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ダンジョン・リノベーター 〜住みにくい魔王城、改造します〜  作者: ラキラ
【新大陸・都市開発編】〜空飛ぶ城と、地図にない絶景分譲地〜

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13/25

エルフの森の「涙」:樹上住宅はカビの温床でした

「一軒の城を直せるなら、世界そのものだって直せるはずだ」


かつて「呪われた欠陥住宅」と蔑まれた魔王城は、今や大陸で最も住みたい憧れの超高層建築へと変貌を遂げた。一級建築士・サトウがもたらした「現代建築」の衝撃は、種族の壁を越え、歴史の停滞を鮮やかに打ち砕いたのである。


しかし、それは巨大なプロジェクトの序章に過ぎなかった。 魔王城の完工と同時にサトウのもとに舞い込んだのは、単なる建物の修理依頼ではない。


雲海に漂う「墜落寸前の天空都市」、 カビと湿気に沈む「エルフの秘境」、 そして、マグマの熱に喘ぐ「地底の工業都市」。


点から線へ、線から面へ。 サトウの引く図面は、もはや国境さえも塗り替えていく。 魔王ゼノンをオーナーに据え、最強の竜族ディアドラを現場監督に従えた「凸凹ホールディングス」の次なる現場は、この世界のすべて。


「さあ、着工だ。地図にない景色を、俺たちの手で分譲しよう」


一級建築士による前代未聞の「世界リフォーム」が、今ここから加速する。

魔王城のリフォームがひと段落し、サトウは重厚なオーク材のデスクに肘をついた。

手元には新大陸の地図が広がり、未踏の山脈は尖り、深い湖は暗く、霧に覆われた谷は吸い込まれそうな黒い影を落としている。

窓の外、冬の柔らかな陽光が木造の梁を淡く照らし、部屋全体に温もりと静謐を与えていた。

机の上の地図は、まるで彼の指先を通じて新たな世界が息を吹き返すかのように、緻密な線と色彩で生き生きとしている。


その静寂を切り裂くように、従業員が一通の手紙を持って現れた。

透かし模様が浮かぶ羊皮紙は、清涼な森の若葉の香りをほんのり漂わせ、指先に触れた瞬間、ひんやりとした冷気が流れ込む。

だが、封を切り文字を追った瞬間、サトウの胸に突き刺さったのは、優雅な森のイメージとは裏腹な、切実な「悲鳴」のような文章だった。


手紙にはこう綴られていた。


――古より聖なる巨木と共生してきた里が、正体不明の病に蝕まれている。

――住民は咳き込み、肌は荒れ、幼子たちは湿った寝床で夜通し震えている。

――長老たちは精霊の怒りだと祈るばかりだが、事態は悪化の一途。

――朝起きると、壁一面に黒い斑点が広がり、拭っても祈っても増殖するばかり。


サトウは手紙をそっと閉じ、肩越しに深いため息をついた。


サトウ「……呪いか。」


その声を聞きつけたかのように、隣で身支度を整えていたガンツが、重い鉄槌を肩に担ぎ、にやりと笑った。


ガンツ「へっ、今度は森の姉ちゃんたちからのお呼び出しですかい。監督、こいつは『構造上の欠陥』の匂いがプンプンしますぜ!」


サトウはもう一度手紙を見つめた。

目を閉じれば、湿気とカビに覆われた古城の記憶が脳裏に蘇る。

壁はただの装飾ではなく、住まいとしての安全を守る「構造」であること。

ひび割れ、湿気、朽ちた梁……それらすべてが、彼の中で戦場の設計図のように整理され、問題点が輪郭を帯びて浮かび上がる。


サトウ「……行くしかないな。」


ガンツは鉄槌を肩でぐっと押し、にやりと笑う。


ガンツ「覚悟しときな、監督。森の奥はただの自然じゃありませんぜ。生きてますからな!」


こうして一行は、幻想的な霧に包まれた霧幻の森へと足を踏み入れた。

木々の間を漂う湿った空気は、目には見えぬ苔やカビの匂いを含み、踏みしめる落ち葉は軋み、かすかな水音が耳をくすぐる。

空は薄紫色に霞み、遠くからせせらぎが聞こえる。

森の平穏と病の不協和音が、微妙な緊張感として彼らの鼓動に重なる。


霧深い早朝の森。淡い光が樹間をかすめ、朝露に濡れた葉が微かにきらめく。

枝の揺れに合わせて、天空に浮かぶかのような家々がほんのりと揺れた。

幹をくり抜き、枝を組み上げ、自然そのものを住まいに変えた幻想的な光景――まるで森そのものが息をしているかのような美しさ。

しかし、その美の裏には、住民たちの静かな苦悩が確かに存在していた。


木漏れ日が足元の苔を淡く照らす中、サトウが一歩足を踏み入れると、湿った土と腐葉土の匂いが鼻をくすぐった。

同時に、彼の【建築聖眼ビルド・スキャン】が真っ赤な警告を表示する。

目に見えぬカビの微細な胞子が、木材の奥深くまで浸透しているのだ。


エルフの乙女が、震える声で呼びかける。


エルフの乙女「サトウ様……私たちの里は『森の宝玉』と讃えられるほど美しいのに、住民の半分が咳や肌荒れに悩まされています……呪いでしょうか……?」


声はか細い。

だがその奥に、強い真剣さと悲痛が潜んでいた。

森の静寂に混ざるその声は、朝露の雫のように清らかで、しかし耳の奥に深く突き刺さる。

サトウは、彼女の肩の微かな震えを見逃さなかった。


サトウ「……呪いじゃない。黒カビです。それも、かなり手ごわいタイプ。」


その言葉は、幻想的な森の空気を少し冷たくした。

霧に揺れる家々や輝く朝露の美しさと、現実の劣化――見えない黒カビが木々の内部を蝕む残酷な現実とのギャップ。

サトウは眉をひそめ、胸の奥に職人としての使命感を静かに燃やす。


サトウ「住民たちを守るのは、呪いよりも、この森の構造だ。手を抜けば、この美しい里も、あっという間に住めなくなる。」


彼の声は低く、しかし森の空気に自然と溶け込む。


サトウは慎重に家々を巡った。

木造の家々は確かに美しい。

幹や枝をそのまま活かした家々は、まるで森そのものが息づいているかのようで、濃霧に包まれた幻想的な光景は息を飲むほどだ。

しかし、その幻想の裏には、湿気という名の“魔物”が潜んでいた。

木材は水分を吸い込み、内部から腐敗が進んでいる。

夜になると室内は結露の嵐。

布のカーテンだけで防寒しているのが、かえって湿気を呼ぶ悪循環になっていた。


サトウ「木の壁が水分を吸いすぎて腐り始めています。断熱材もないので、夜は室内が結露だらけ……布だけのカーテンじゃ、湿気を止められませんね。」


ガンツは肩を揺らして壁を軽く削ると、中から白い胞子をまき散らすように、キノコ――魔導菌がドバッと噴き出した。

森の静寂が一瞬で悲鳴に変わる。


エルフたち「ぎゃああああ!」

乙女「こ、こんな……!」


その光景に、長老たちが慌てて立ちはだかった。


長老A「聖なる木に穴を開けるなど、自然への冒涜だ!鉄の道具を近づけるな!」


ガンツ「監督ゥ!聖なる木だろうが何だろうが、ここは補強と換気が最優先ですぜ!……え?天然木に穴を開けるのは怖い?いや、魔力吸収型チタンボルトなら大丈夫っす!」


ディアドラは無言で腕を組み、鋭い金色の瞳で現場を睨む。

手には、釘を曲げる魔力を秘めているらしい微かな光が走る。


ディアドラ「……くっ……サトウ、またあの乙女と楽しそうに話して……っ」


サトウは微笑みを浮かべ、静かに答えた。


サトウ「自然を愛することと、病気になることは別です。このままでは、この巨木自体が腐って倒れますよ。」


乙女の瞳がわずかに潤む。

森を守りたい――その願いは純粋で、強く、美しい。

しかし、現実の湿気とカビには、どんな祈りも無力だった。

サトウの言葉は、希望と絶望の間で揺れる心に、冷たくも確かな現実を突きつける。


サトウは深く息を吸い込み、森の冷たい空気と湿気を胸いっぱいに感じた。

湿った土の香り、苔の匂い、霧に絡む木の香り――森そのものが呼吸しているような感覚。

手にはすでに準備された工具と、緊急用の建築魔法の図面。

幻想的な森の美しさと、現実の劣化という二つの顔の狭間で、彼の心は静かに、しかし確かに決意を固めていた。


サトウはカタログをぱっと開く。

指先がページをなぞると――まるで魔法を呼び出す呪文のように、業務用高圧洗浄機と防カビ塗装の道具が光を放ちながら出現した。

金属の光沢と蒸気の匂いが、霧深い森の空気に溶け込む。


サトウは洗浄機のノズルを壁に向けた。

水流が木の壁に触れると、黒カビの層が滑るように剥がれ、壁面を伝い落ちていく。

長年染みついた汚れが、水とともに地面へと落ちるたび、森の緑が光を反射して揺れた。

まるで森そのものが、汚れを払い清められていくかのようだ。


乙女「わ……わあ……!」


その声は驚きと感嘆が混ざり、霧の中に柔らかくこだました。

長老たちも、杖を握った手が一瞬止まるほどの衝撃を受けた。


サトウは微笑みを浮かべ、静かに説明した。


サトウ「木を傷めず、呼吸させながら家をリフォームする案です。湿気も黒カビも、これで少しずつ退治できます。」


目の前に広がるのは、まるで魔法のような技術の数々だった。

外壁には幹と居住スペースの間に空気の層が設けられ、湿気は自然に逃げていく仕組みになっている。

窓は複層ガラスで作られ、結露を防ぎながらも、森の景色をまるで絵画のようにクリアに映し出す。

さらに室内の壁には、多孔質のセラミック素材――エコカラットが施され、湿度を一定に保つことで、森の湿気を受けながらも快適な空間を作り出していた。


サトウが指先で壁や窓に軽く触れると、空気が静かに流れ、湿気がすっと抜けていくのが、まるで目に見えるかのようだった。

霧深い森の幻想に、新たな命が吹き込まれる瞬間。

技術と自然が溶け合い、森そのものが息を吹き返すかのようだ。

それはただ美しいだけでなく、確かな安心感を宿していた。


ガンツは胸を張り、魔力吸収型チタンボルトを取り出す。

金属の表面が淡く光を反射し、微かな振動とともに、木の幹にぴたりと吸い付く。


ガンツ「監督ゥ! この補強なら、森のどんな嵐でも倒れませんぜ! 子供たちも安心です!」


サトウは頷き、森の清涼な空気を胸いっぱいに吸い込む。

壁から湿気の匂いが消え、代わりに木と土の香りが戻ってきた。

風が枝の間を吹き抜け、葉がさざめく音が小さく響く。


乙女の瞳がきらりと輝き、長老たちの口元にも驚きと安堵の笑みが浮かぶ。


エルフの乙女「……これが……本当に……」


長老A「まるで……森自身が、再び息を吹き返したかのようだ……!」


森の美しさはそのままに、黒カビの影は消えた。

技術と知恵が、幻想の里に静かな奇跡をもたらした瞬間だった。


サトウは微笑み、そっと手を壁に置く。

木のぬくもりが、湿気のない清らかな空気とともに指先に伝わる。

森も、住人も、再び安心して呼吸できる――その確かな手応えが、彼の胸に小さな誇りを灯した。


咳き込んでいた子供たちは、サトウたちの手によって整えられた家の中で、みるみる元気を取り戻していった。

小さな足が木の床を軽やかに踏みしめるたび、軋む音が霧に包まれた森に跳ね返り、やわらかな響きを生む。

笑い声が枝葉を伝わり、かつて静まり返っていた森に、再び生命の息吹が溢れ出す。


エルフたちは、深い感謝と恩義を胸に、静かに頭を下げた。

柔らかな声で、しかし確かな決意を込めて告げる。


エルフの乙女「サトウ様……私たちの森の木材を、『凸凹工務店』に独占提供いたします。どうか、これからも皆を守ってください。」


サトウは微笑みを浮かべ、目の前の森を見渡した。

木々の間に差し込む朝の光が、濡れた葉をきらきらと輝かせ、森全体を祝福するかのように揺れている。

心地よい土と木の香りが鼻腔に満ち、静かな森の呼吸が手に取るように感じられた。


サトウ「これで魔王城の家具も、最高級の無垢材で作れますね。」


その横でディアドラは無言のまま、釘を曲げる作業を続けていた。

鋭い金色の瞳は、森の美しさと、子供たちの笑顔を見つめる。

しかし、その目の奥には、言葉にできない複雑な思いが揺れている。

守るべき森と、人々の喜び、そしてサトウへの淡い感情――すべてが静かに交錯していた。


森の中には、笑い声と木の香り、湿った土の匂い、そして希望の空気が満ちている。

幻想のような美しさと、確かな現実の安心感が重なり合う場所――ここに、サトウと仲間たちの静かなる功績が刻まれた瞬間だった。

執筆の原動力は、読者の皆様からの反応です! 画面下の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしていただけるだけで、作者のやる気が跳ね上がります。少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ評価・応援をよろしくお願いします!

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