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ダンジョン・リノベーター 〜住みにくい魔王城、改造します〜  作者: ラキラ
【魔王城再建編】 〜一級建築士の劇的ビフォーアフター〜

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11/28

最終決戦前夜? 聖王国大司教、まさかの「リフォーム依頼」

真夜中の魔王城。


古城特有の冷たい石造りの廊下は、闇に沈んでいた。魔力で灯された警備用の魔法灯だけが、淡く黄緑色の光を撒き散らし、壁に長い影を落としている。風も音もない静寂の中、ただ石の冷たさだけが足元に伝わってくる。


――コン、コン。


微かな音が、静寂を切り裂いた。勝手口の扉が、控えめに叩かれる。


その扉は、最新型の指紋認証、顔認証、魔力パターン認証を組み合わせた、魔王城でも屈指の防御ポイントだった。普通の侵入者なら、まず突破不可能。


警備兵は身を固くし、手を軽く刀の柄にかける。背筋に、戦闘態勢特有の緊張が走る。


警備兵「……誰だ?」


モニターに映ったのは、フードを深く被った細身の人影だった。影の下から、かすれた声が漏れた。


『お、驚かせてすまぬ……』


その声には、戦場で鍛えられた老練さと、どこか穏やかな温もりが混ざっている。


『聖王国より……密使だ。』


警備兵の目が、一瞬だけ大きく見開かれる。心臓が、思わず早鐘を打った。


警備兵「聖王国!?」


廊下の空気が、一瞬にして重く、張り詰めた。魔法灯の光が、微かに揺れ、壁に映る影が不自然に伸びる。静寂の中、フードの人影はゆっくりと手を上げ、扉のロック解除を促す。


その仕草に、警備兵は少し戸惑いながらも、魔力認証を行う準備を始めた。


警備兵「……まさか、深夜に、密使が来るなんて」


背後で、石造りの壁が冷たく響く。まるで城そのものが、緊張を共有しているかのようだった。


数分後。


玉座の間の扉が重々しく開かれると、縛られた密使が床に引きずられながら押し込まれた。背筋を伸ばした魔王ゼノンの鋭い視線が、その人物を捕らえる。


魔王ゼノン「で?」


彼の声は低く、暗闇に落ちる雷鳴のように響く。玉座の間の空気が、一瞬で張り詰める。


魔王ゼノン「こんな時間に、何の用だ。」


密使は震える手で、少し折れ曲がった封書を差し出す。その指先から、緊張と恐怖がひしひしと伝わる。


密使「……大司教様からの、密書です。」


サトウは封書を受け取り、丁寧に開封した。蝋で封がされ、聖王国の印章がきらりと光る。彼の目が文字を追うにつれ、眉がゆっくりと寄る。


サトウ「……は?」


魔王ゼノンが首を乗り出し、覗き込む。


魔王ゼノン「何て書いてある?」


サトウは淡々と、感情を押し殺すように読み上げた。


サトウ「『魔王城の建築士サトウを、極秘で聖王国総本山へ派遣せよ。報酬は弾む。なお、この件は口外無用とする』」


玉座の間に、沈黙が重くのしかかる。


魔王ゼノン「……は???」


サトウは、迷いなく即答した。


サトウ「罠ですね。」


魔王ゼノン「だよね!?」


その言葉が出た瞬間、密使はついに堪えきれず、床に頭を擦りつけた。細かく震える肩から、嗚咽が漏れる。


密使「ち、違うのです……!」


床に額をこすりつけたまま、彼は震える声で告白する。


密使「実は……総本山の雨漏りが……もう……祈祷中に!聖水ではなく!ただの泥水が!大司教様の頭に直撃しているのです!!」


玉座の間の空気が、一瞬で変わった。緊張の波が滑稽さに変わり、静寂の中で微かな笑いの気配が漂う。


サトウは封書を握ったまま、深く息をつき、すべてを察した。


サトウ「……あー」


その一言に、魔王も密使も思わず肩を揺らした。状況の滑稽さと緊迫の奇妙な混合が、夜の魔王城を包む。


数日後。


深い夜の帳を抜け、サトウ、ディアドラ、ガンツの三人は、地味な作業服に身を包み、「リフォーム業者」に変装して聖王国へ潜入していた。手には工具箱、肩には設計図を差し込んだ筒。背筋に張り詰めた緊張が走る。


総本山――外から見れば、白亜の壮麗な大寺院。光を受けて輝く大理石の塔、威厳ある尖塔、まるで天を貫くかのようにそびえ立つ聖堂。


だが。


裏手に回った瞬間、サトウは眉をひそめ、唇をわずかに噛んだ。


サトウ「……これは、ひどい。」


表面からは想像もできないほど、寺院の内部構造は疲弊していた。外壁は確かに新しく塗り直され、白く輝いている。しかし、それはあくまで“上塗り”に過ぎなかった。


基礎は歪み、柱の継ぎ目に微かな亀裂。排水溝は土と落ち葉で詰まり、湿気で石材の継ぎ目は黒ずみ、苔が生えている。風雨に晒された跡が、生々しく残っていた。


サトウは工具箱を肩にかけたまま、目を細めて観察する。


サトウ「メンツ優先で外だけ直した結果ですね……」


ディアドラは小さく唸り、頬に手を当てる。


ディアドラ「これ、見つかったら総本山の威信が丸つぶれじゃ……」


ガンツは肩をすくめ、渋い顔で呟いた。


ガンツ「……まあ、裏はいつもの王国クオリティだな。」


さらに中へ。


暗い廊下を進むにつれ、鼻を突く、強烈な香りが三人を襲った。


サトウ「……この匂いは……」


ディアドラは眉をひそめ、鼻を押さえつつ呆れた声で答える。


ディアドラ「カビを誤魔化すための香木ですな……」


咳をこらえつつ、ガンツも肩をすくめる。


ディアドラ「喉をやられます、これは。」


石造りの廊下に漂う煙は、昼間なら荘厳に見える白亜の総本山の裏手を、まるで“現場の工事中”のように変えていた。湿った石と埃の匂いが、香木の匂いと混ざり合い、むせ返るような空気を作る。


その時、人目を忍ぶかのように、ゆっくりと一人の老人が現れた。


豪奢な金糸の法衣をまとい、宝飾の帽子をかぶった大司教エージェント・バルバント――年齢を感じさせるしわがれ声と威厳を漂わせ、杖を軽くつきながら廊下を歩く。


バルバント「……サトウ殿」


その声はかすれているが、切迫した、必死の声だった。三人の背筋に緊張が走る。


バルバント「頼む……この“玉座の下”だけは……誰にも知られず直してくれ。」


サトウは封書を握りしめ、目を細めて大司教の顔を見上げる。薄暗い廊下に漂う香木の煙が、彼の決意をさらに際立たせる。


彼は、重々しく床を踏みしめた。


――ギシ。


軋む音が、静かな屋根裏の空気に響く。湿気を帯びた木材が、年季を感じさせながらも、まるで必死に耐えているようだった。


バルバント「湿気でな……抜けそうなのだ……毎日、説法しながら死を覚悟しておる……」


サトウは、肩にランタンを掲げながら、屋根裏の構造を静かに確認する。淡い光が梁や柱を照らし、埃が舞って黄金色に浮かび上がる。


サトウ「……なるほど。」


静かに頷き、彼の目は床下の歪み、屋根の勾配、排水の流れを一瞬で読み取る。


数分も経たず、原因は明らかになった。


サトウ「……やっぱり」


無理な増築だ。


屋根の勾配は狂い、本来なら重力に従って流れるはずの雨水が、まるで逆流するかのように屋内に滞留している。梁や柱は湿気にむせ返り、石材の継ぎ目には苔が薄く生えている。


サトウは天井の梁に刻まれたルーン文字に指を這わせる。


サトウ「このルーン文字……これ、魔王軍を防ぐ呪文だと思って刻みました?」


大司教は小さく、しかし真剣に頷いた。


サトウ「……ただのダムです。」


バルバント「なに?」


サトウ「水の流れを、全力で止めてます。そりゃ、溜まりますよ。」


大司教は頭を抱え、床に手をつく。法衣の袖が埃まみれになる。


大司教「……自業自得、というやつですな……」


サトウは天井を見上げ、ため息交じりに呟く。


サトウ「いや、まあ……これなら、誰にも気づかれずに直せますね。」


ディアドラは肩越しにちらりと覗き込み、苦笑する。


ディアドラ「……現場としては、最悪のパターンですな。」


ガンツはランタンの光を手元に落とし、屋根裏に溜まった水の跡を見ながら、ため息をつく。


ガンツ「……祈祷中に泥水直撃も、これなら納得だわ。」


湿気と埃、そして魔法的なルーン文字に囲まれた屋根裏。

そこに立つ三人は、修繕計画を頭の中で組み立てながら、静かに作業に取りかかろうとしていた。


そのとき。


ディアドラが鼻を鳴らした瞬間、屋根裏の扉が勢いよく開いた。


――バタンッ!


勇者レオだった。金色の髪を風になびかせ、剣を携えたその姿は、まるで戦場から飛び出してきたかのように鋭い。


勇者レオ「そこにいるのは――」


サトウは即座に状況を判断し、反射的に動く。


サトウ「まずい!」


作業用の目隠しシートを瞬時に展開し、視界を遮る。煙のように舞う埃や、湿った石の粉が飛び散る中、簡易足場を手際よく組み上げる。


サトウ「レオさん!ここ、アスベスト(的な魔素塵)が飛散してます!」


勇者レオ「な、なんだと!?」


サトウは目の前の勇者に手を振り、指差す。


サトウ「立ち入り禁止の看板、見えませんか!?」


勇者は目を大きく見開き、息を飲む。


勇者レオ「アス……ベスト……?」


ディアドラも小声で咳をしながら呟く。


ディアドラ「新種の禁呪か……」


その隙に、サトウは集中力を最大限に高める。玉座の真下へ手早くジャッキを差し込み、力を込めて床を持ち上げる。


――ギリギリ……


軋む木材と床下の梁の反響が、屋根裏に低く響く。


サトウ「よし……これで……」


そして、渾身の力を込めて鋼鉄の支柱を差し込み、床を支える。


――ドン。


硬質な音が屋根裏に響き渡り、埃が舞う。支柱が床をがっちり支え、わずかな揺れも吸収する。


サトウは汗をぬぐい、ランタンの光で支柱を確認する。目の前の勇者は、まだ呆然と立ったままだ。


サトウ「……これで、祈祷中に泥水直撃の可能性は消えました。」


ディアドラは肩を揺らして、呆れ半分で笑う。


ディアドラ「……いや、戦場より現場のほうがずっと危険ですな。」


ガンツも頷きながら、ランタンを調整する。


ガンツ「……まったく、勇者の出番より、建築士の出番のほうが重要とはな。」


屋根裏に漂う埃と煙、そして鋼鉄の支柱。


数時間後。


屋根裏から漏れ落ちていた雨水は、完全に止まった。

軋んでいた床も、しっかりと支柱に支えられ、異音ひとつ立てない。

静けさが屋根裏に戻り、埃だけが舞う。


大司教は、サトウが持ち込んだ透湿防水シートを、震える手で撫でながら、まるで魔法を見たかのように息を呑んでいた。


バルバント「こ……これが……現代建築……」


その瞳には涙が滲み、やがて頬を伝い落ちる。

彼は深く頭を下げ、声を絞り出した。


バルバント「……感謝する……」


サトウは淡々と、しかし厳格に条件を告げる。


サトウ「修理代は――」


一拍置いて、低く、確信をもって続ける。


サトウ「聖王国と魔王軍の不可侵条約。それと、魔国への建築資材の関税撤廃で。」


大司教はしばし唇をかみ、苦渋の表情で頷いた。


バルバント「……背に腹は代えられぬ……床が抜けるよりは……マシだ……」


こうして、世界初の――

“建築協定”が結ばれた。

戦場ではなく、建築現場から生まれた奇妙な平和。


だが、安堵は束の間。


魔王城へ戻る馬車の中で、サトウはふと天井を見上げた。

闇に包まれた夜空を透かすように、深く考え込む。


サトウ「……地下、か。」


あの総本山の、立ち入り禁止区域。

誰も足を踏み入れたことのない、魔法と古の秘密に満ちた“本当の闇”。


最終決戦――

その幕は、まだ開かれてすらいなかった。


サトウの瞳には、わずかな光が揺れる。

しかし、決意は揺るがない。

建築士としての使命と、魔王城で培った“現場勘”が、次の戦場を予感させていた。


屋根裏で流した汗と、透湿防水シートの光。

それは小さな勝利だったが、戦いはまだ続く――。

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