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ダンジョン・リノベーター 〜住みにくい魔王城、改造します〜  作者: ラキラ
【新大陸・都市開発編】〜空飛ぶ城と、地図にない絶景分譲地〜

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16/25

賞味期限の壁を越えろ! 氷龍の吐息とマイナス20℃の挑戦

地下都市・アイゼンは、確かに変わった。

かつては一歩踏み出すだけで汗が噴き出し、肺の奥まで焼けるようだった灼熱の空間は、今やひんやりとした空気に満たされている。


岩肌に触れれば、ほんのりと冷たさすら感じる。

天井から流れる冷気が、巨大な鍛冶場と居住区を静かに循環し、熱に慣れ切ったドワーフたちの感覚を、少しずつ狂わせていった。


ドワーフAは、信じられないものを見るように両手を広げ、目を輝かせる。


ドワーフA「アイス……生魚……冷たいビール……!」


その言葉は、夢想というより祈りに近かった。

これまで“冷たい”という感覚そのものが贅沢だった彼らにとって、それは異世界の料理だったからだ。


だが、隣にいたドワーフBは、はっと我に返ったように顎に手を当てる。


ドワーフB「でも、地上から運ばれる食材は、火山の熱で届く頃には腐っちゃうんだ……」


期待が一瞬で現実に引き戻される。

冷えた空気と、現実の物流。その間に横たわる“温度差”は、あまりにも大きかった。


その様子を見ていたガンツが、低く唸る。

分厚い眉を寄せ、額にかけていた溶接ゴーグルを、ぐいっと押し上げた。


鋼鉄の職人の目が、次の一手を探して光る。


ガンツ「監督ゥ!」


その声は、鍛冶槌の音すら押しのける勢いだった。


ガンツ「せっかく余った地熱発電の電力を使わねえ手はねぇ!

都市全体を冷やすだけじゃなく、巨大冷蔵庫だ! いや、冷凍庫もだ!

でっけえ冷蔵・冷凍倉庫を作りましょうぜ!」


夢物語ではない。

ガンツの声には、現場を知る者特有の現実感と熱があった。


サトウは静かに頷き、足元から地下都市全体を見渡す。

視界の奥で、建築聖眼が起動し、岩盤の断面、熱源、空気の流れが半透明の図面として重なっていく。


冷やされた区画の向こう側で、岩壁がじわじわと熱を溜め込んでいるのが、はっきりと見えた。


サトウ「発想は、間違っていません」


落ち着いた声で、そう前置きしてから続ける。


サトウ「ただ、魔法で冷やすだけでは膨大な魔力が必要です。

岩壁そのものが熱を蓄える巨大な塊ですから、冷気はすぐに奪われてしまう……」


サトウは指先で空中をなぞる。

冷えた領域が、みるみるうちに赤く染まり返るシミュレーションが浮かび上がった。


サトウ「今のままでは――」


一拍置き、はっきりと言い切る。


サトウ「バケツに穴が空いた状態で、水を注ぎ続けているようなものです。」


ドワーフたちは思わず息を呑んだ。

冷やす前に、まず“逃げ道”を塞がなければならない。


地下都市・アイゼンは、

本当の冷たさに辿り着くための、最初の壁の前に立っていた。


カタログが開かれた瞬間、地下都市の空気が一変した。


淡く青白い光と共に、現代建築の叡智が次々と現界する。


発泡ウレタン断熱材。

真空断熱パネル。


それらは単なる資材ではない。

熱を拒み、冷気を閉じ込めるための“境界線”だった。


シュウウウウ……。


圧縮された断熱材が岩壁に吹き付けられ、膨張しながら隙間を埋めていく。

ガンツは頬を引きつらせながら、巨大な噴射ノズルを肩に担いでいた。


ガンツ「へっ……! 岩だろうが溶岩だろうが関係ねぇ!覆っちまえば、ただの“外気”だ!」


真空断熱パネルが次々と固定され、

地下空洞そのものが、まるで巨大な魔法瓶へと作り替えられていく。


熱は遮られ、冷気は逃げ場を失う。

これまで都市を苦しめていた地熱が、初めて“内側へ侵入できない壁”にぶつかった。


ひんやりとした空気が、はっきりと肌にまとわりつく。


ドワーフたち「わああ……!」

ドワーフたち「これで夏バテも怖くない!」

ドワーフたち「地下で涼しいって、反則だろ……!」


歓声が上がる、その瞬間だった。


――ズン。


低く、重たい振動が都市全体を揺らす。


天井の照明がかすかに揺れ、

遠くから、霜が軋むような音が聞こえてきた。


次の瞬間。


白い霧が、通路の奥からゆっくりと流れ込んでくる。


冷たい。

だが、心地いい冷たさではない。


高山の夜明けのような、骨の奥まで染みる冷気。


霧の中から現れたのは、

淡い氷色の鱗を持つ、細身の竜だった。


翼は大きいが力なく垂れ、

長い尾は床にだらりと引きずられている。


吐く息は白く、だが――弱々しい。


それが、氷龍フリジットだった。


彼女は本来、

万年雪に覆われた北方の氷洞で眠る存在。


だが近年、世界各地で起きる地脈の異常により、

彼女の住処はじわじわと温められ、

“溶けないはずの氷”が溶け始めていた。


涼を求め、

魔力の流れを辿り、

ようやく見つけたのが――この地下都市だったのだ。


だが。


フリジット「……はぁ……はぁ……」


火山の残熱は、氷龍にとっても過酷だった。

身体は熱にやられ、鱗の端から水滴が落ちている。


ドワーフたちが、思わず後ずさる。


ドワーフA「ひ、氷龍だ……! なのに……溶けかけてねぇか……?」

ドワーフB「こんな地下じゃ、さすがに無理だろ……」


サトウは一歩前に出た。

恐怖も警戒もなく、ただ“設備を見る目”で彼女を見つめる。


サトウ「……なるほど。君、涼しい場所を探して、ここまで来たんですね。」


フリジットは驚いたように目を瞬かせる。


フリジット「……え?あ、あたしが何でここにいるか……分かるの……?」


サトウ「ええ。この都市、最近まで“地獄のオーブン”でしたから。」


冗談めかして言いながら、サトウは続ける。


サトウ「ひとつ、提案があります」


フリジットが首を傾げる。


フリジット「……なに?」


サトウ「君の吐息を、冷媒として使わせてもらえませんか?」


一瞬の沈黙。


フリジット「……え?あたしのブレスで……冷やすってこと?」


サトウは、いつもの現場の笑みを浮かべた。


サトウ「はい。その代わり――」


カタログを指で弾く。


サトウ「あなたの洞窟も、最新断熱施工で改修します。『一年中、絶対に溶けない快適な寝室』です。」


フリジットの目が、ぱっと見開かれた。


フリジット「……え……?ほんとに……寒いまま……?」


サトウ「保証します。その代わり、この倉庫の冷却ユニットを、魔力で回してください。」


氷龍は少し考え、

そして――ゆっくりと頷いた。


フリジット「……わかった。あたし、暑いの……嫌いだから……」


氷龍フリジットの前に、奇妙な装置が組み上がっていく。


魔導管。

制御用ルーン。

圧力調整弁と冷媒循環ライン。


竜の吐息という“生きた自然災害”を、

人の手で、安全に、安定して使うための――魔導冷却システムだ。


フリジットは装置を見下ろし、ぱちぱちと瞬きをする。


フリジット「……なんか……すごく……本気だね……」


サトウ「ええ。安全第一ですから」


サトウが制御盤に手を置くと、魔法陣が淡く光った。


――起動。


ブオオオオ……。


フリジットの吐息が、直接放たれることなく、

装置に吸い込まれ、圧縮され、整えられていく。


次の瞬間。


シュウウウウウ……!


澄み切った冷気が、倉庫の天井から放射状に広がった。

白い霧が床を這い、空気が一段、二段と冷え込んでいく。


壁面の温度計が、刻々と数字を下げる。


――0℃。

――マイナス10℃。

――そして。


マイナス20℃。


静まり返る倉庫。


ドワーフたちの髭に、うっすらと霜が降りる。


ドワーフA「……寒い……でも……気持ちいい……」

ドワーフB「鍛冶場で凍える日が来るとは……生きてりゃ何でもあるな……」


サトウは満足そうに頷き、カタログを一枚めくった。


次の瞬間、

銀色に輝く業務用アイスクリーマーが、重厚な音を立てて現界する。


ディアドラが目を輝かせ、身を乗り出した。


ディアドラ「冷気を使った実験……!未知の戦場……いえ、研究領域……! わくわくします!」


彼女はすでに完全に“楽しい側”だった。


用意されたのは、

エルフの里から届いた、朝露を含んだ果実。

魔国の牧場で搾られた、濃厚なミルク。


サトウが手早く配合し、スイッチを入れる。


ごお……

キィン……。


低い駆動音の中、冷気が一気に素材を包み込む。


数分後。


スプーンを入れた瞬間、

パリッ……シャリッ……

心地よい音が倉庫に響いた。


一口。


沈黙。


次の瞬間――


ドワーフたち「うおおおおおお!!」

ドワーフたち「うますぎる!!」

ドワーフたち「冷たいのに……甘い……! なんだこれ!!」


歓声が爆発する。


口の中で溶ける感触。

歯に染みない優しい冷たさ。

果実の香りとミルクのコク。


誰もが、人生で初めて味わう“贅沢”だった。


サトウは静かに頷く。


――施工は、完璧。


急速冷凍室。

食材の細胞を壊さず、鮮度を保ったまま長期保存。


保冷魔導コンテナ。

地上への輸送すら可能にする、移動式冷却技術。


こうして地下都市では、

生魚も、アイスも、当たり前のように並ぶようになった。


結果。


一大グルメ革命。


噂を聞きつけた聖王国の商人たちが、

金貨袋を鳴らしながら押し寄せる。


商人「独占契約を!」

商人「権利を買わせてくれ!」


だが。


サトウは、にこりと笑って首を横に振った。


サトウ「これは、凸凹工務店の規格に同意した国だけの――専売特許です。」


静かな一言。


それは、

技術が力となり、

冷気が文化を変え、

世界の流通を塗り替える――その始まりだった。


夜――。


地下都市・アイゼンの天井には、昼間の作業灯とは違う、

柔らかな魔導灯の光がともっていた。


冷却システムは低出力で安定運転に入り、

空気はひんやりと澄み、

鍛冶場だったはずの空間は、今や静かな憩いの場になっている。


その片隅。


簡易寝台の上で、魔王ゼノンが情けない声を漏らしていた。


ゼノン「……ぐぅ……腹が……冷たい……」


その隣で、ディアドラが腕を組み、深いため息をつく。


ディアドラ「……また、懲りないんだから……。あれほど“一気に食べるな”と申し上げたのに……」


言葉は呆れ気味だが、

手つきは慣れたもので、

腹部を温める魔法と毛布を静かに重ねていく。


ゼノンは苦しそうに眉をひそめながらも、

どこか満足げに笑った。


ゼノン「でも……あの味は……許す……。冷たくて……甘くて……背徳的だ……」


ディアドラ「……本当に、子供のようなお方です……」


そう言いながらも、

ディアドラの口元は、ほんのわずかに緩んでいた。


少し離れた場所では、

氷龍フリジットが冷気の流れの中で身体を丸め、

満足そうに尾を揺らしている。


フリジット「……ここ、ちょうどいい……。寒すぎないし……溶けないし……」


翼をたたみ、

安心しきった表情で目を細めるその姿は、

かつて万年雪の洞窟に閉じこもっていた頃よりも、

ずっと穏やかに見えた。


周囲では、

ドワーフたちが樽代わりの箱に腰掛け、

アイスを頬張りながら声を上げている。


ドワーフA「ははっ! 魔王様、腹やったのか!」

ドワーフB「冷たいもんは、鍛冶の後に効くが……食いすぎは禁物だな!」


笑い声が弾み、

冷たい空気の中に、温かな気配が広がっていく。


ここにあるのは、

森の木漏れ日とも、

王都の夜風とも違う――


地下ならではの涼風と、笑い声。


技術がもたらした冷気は、

やがて暮らしを変え、

習慣を生み、

文化になっていく。

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