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ダンジョン・リノベーター 〜住みにくい魔王城、改造します〜  作者: ラキラ
【新大陸・都市開発編】〜空飛ぶ城と、地図にない絶景分譲地〜

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19/28

平和の礎は「プレハブ」にあり? 万博会場の突貫工事!

ゴトン……。


魔導通信水晶が、重たい音を立てて卓上に転がった。

その中に刻まれていたのは――世界の流れを変える、一行の通達。


魔王と聖王、歴史的和平会談を決定。

舞台は両国国境の荒野。

会談に先立ち、「平和万博」を建設する。


沈黙が落ちる。


そこは草も乏しい、ただ風と砂だけが吹き荒れる不毛の地。

インフラ、皆無。

資材、皆無。

建設実績――当然、皆無。


サトウは腕を組み、眉間に深い皺を刻んだ。

建築士としての脳内で、瞬時に条件と制約が組み上がっていく。


サトウ「……普通に考えれば」


低く、現実を突きつけるように続ける。


サトウ「物理的に不可能です。」


空気が張り詰める。


だが次の瞬間、

サトウの視線が鋭く光った。


サトウ「……“普通なら”、ですが。」


口角が、わずかに上がる。


サトウ「システム建築なら――話は別です。」


提示された期限は、十四日間。


数万人を収容する展示パビリオン。

各国要人用の宿泊施設。

警備動線、避難計画、仮設インフラ一式。


――すべてを、荒野に“ゼロから”だ。


ガンツは、しばし言葉を失ったまま固まり、

次の瞬間、両腕を天に突き上げて叫んだ。


ガンツ「……十四日間!?監督ゥ!! それはもう建築じゃねえ!無理ゲーってやつじゃないですか!!」


荒野に、ドワーフの野太い声が響き渡る。


しかし。


サトウは、まるでいつもの現場朝礼のような顔で、

にこりと笑った。


サトウ「乾式プレハブです。」


軽く、しかし迷いなく言い切る。


サトウ「基礎、躯体、設備、全部モジュール化。組み立てるだけなら、時間は敵じゃありません。」


ガンツは目を見開き、

ごくりと喉を鳴らした。


ガンツ「……まさか……」


震える声で続ける。


ガンツ「最初から“解体前提”の万博、ですかい。」


サトウは頷く。


サトウ「ええ。平和のための建物ですから。」


穏やかに、だが強く。


サトウ「終わったら、きれいに片付く。それが、一番安全で、誠実です。」


現場に立ち並ぶ聖王国の石工たちは、揃って言葉を失っていた。


積み上げられているのは、

石でも、煉瓦でも、木材でもない。


冷たい光を反射する、無機質な――鉄板の箱。


石工は思わず、隣の仲間に囁く。


石工「……おい。あれが……建物、だって言うんじゃないだろうな」


別の石工が、信じられないという表情で首を振る。


石工「冗談だろ……。礎石も、アーチもないじゃないか……」


そのざわめきを、低く響く機械音が切り裂いた。


サトウは無言で【異世界マテリアル・カタログ】を開き、

指先で一項目を指定する。


――次の瞬間。


ゴォォォ……ン……!


砂煙を巻き上げながら、

大型クレーン車が荒野に実体化した。


油圧の唸り。

鋼鉄の腕が、ゆっくりと空へ伸びる。


そして――


ガンツの怒号が、現場を震わせる。


ガンツ「よぉし野郎ども!!安全確認! 声出せ!!プレハブ一棟目、いくぞォ!!」


ドワーフたちが、一斉に動いた。


ゴトゴト……!

鉄箱が吊り上げられ、

寸分違わぬ位置へと運ばれていく。


カチャン!


金属同士が噛み合う、乾いた音。


続けて――


ゴトゴト!

シュッ……カチャン!


まるで巨大な積み木を組み上げるかのように、

パビリオンの骨格が、恐ろしい速度で立ち上がっていく。


それを見守る者たちは、種族を超えて、息を呑んだ。


聖王国の魔法使いは、詠唱しかけたまま口を閉じる。

エルフは、信じられないものを見るように目を見開く。

オークは、手にした杭を打ち込むのを忘れて立ち尽くす。


誰かが、震える声で呟いた。


観衆「……まさか……」


言葉を探すように、続ける。


観衆「……これが……建物、になるのか……?」


荒野の上で、

石も、魔法も超えた“建築”が、形を成していく。


しかし――

順調に見えた建設現場に、致命的な異変が走った。


ズズ……ッ。


乾いた荒野の地面が、わずかに沈み込む。


誰かが気づいた瞬間、

メインパビリオンの床が、目に見えて傾き始めた。


作業員たちに、どよめきが広がる。


作業員「地下だ……!」

作業員「空洞があるぞ!」


急遽駆け寄った聖王国の魔法使いが、地面に手をつく。


魔法使い「土魔法で……固めます!――っ、だ、だめだ!地盤が脆すぎる、魔力が逃げる……強度が足りない!」


床は、なおもミシリと軋む。

このままでは、建てかけの会場が崩れる。


だが。


その中心で、サトウは一歩も動じなかった。


彼は静かに腕を組み、

わずかに沈む建物と地盤を見下ろす。


次の瞬間――

現場を切り裂く、凛とした声。


サトウ「大丈夫です。こういうのは……物理で解決します。」


周囲が、はっと息を呑む。


サトウは即座に【異世界マテリアル・カタログ】を展開し、

必要な項目を迷いなく指定した。


――薬液注入工法。


地下深く、

空洞と化した地層へと、魔法の樹脂ウレタンを高圧で圧入。


さらに――


油圧ジャッキを同時展開。


ジャキン!

ガシャン!


金属音とともに、

巨大な建物が、ミリ単位で持ち上がっていく。


ギギ……ッ。


歪んでいた床が、

まるで何事もなかったかのように、水平へと戻っていく。


沈黙。


そして――

次第に、作業員たちの顔が、驚愕から安堵へと変わっていった。


ガンツは、額から流れる汗を乱暴に拭いながら、肩をすくめる。


ガンツ「……監督。また……とんでもねえ力技ですねぇ……」


その言葉に、サトウは口角を上げる。


いつもの現場の笑みだった。


サトウ「力技じゃありませんよ。科学と魔法――ちゃんと、融合させただけです。」


荒野の上に建つ、平和万博の会場。


それは今、

祈りではなく、施工で支えられていた。


万博会場建設において、

真にサトウたちを悩ませた問題は――

資材でも、工期でも、地盤でもなかった。


種族間の体型差。


人間を基準にした建築という概念そのものが、

この場所では、すでに通用しなかった。


巨人族のオークは、肩が天井に引っかかる。

妖精族は、ドアノブにすら手が届かない。

ドワーフは段差に苛立ち、

獣人は通路の幅に唸る。


その光景を前に、サトウは静かに息を吐いた。


――これは、設計の問題だ。

誰かを“例外”にする限り、平和は続かない。


まず導入されたのは、可変式建具。


カチャン。


近づく存在を感知し、

ドアが自動で高さと幅を変更する。


巨人のオークが屈まずに通り抜け、

次の瞬間、小さな妖精が羽を畳まずに滑り込む。


ドアは一切、文句を言わない。

ただ、必要なサイズになる。


次に整備されたのは、

最もトラブルが起きやすい場所――多種族共用トイレ。


床に立った瞬間、

利用者の体格・姿勢・生理構造を瞬時に判別。


便座の高さがせり上がり、あるいは沈み、

洗浄水圧や角度まで、最適解へと自動調整される。


誰もが、

「使わせてもらっている」のではなく、

「当然のように使える」空間。


最後に組み上げられたのは、

万博の象徴となる――プレハブ・スタジアム。


軽量鉄骨のフレームに、

強靭な膜構造を組み合わせた大空間。


支柱は最小限。

視界を遮らず、音を反響させすぎず、

それでいて、暴風にも耐える強度。


低コスト。

短納期。

高耐久。


理想だけを、現実に落とし込んだ形。


カチャン!

シュッ……


最後の設備が接続され、

システムが静かに稼働を開始する。


こうして――

すべての施設は完成した。


それは、

人間用でも、魔族用でもない。


異世界初の「多種族対応仕様」。


誰かを我慢させないための建築。

誰かを基準にしないための設計。


十四日後――。


かつて、風と砂しかなかった荒野に、

光が生まれていた。


夜の帳が下りると同時に、

万博会場全体が柔らかな照明に包まれる。


直線と曲線が調和した近代的な建築群。

空調は静かに唸り、通路はどこまでも滑らか。

段差はなく、視線は開け、

誰もが自然に歩ける動線が、会場全体を貫いていた。


それはまるで――

この世界に、最初から存在していたかのような風景。


メインパビリオンの中央で、

魔王と聖王が並んで歩いていた。


魔王は重厚な外套を揺らしながら、感嘆の息を漏らす。


魔王「……暑くも寒くもない。魔力を使っていないのに、この快適さとは……」


聖王もまた、床に視線を落とし、静かに頷く。


聖王「段差がなく、視界も広い。……争いを想定した城とは、思想が根本から違うな。」


二人の間に、

不思議な沈黙が流れる。


敵意ではない。

警戒でもない。


ただ、居心地の良さに言葉を失った沈黙だった。


その少し離れた場所――

サトウは、白いヘルメットを外し、深く息をつく。


ディアドラが差し出した、冷えた茶を受け取り、

一口、喉に流し込んだ。


冷たさが、身体の芯まで染み渡る。


サトウは、夜景を見上げながら、ぽつりと呟いた。


サトウ「……建物がちゃんとしていればですね」


一拍置いて、続ける。


サトウ「人は争うのを忘れて、快適さに夢中になれるんですよ」


それは、演説でも理念でもない。

現場で何度も見てきた、

彼なりの“実感”だった。


ディアドラは腕を組み、

その横顔をちらりと見て、小さく息を吐く。


どこか呆れた、

けれど、どこか誇らしげな声。


ディアドラ「……まったく。サトウは、ロマンがないのか、ありすぎるのか……」


そして、容赦なく現実を叩きつける。


ディアドラ「でも、まだ終わってませんよ?『撤去作業』の工程表――ちゃんと、覚えてますよね?」


サトウの肩が、わずかに跳ねた。


サトウ「……あ」


その瞬間。


ゴトン……。


どこかで、

重機のエンジンが、低く唸り始める音がした。


完成の喜びの裏で、

次の工程が、静かに、確実に迫ってくる。


そう――

建築において、

「完成」はゴールではない。


撤去もまた、立派な現場。


万博会場の夜景は、

今日も美しく輝いている。


そして同時に――

凸凹工務店の、次なる挑戦もまた、

音もなく、始まっていたのだった。

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