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ダンジョン・リノベーター 〜住みにくい魔王城、改造します〜  作者: ラキラ
【新大陸・都市開発編】〜空飛ぶ城と、地図にない絶景分譲地〜

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15/31

深層地下都市の熱中症:マグマ床暖房(強制)を止めろ!

ゴトン――。


鈍く、重たい音が響いた。


凸凹工務店の工房区画。

金属と魔導石の匂いが混じるその通路で、

一通の親書が、ガンツの肩に落ちたのだ。


厚手の封筒。

角ばった封蝋。

見覚えのある刻印。


差出人は――

鉄鋼都市・アイゼン。


ガンツの故郷だった。


ガンツは無言でそれを拾い上げる。

分厚い指で封を切った瞬間――


紙を広げた、その刹那。


ガンツの顔色が、みるみるうちに変わった。


いつもの豪快な笑みは消え、

鍛冶場で何度も修羅場を潜り抜けてきた男の顔が、そこにあった。


ガンツ「……はぁ!?」


声が、裏返る。


ガンツ「冷却炉が……暴走……!?このままじゃ都市ごと蒸し焼きで、ドワーフが干物になるってぇのか……!」


拳が、無意識に震えた。

アイゼンは、地表から遥か地下に築かれた巨大都市だ。

マグマ層の熱を利用した鍛冶と動力で栄えてきたが――


熱は、制御できてこそ力になる。


一歩間違えれば、

それはただの災厄だ。


サトウは、親書を覗き込みながら眉をひそめる。

ガンツは歯を食いしばる。


ガンツ「アイゼンは……暑さに耐えるのが誇りだって、言い張る連中ばかりだ……だが……限度ってもんがある……!」


そのとき。


サトウは、もう迷っていなかった。


サトウ「行きましょう。」


即断だった。


サトウ「これは根性論じゃどうにもならない。断熱、換気、熱源分離――全部、構造の話です。」


サトウは振り返り、魔王城の奥へと歩き出す。


サトウ「転移門、使います。現場が生きてるうちに手を入れないと、手遅れになります。」


ガンツの目に、光が戻る。


ガンツ「……監督ゥ……!」


ディアドラは一歩前に出て、胸に手を当てる。


ディアドラ「私も同行します。高温環境……前線防衛は、任せてください。」


魔王城の転移門が起動する。

魔導陣が床に広がり、赤く脈打つ光が立ち上る。


転移の光が収束した、その直後。


視界いっぱいに広がったのは――

巨大火山の内部をくり抜いて造られた、灼熱の地下都市だった。


天井は遥か高く、赤黒い岩肌がむき出しになっている。

無数の溶岩流が都市の外縁を這い、まるで血管のように脈打っていた。


立っているだけで、防具がじりじりと音を立てて熱を持つ。

息を吸えば、喉と肺が焼けるように痛む。


――熱い。

――暑い、ではない。


体感温度は、軽く六〇度を超えている。


ディアドラ「……っ……!」


鎧の隙間から汗が一気に噴き出し、彼女は思わず膝に手をついた。


ディアドラ「これは……戦場ではありません……生存限界です……!」


すでに、若いドワーフたちが次々と床に崩れ落ちていた。

赤ら顔のまま、呼吸は荒く、目は虚ろだ。


ドワーフA「ぐはっ……!あ、頭が……!熱い……熱すぎる……!」


ドワーフB「水……水を……」


ガンツが駆け寄り、屈強な腕で一人を抱え起こす。


ガンツ「おい!無理すんな、横になれ!」


歯を食いしばり、辺りを睨みつける。


ガンツ「……くそっ、何だこの暑さは……鍛冶場じゃなくて、地獄釜だぞ!」


だが。


その中で、ただ一人。


サトウだけが、一歩も動かずに立ち尽くしていた。


汗は流れている。

だが、視線は冷静だった。


都市全体を、上から下まで、構造物として見ている。


彼の瞳には、【建築聖眼ビルド・スキャン】の警告表示が幾重にも重なっていた。


――《換気効率:致命的低下》

――《熱遮断:未施工》

――《居住区配置:危険》


赤、赤、赤。


サトウ「……原因は、はっきりしてます。」


その声は、灼熱の中でも揺れなかった。


ガンツ「言ってくれ、監督ゥ!」


サトウは、ゆっくりと天井を指差す。


サトウ「まず、排気不足。」


指先の先には、本来なら都市の熱を外へ逃がすはずの巨大換気坑があった。

だがそこは、黒く塞がっている。


サトウ「鍛冶炉の熱を逃がす換気坑が――」


目を細める。


サトウ「……これ、何百年分ですか?ススで完全に詰まってます。」


ガンツ「……ッ……!」


次に、サトウは足元を見下ろす。


サトウ「それから、これ。」


金属製の床を、靴底で軽く叩く。


サトウ「生活区画が、マグマ層に近すぎる。しかも……断熱材、ゼロ。」


言葉が、静かに落ちる。


サトウ「床下から熱が上がってきて、都市全体が――」


一拍。


熱風が吹き抜ける。


サトウ「予熱の終わったオーブンです。」


その瞬間。


近くにいたドワーフたちが、言葉を失った。


ドワーフ長老「……我らは……熱に耐えることこそ、誇りだと……」


サトウは、首を横に振る。


サトウ「耐えるのは、設計ミスの後始末です。」


サトウ「本来、熱は“使うもの”であって、“浴びるもの”じゃない。」


ディアドラが、汗を拭いながら剣の柄を握る。


ディアドラ「……では……まだ……間に合うのですか……?」


サトウは、即答した。


サトウ「間に合います。」


ただし、と付け加える。


サトウ「――今すぐ、止血処置をします。このままだと、都市が先に倒れます。」


ガンツの目が、再び燃え上がった。


ガンツ「……やろうぜ、監督ゥ!」


サトウは、深く息を吸い、灼熱の都市を見据える。


サトウ「まずは――マグマ床暖房(強制)を止めます。」


長老たちは慌てて詠唱を始めた。


氷結魔法の陣が展開され、青白い光が都市の中心部を包み込む。

空気が一瞬、ひやりと冷えた――ように見えた。


だが。


次の瞬間、

バキ……パキ……と、嫌な音が響く。


結界の表面に、無数の水滴が浮かび上がった。


結露。

ただ、それだけ。


地面から噴き上がる灼熱が、氷を溶かす以前に蒸発させている。


長老A「な……なぜだ……!?」


長老B「氷が……効かぬ……!」


ディアドラ「……魔力が、焼かれています……」


その光景を前に、

サトウは腕を組み、ほんの少しだけ口角を上げた。


それは、余裕でも嘲笑でもない。

「答えが分かっている人間」の表情だった。


サトウ「……魔法じゃ、足りませんね。」


ガンツが汗だくのまま、振り返る。


ガンツ「じゃあ――」


一拍。


サトウ「ええ。」


迷いのない声。


サトウ「物理でいきましょう。」


その言葉と同時に、【異世界マテリアル・カタログ】が空中に展開された。


ページが、次々とめくられていく。


転送光が走る。


ドン……!

ドォン……!


灼熱の都市に、異質な機材が次々と現れた。


――業務用チリングユニット。

――排煙用・高圧ファン。

――超耐熱・遮熱シート。


ドワーフたちが、思わず息を呑む。


ドワーフA「な……なんだ、この鉄の箱は……!」


ガンツがニヤリと笑い、親指を立てる。


ガンツ「冷やすための、本気の道具だ。」


サトウが即座に指示を飛ばす。


サトウ「ファンは換気坑に直結!詰まりは破砕しながら強制排気!床下は遮熱シートで熱線カット、空気層を作ります!」


職人たちが動く。

もはや言葉はいらない。


次の瞬間――


シュウウウウウウ……!!


唸りを上げて、高圧ファンが回転を始めた。


都市の空気が、流れ始める。


重く、淀んでいた熱気が、

換気坑を通って一気に吸い出されていく。


同時に、チリングユニットから冷気が吐き出された。


ただ冷たいだけではない。

湿度を制御し、呼吸できる空気へと整えられた冷気だ。


ディアドラ「……っ……!」


彼女は思わず、胸元を押さえた。


ディアドラ「……息が……楽に……」


床に倒れていたドワーフたちが、ゆっくりと目を開く。


ドワーフB「……あ……?……生きて……る……?」


目に見えて、熱が引いていく。


赤く焼けていた岩肌が、徐々に黒を取り戻し、

床を伝っていた熱波が、嘘のように収まっていく。


長老たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。


長老A「……魔法より……早い……」


サトウは、静かに答える。


サトウ「魔法は“瞬間”。でも、都市は“持続”で守るものです。」


ガンツが、深く息を吸い、豪快に笑った。


ガンツ「……はは……アイゼンに、風が吹いたぜ……!」


灼熱に支配されていた地下都市に、

初めて――


「循環する空気」と「冷静な温度」が戻った。


だが、これはまだ――

応急処置にすぎない。


サトウは、さらにカタログを開きながら、呟いた。


サトウ「……さて。本番は、ここからですね。」


サトウは、灼熱の都市を見上げながら静かに告げた。


サトウ「溢れる熱は、遮断しません。」


ドワーフたちがざわめく。


サトウ「配管で回収します。無秩序な地熱は、ただの災厄。でも、制御できれば――」


天井近くに走る新設パイプラインを指差す。


サトウ「地熱発電です。」


マグマ層から立ち上る熱は、

遮熱材で包まれた回収管に吸い込まれ、

エネルギーとして別系統へと送られていく。


熱は、奪うものではない。

使い切るものだ。


次の瞬間。


都市の天井一面に、薄く広がる板状の設備が次々と設置されていった。


――放射冷房パネル。


内部を巡るのは、冷却された水。

風を起こさず、音もなく、

ただ静かに、都市全体から熱を奪っていく。


天井から、

穏やかな冷気が降り注ぐ。


ドワーフ「……あれ……?」


若い職人が、自分の胸に手を当てる。


ドワーフ「……息が……楽だ……」


別のドワーフが、目を丸くしたまま呟く。


別のドワーフ「寒くもねぇ……ちょうどいい…………天国か、ここは……?」


誰かが、静かに笑った。

誰かが、目頭を押さえた。


涙を拭いながら、

ドワーフの職人たちは、再び金槌を握る。


――まだ、やれる。

――もう、倒れなくていい。


次に始まったのは、

換気ダクトの清掃だった。


都市の中央通路に、

とんでもない代物を肩に担いだ男が現れる。


ガンツである。


巨大な金属筒。

無数の魔導刻印。

明らかに「掃除機」と呼んでいいサイズではない。


ガンツ「何百年分だろうが、詰まりは詰まりだ!」


担いだホースを、換気坑へ突っ込む。


ガンツ「吹き飛ばすぞ、耳塞げぇ!」


次の瞬間――


ゴオオオオオオオオッ!!


地鳴りのような轟音。


黒いススの雲が、

まるで生き物のように吸い込まれていく。


天井の奥から、

忘れ去られていた通路から、

長年、閉じ込められていた汚れが、一気に消えた。


そして。


風が、走った。


都市を、端から端へ。


ドワーフ「うおおお!」


ドワーフ「見ろ!」


ドワーフ「空気が……」


ドワーフ「動いてる!!」


誰もが、顔を上げる。


炎と鉄の都市に、

何百年ぶりかの――

「呼吸する空間」が戻った瞬間だった。


数時間後。


都市全域の温度は、安定して――二十五度。


もはや灼熱はない。

息を吸っても、肺が焼けない。

汗は流れず、頭は冴え渡る。


作業効率は、体感で三倍以上。

鍛冶炉の前に立つ職人たちの動きが、明らかに違っていた。


槌は正確に振り下ろされ、

金属は思い通りの形に応える。

無駄な休憩も、倒れる者も、もういない。


長老たちは、呆然と温度計を見つめていた。


長老「……我らは……暑さを“誇り”と勘違いしておったのか……」


やがて。


感謝の証として、

ドワーフの国から、一つの宝が差し出された。


重厚なケースの中に収められていたのは――

魔導刻印がびっしりと刻まれた、巨大なドリル。


ドワーフ長老「これは……魔導ドリル《アイゼンブレイカー》。」


低い声で、誇らしげに告げる。


ドワーフ長老「どんな岩盤でも貫く。我らが、最高傑作だ。」


サトウは、その重量を確かめるように手に取り、静かに頷いた。


サトウ「……ありがとうございます。大事に、使わせてもらいます。」


夜。


火山都市の一角。

地熱発電の灯りが、赤くも優しい光で街を照らしていた。


溶岩の流れは制御され、

炎はもはや脅威ではなく、景観の一部になっている。


サトウは、【異世界マテリアル・カタログ】から取り出したものを差し出した。


キンキンに冷えた、生ビール。


霜が浮かぶ缶から、冷気が立ち上る。


ガンツは、工具を置かず、煤の付いた手のままそれを受け取った。


ガンツ「監督ゥ……」


一口、喉を鳴らす。


ガンツ「……これだ。これが本当の――職人のための環境ってやつだな!」


サトウは笑い、軽く缶を掲げる。


サトウ「現場が快適じゃないと、いい仕事はできませんから。」


カン――。


二人の缶が、軽く打ち鳴らされた。


周囲では、ドワーフたちがグラスを掲げ、

豪快な笑い声を上げていた。


ドワーフ「生き返ったぜ、アイゼン!」


ドワーフ「風が通って、酒がうまい!」


笑い声が、火山都市に響き渡る。


かつては灼熱と苦痛の象徴だった場所が、

今は――熱狂と清涼が共存する、誇りの都市となっていた。


熱狂と清涼。


その両立こそが――

鉄鋼都市・アイゼンの、新しい日常。

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