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ダンジョン・リノベーター 〜住みにくい魔王城、改造します〜  作者: ラキラ
【新大陸・都市開発編】〜空飛ぶ城と、地図にない絶景分譲地〜

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21/25

水圧1,000気圧のSOS:深海王の「水漏れ」パレス

ジャボッ……。


万博会場・最新スイートルーム。

防音・断熱・魔力遮断まで完備された特別浴室で、サトウは熱めの湯に肩まで浸かり、深く息を吐いた。


湯気が天井へと立ち上り、

昨夜までの緊張を、少しずつ溶かしていく。


サトウ「……ふぅ。」


身体の芯に残っていた疲労が、

湯と一緒に抜けていく感覚。


設計値通りの湯温。

循環も完璧。

排水音すら耳に心地いい。


――そのとき。


排水口の奥で、

プク……プク……と、水泡が浮かび始めた。


サトウ「……?」


視線を向けた瞬間、

水面が小さく盛り上がり、

そこから、ひょい、と人影が現れる。


小柄な身体。

光沢のある鱗。

透き通るような水色の髪。


人魚の特使だった。


人魚姫「お願いです!」


両手を合わせ、必死な表情。


人魚姫「深海王の宮殿が、浸水で崩壊寸前なんです……!あなたの――その『絶対に漏れない配管技術』を、どうかお貸しください!」


水滴を散らしながら、深々と頭を下げる。


サトウ「……」


一拍。


サトウ「水深……1万メートルの海底、ですか。」


湯船の縁に腕を置き、冷静に確認する。


サトウ「えーと……一級建築士の免許に、『潜水士』の資格は含まれてないんですけどね。」


困ったように笑いながらも、

拒否の色はない。


数分後。


サトウは風呂から上がり、

簡易ミーティングルームでディアドラ、ガンツ、ルルに状況を説明していた。


立体映像には、

海底宮殿の断面図と、赤く点滅する浸水ポイント。


ディアドラは腕を組み、

サトウの顔をじっと見る。


ディアドラ「……サトウ、」


ため息まじりに。


ディアドラ「行く気ですね?」


サトウは即答だった。


サトウ「ええ。」


穏やかな笑顔。


サトウ「放っておいたら、基礎からやられます。あの水圧での漏水は、“事故”じゃなくて“災害”です。」


ガンツが豪快に笑う。


ガンツ「ははっ!今度は空じゃなくて海の底か!配管材、超高圧仕様にしねえとな!」


ルルは算盤を弾き、

淡々と結論を出す。


ルル「深海対応資材、在庫あり。輸送コストは……許容範囲です。」


サトウはカタログ端末を開き、ページをめくる。


サトウ「任せてください。」


画面に映るのは、

深海用耐圧配管、自己修復バルブ、魔力逆流防止構造。


サトウ「凸凹工務店のカタログは――海の底まで、対応していますから。」


人魚姫の瞳が、ぱっと輝いた。


人魚姫「……ありがとうございます!」


夜は、静かに更けていく。


だが次の現場は、

空でも、陸でもない。


――深海一万メートル。


新たな“漏れてはいけない現場”が、

サトウを待っていた。


ゴポゴポ……。


光は、ほとんど届かない。

海底一万メートル――暗黒の海溝。


そこへ、丸みを帯びた深海作業用潜水球が、ゆっくりと降り立った。

外殻を叩くのは、水流ではない。

海そのものの重さだ。


ミシ……ミシ……と、金属が小さく悲鳴を上げる。


潜水球の中で、サトウ、ディアドラ、ガンツはそれぞれ足を踏ん張り、外の光景を見つめていた。


眼前に広がるのは、

巨大な深海王の宮殿。


真珠と珊瑚で組み上げられた壮麗な建築――

だが、その美しさは、どこか歪んでいた。


サトウは外部センサーと魔導スキャンを同時に走らせ、

表示された数値と断面図を一瞥する。


診断は、瞬時だった。


サトウ「……不等沈下」


低く、確信のある声。


サトウ「海底火山の活動で地盤が柔らかくなってます。基礎が均等に支えられていない。」


指先が動き、映像が切り替わる。


傾いた宮殿。

支点を失った部分に、赤い警告色が集中している。


サトウ「クラック。ひび割れです。」


ディアドラが息をのむ。


サトウ「傾きで石材に応力が集中して、魔法障壁が――物理的に裂けている。」


魔法で守られた宮殿。

だが、魔法は“形が保たれている”ことが前提だ。

構造そのものが歪めば、結界も耐えられない。


サトウ「水漏れ以前の問題です。」


静かだが、重い宣告。


サトウ「このままじゃ、宮殿全体が圧壊します。……要するに、ベコベコに潰れる。」


ガンツが、潜水球の内壁に手を当てる。


ミシ……。


また、嫌な音。


ガンツ「潜水球がミシミシ言ってるが……」


少しだけ声を落として。


ガンツ「大丈夫か、監督?」


サトウ「大丈夫です。」


即答。


サトウ「工事現場でも、こういう音は、よく聞きます。」


安心させるような口調。

だが、言っている内容はまったく安心できない。


そのとき。


水流を割り、

巨大な影が近づいてくる。


黄金と真珠で飾られた玉座。

そこに座すは、深海王。


威厳に満ちた声が、魔法通信で潜水球内に響いた。


深海王「伝統ある真珠の柱は、一本たりとも動かすな!」


怒りと焦りが、ない交ぜになっている。


深海王「この宮殿は、千年の誇りだ!柱を失えば、王家の威信が――」


サトウは、少しだけ黙った。


モニターに映る、

傾いた柱。

割れ始めた床。

迫り来る圧壊ライン。


そして、顔を上げる。


サトウ「……」


一拍。


サトウ「柱のために」


言葉を選ぶことなく、

真っ直ぐに。


サトウ「宮殿を潰して、どうするんですか。」


深海王の言葉が、止まる。


サトウ「伝統は、残すものです。でも――建物は、使われてこそ意味がある。」


静かに、しかし揺るがない声。


サトウ「潰れた宮殿に、誇りは残りません。」


深海の闇の中で、

真珠の柱が、かすかに軋んだ。


――そのとき。


暗黒の海溝が、

ゆっくりと、しかし確実にざわめいた。


巨大な影。

宮殿の側面に、ぬらりとした感触が這い上がる。


次の瞬間――


ブチブチッ!

ギシギシッ!


深海大王イカ。

岩場と勘違いしたのか、

その巨体が、幾本もの触腕で宮殿をがっちりと抱え込んだ。


真珠の柱が軋み、

梁が悲鳴を上げる。

建物全体に、致命的な引き裂き荷重がかかる。


深海王「な、何だこれは……!」


ディアドラ「まずい……このままじゃ――」


だが、サトウは叫ばない。

慌てない。


モニターに走る数値を一瞥し、

即座に指示を飛ばす。


サトウ「イカを傷つけずに引き離します。」


淡々と、現場監督の声。


サトウ「同時に、宮殿を浮かせます。」


ディアドラ「……サトウ」


半ば呆れ、半ば感嘆。


ディアドラ「海底でも、突貫工事?」


サトウ「ええ。沈下は待ってくれませんから。」


次の瞬間。

サトウの“リノベーション”が、容赦なく始まった。


まず――

鋼管杭の圧入アンダーピニング


宮殿の基礎下部から、

超高圧魔導ジャッキが展開する。


ギギギギ……ッ!


ジャッキアップと同時に、

鋼管杭が、柔らかい地盤を貫き、

さらに下――硬い岩盤へと、正確に打ち込まれていく。


サトウ「杭、一本ずつ調整。傾き修正、プラス2ミリ……そこで止めて。」


宮殿が、

ほんのわずかに、だが確実に――起き上がる。


続いて。


宮殿の外周に、

無数の光点が展開した。


特殊水中硬化コンクリート。

しかも――自己修復機能付き。


流動体は、

宮殿を包み込むように広がり、

六角形の面を次々と形成する。


透明な、

耐圧ジオデシック・ドーム。


深海の闇の中で、

それは静かに完成していった。


ガンツ「監督!」


水圧に負けじと叫ぶ。


ガンツ「ドームの継ぎ目に、何を詰めるんだ?」


サトウ「深海魚の鱗加工・魔導シーリング材です。」


即答。


サトウ「圧力差でも、魔力流でも、逃げ場を与えません。水漏れゼロです。」


チュポッ……

ギュッ……。


継ぎ目が埋まり、

内部と外部の圧力が、完全に遮断される。


同時に、

ドーム外周から発生した微弱な魔導振動が、

大王イカの触腕をそっと引き剥がした。


傷つけない。

驚かせない。

ただ、「ここは岩じゃない」と教えるように。


巨大な影は、

名残惜しそうに、深海の闇へと去っていった。


――そして。


ジャバァ……。


最後の浸水が止まり、

宮殿内部に、ゆっくりと空気が戻る。


泡が消え、

音が、変わる。


水音ではない。

空間が呼吸を取り戻した音。


深海王は、呆然と周囲を見渡した。


深海王「……戻った……」


傾きは修正され、

柱は支えられ、

宮殿は――生き延びている。


サトウは、モニターを閉じ、静かに言った。


サトウ「応急じゃありません。これで、千年は持ちます。」


ディアドラは小さく笑った。


ディアドラ「……やっぱり」


ガンツは豪快に頷く。


ガンツ「深海だろうが、現場は現場ってわけだ!」


暗黒の海溝で、

真珠の宮殿は、再び安定した光を放っていた。


ここは戦場ではない。

ここもまた――


現場だ。


深海王は、ゆっくりと玉座から身を起こした。

安定した床を、確かめるように一歩踏みしめる。


軋みはない。

揺れもない。

千年の宮殿は、確かに“立ち直って”いた。


深海王「これで……」


重々しく、しかし晴れやかな声。


深海王「これで、地上人と安心して外交できます。」


深海という過酷な環境に守られた王国。

だが同時に、それは孤立でもあった。


サトウはヘルメットを抱え、軽く頭を下げる。


サトウ「凸凹工務店では」


穏やかな笑み。


サトウ「建物を守ることが、外交の第一歩だと考えています。」


安心して集まれる場所がある。

壊れないと信じられる空間がある。

それだけで、人は――種族は、向き合える。


人魚姫が、サトウの前まで泳ぎ出てきた。

瞳は潤み、尾びれが小さく揺れている。


人魚姫「サトウ……!」


声が震える。


人魚姫「本当に……本当に、ありがとうございました!」


深々と頭を下げるその姿に、

サトウは少し照れたように頬をかいた。


サトウ「いえ。水が漏れたら、直す。傾いたら、支える。」


いつもの調子。


サトウ「それが、現場ですから。」


やがて、潜水艇はゆっくりと宮殿を離れ、

再び深海の闇へと滑り込んでいく。


外では、

補強された宮殿が、透明なドーム越しに静かに輝いていた。


深海の闇を抜けながら、

潜水艇の中で、サトウはふと独り言のように呟く。


サトウ「次は……」


モニターに映る地形データ。

海底と大陸、その間に横たわる、深く長い溝。


サトウ「海底トンネルで、陸と深海を繋ぐ工事ですかね……」


ディアドラが、ゆっくりと振り返る。


ディアドラ「サトウ……」


嫌な予感を隠さずに。


ディアドラ「工期は、何年になるつもりですか?」


サトウは少し考え、

そして――いつもの顔で答えた。


サトウ「想定外がなければ、十年。想定外が来たら……そのとき考えます。」


ガンツが、腹の底から笑う。


ガンツ「ははっ!聞いたか!“そのとき考える”だとよ!」


ルルは算盤を弾き、静かに頷いた。


ルル「……資金計画、今から組み直します。」


その瞬間。


ギュオォォ……。


潜水艇のエンジン音が、

深海の闇を切り裂く。


光の届かぬ世界で、

だが確実に――


凸凹工務店の次なる挑戦が、

静かに、しかし力強く、浮かび上がっていた。

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