月にひびが入ったって、兎たちから連絡が!」


一瞬、場が静まり返る。


サトウは何も言わず、ゆっくりと空を見上げた。

青空の向こうに浮かぶ、白い天体。

彼は目を細め、その輪郭を“構造物”として捉える。


その瞳が、きらりと光った。


サトウ「月か……高所作業手当、多めに請求しておいてくれ。」


一切の躊躇なし。

あまりにも自然な受注姿勢だった。


ルルは即座に算盤を止め、首を横に振る。


ルル「無理です」


サトウ「えっ」


その瞬間。


ギュオォォ……!


空間が歪み、

超長距離転移用の魔導ゲートが、轟音とともに展開される。

視界の向こうには、地球を飛び越え、

巨大な月面が迫っていた。


世界を救ったばかりの現場監督に、

休憩時間は存在しない。


地脈の次は、衛星。

基礎工事の次は、天体補修。


こうして――

地球を飛び越え、

月への突貫工事が――

今、始まろうとしていた。

第2章完結です。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。次回から第3章になります。世界を建築し、次はついに宇宙へ!サトウの物語はまだまだ終わりません!

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