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ふとっちょ裸族は案外無敵の着ぐるみだった

作者: 猫茶屋

目に止めて頂きありがとうございます。短編ですのでよければお暇潰しにでも!(*'ω'*)

ぼよよーんっ ぽよんっ ぽよんっ


私に切り掛って来た騎士が弾き飛ばされる。


「陛下ー!無理です!斬れません!」

「ぬぁんだとぉ! では撃ち殺せ!」


パァン! ぽんっ ぽんっ


「陛下ー!銃も無理です!弾が弾き返されます!」

「くそぉ!では魔法ではどうだ!」


ブォォッ ピシャーッ


炎や雷も効果はなかった。


「いったいどうなっているんだ、この化け物めっ!」

「知らんがな!勝手に呼び出したのはそっちだろうがよ!

 バイトの途中だったのにどうしてくれる!」

「バイトとはなんだ! 

 そもそも俺が呼び出したのは勇者であってふとっちょ裸族ではない!」

「ふとっちょ裸族とは失礼な!これは力士っつーんだよ!」


そう、私は子供相撲のイベントで力士の着ぐるみを着てバイト中だった。

子供に風船を配ったり一緒に写真を撮ったり、着ぐるみ同士で相撲にならない相撲をしてもいた。

おりゃぁと相手の着ぐるみを投げた瞬間、煌びやかな場所へと居た訳だ。

何が起こったのかを考える間も無く切りつけられて撃たれて炙られて雷を喰らった。

まぁ不思議とどの攻撃も弾き飛ばしたのだけど。


さっきから陛下陛下と騒いでいるのであの王冠を被ってふんぞり返っているのが王なのだろう。

取り巻いているじいさんやおっさんが要職に就いているって感じか。

状況から察すると異世界転移ってのだと思う。

だけどさ、話す前から行き成り攻撃とか酷くね?

腹が立つので陛下とやらに近付き胸倉を・・・つかめなかった。

着ぐるみの胴回りが太すぎて手が届かない。

代わりにぽよんっと陛下を腹で突き飛ばす形になってしまった。


「「「 ぶふっ 」」」


はい、そこ!一応は臣下なんだろうから吹くな!笑うな!耐えろ!


「な、な、なにをする!」

「近寄っただけじゃん。勝手にアンタが吹っ飛んだんだろうがよ」

「ふざけるな!」

「ふざけてないし、いたって真面目だ!」


手が届かないなら足だと思い回し蹴り・・・も届かない。

考えてみりゃ当たり前か。

でも勢いよく蹴り上げたのでそのままクルリと回転して今度は尻で陛下を跳ね飛ばした。


「「「 ぶぅーっ 」」」


先程は耐えた騎士達までもが吹いた。

陛下は怒りだか羞恥だか知らんけど顔を真っ赤にしている。


「ぶっ ぶっ 無礼者めー! そいつを牢にぶち込んでおけ!」


騎士達は肩を震わせながら私を掴もうと・・・

待て、にぎにぎと感触を確かめる様に触るんじゃない。

いくら腕でもそんなに触るもんじゃぁない。

中身は一応女なんだぞ、分からないだろうけど。


「なんだこの触り心地は・・・」

「人とは思えぬこの心地よさ・・・」


まぁそりゃ着ぐるみですし?

イベント会社のこだわりで触れ合う子供達が心地よいようにと着ぐるみの詰め物はビーズクッションの中身、発泡ビーズですし?

なんなら頭部にはボイスチェンジャーついててハスキーボイスで喋る様になってますし?

ちなみに脱着は1人でも出来る様に内側にもファスナーが付いている。

脱げばいいんだろうけど、癪に障るし面白いしでしばらくこのままで居ようと思う。

なんでか不思議と防御性能良かったから、着ておいた方が安全そうだしね。


むぎゅっ


ちょ、騎士!なんで抱き着いてくる!やめい!

あぁぁ、こっちの騎士まで!

ほら、お偉いさんとか陛下とか唖然としながら見てるじゃんか!注目浴びてるじゃんか!ちょっと離れろって!


「お前達、何をしているのだ」

「団長、団長も触れば解りますって!」

「何とも言えないこの感触、このまま埋もれてしまいたい」


いやいや埋もれるんじゃない、団長とやらに触れと勧めるんじゃない。

お前等仕事中だろう!


「馬鹿な事を言ってないでさっさと牢に連れて行け」


そうそう、流石団長!と思ったのに私の腕を掴んだ瞬間固まった。


「こ、これは・・・」

「えぇい!しっかりせんか!勤務中だろうがよ!はよ牢に案内せぃ!」

「「ハッ、そうだった」」


何故私が叱咤せねばならんかな・・・


「また腑抜けても困るんで触るなよ?

 心配なら縄でも腰にくくっとけ」


とは言ったものの、縄を括る時に触れてしまうのでそのまま後ろを付いて行く事になった。

移動する私の背中にじぃさん、おっさん連中の視線が突き刺さる。


「触り心地がどうしたと言うのだ、気になるではないか」


ボソリと呟いたのは陛下だった気がする。




「 ・・・ 」

「「「 ・・・ 」」」


騎士2人に団長、そして私の4人は言葉が出なかった。

牢は地下にあるらしいのだが通路となる階段が狭くて、いや着ぐるみじゃなければ普通だと思う。

こうなりそうな予感はあったんだよなんとなく。

みごとに挟まって身動きが取れなくなってしまった。

前に進む事も後ろに下がる事も出来ない。

着ぐるみだからなんとかなりそうな気がするだろ?ならなかったんだよ。


「団長、どうしましょうこれ」

「困ったな、このままと言う訳にもいくまい」

「このままだともよおした時に困るんだが」

「なに?! 待て今はマズイ。まだ我慢しろ!」

「今はまだ大丈夫だけど、ずっとこのままだと

 いずれはもよおしそうじゃん・・・」

「確かにな、何か策を講じるから待っていろ。陛下に報告してくる」


そう言って団長は駆け出して行った。

頑張ってくれ団長。

私は今非常に喉が渇いているのだ。

着ぐるみの中は温かい、そして動き回るので汗をかく。

なので脱水予防で定期的に水分補給をするように言われていた。

その水分補給休憩の5分前に此処へと呼び出されたのだから当然喉が渇いている。

だが挟まった今の状態で水分補給なんぞしたら、一気に尿意が襲ってきそうだ。

耐えろ私、耐えるんだ。着ぐるみの中で洩らしたとか匂いがヤバイし着ぐるみのクリーニング代を弁償する事になる。

バイト代が吹っ飛ぶじゃないか。

待てよ、そもそも元の世界に帰れるかも解んないからクリーニング代とか気にしなくても?

いや駄目だろう、匂いもあれだが大人が洩らすとか無理!

などと考えていたら団長が戻って来た。

足音からして複数人来ているようだ。


「ぐはっ、なんという珍妙な恰好で挟まっているんだ!

 もう少し普通の格好で挟まる事は出来なかったのか!」


この声は陛下か。珍妙なと言われても自分では見えないのだから答えようがない。

ましてや普通の格好で挟まれといわれても困る。

誰が「この格好で挟まろう」などと考えるというのだ、無茶を言う。


「こんな姿で骨や内臓は大丈夫なのでしょうか」

「呼吸は大丈夫なようですな」


骨や内臓心配されるような姿っていったい・・・

まぁ生身だったら擦り傷とかヤバかっただろうけど着ぐるみですし?


「このままという訳にはいきませんし、いかがいたしましょうな」

「壁を壊す事は出来るか?」

「幸い入り口で挟まっているのでその周辺だけなら可能では?」


解決策を話し合ってくれるのはありがたいんだけど、挟まったままの私を見ながら話し合う必要はないんじゃないかな。

話し合いの結果、体の周りの壁を少しだけ削る事になった。

あまり大幅に削ると城の一部が崩壊するかもしれないらしい。


「では削りますので動かないでくださいね」


作業員にそう言われたけど動きたくても動けないから削るんだよ・・・

まぁ少し削って隙間が出来たとしても全身が動けるようになるまで動くつもりも無いけど。

動いたばかりに崩壊したとかになっても嫌じゃん。


んぐぐぐっ ぽんっ


しばらくしてやっと抜け出すことが出来た。

手作業だったのでかなりの時間が掛かったように思う。

暇だったのか陛下を始めとする全員がその場に留まって見守っていたようで、抜け出した瞬間にどよめきが起こった。


「陛下、牢は無理なのでは?」

「解っている!これ見て解らなければ阿呆だろ!

 こいつが挟まらずに移動出来る場所は何処だ・・・」

「厩でしょうか・・・」

「さすがにそれはマズイだろう!こんなんでも一応は人間だからな?」


こんなんでもって・・・まぁ見た目は着ぐるみ力士だけど。


「ですが陛下、他となれば貴賓室か会議室になるかと」

「貴賓室は駄目だ!会議室も使うだろう。他に無いのか?」

「使っていない客間があったのでは?」

「あそこは手入れがされていないだろう!」

「掃除くらい自分でするが?」

「出来るのか?!」

「箒と塵取り、モップがあれば」

「よし、用意させよう」


使かってない客間とやらは2階部分にあった。

着ぐるみのまま二階への階段が登れるか不安だったが、後ろから騎士2人が支えてくれていた。

たぶん重さはそこまで無いとは思うけど、すまないね・・・


「あぁこの触感・・・」

「このまま顔を埋めてしまいたい・・・」


待て!だからな?指をモニモニ動かすな!そして顔を埋めようとするな!

お前等が支えてる場所尻だからな?!

着ぐるみだから私はどうとも思わないけど、他者からみたらお前等変態に見えるからな?

はよ部屋についてくれ、部屋にさえつけばこの騎士達ともお別れ出来る。


そう思ったのに、部屋の扉の前に見張りとしてこの2人が就いた・・・

陛下が「触り心地がうんぬんと、これ以上惑わされる人員を増やすな」と言ったからだ。

別に私が惑わしている訳じゃないんだがな・・・


気にしても仕方が無いのでさっそく掃除に取り掛かる。

窓を開けて換気をしながら箒ではいて・・・


「そないじっと見られてもな?・・・」

「すみません、あまりにもキビキビと動かれていらっしゃるので・・・」


もしかしたら動けないのではないかと心配した陛下がお掃除メイドを3人寄越してくれたのだが、私をじっと見つめたまま動かなくなっているのだ。

陛下の心配はある意味正解。

力士など鍛えている人以外で生身のこの体型なら、まずキビキビとは動けないかもしれない。

着ぐるみのこの姿でも箒やモップなどの立った作業だから出来るけど。、雑巾がけをやれと言われたら自分が転がる自信がある。


掃除が終わった頃、今度は衣装係がやって来た。

さすがにこのままの姿では支障があるらしい。

私としては着ぐるみだし、中はTシャツにジャージ着用なので気にもしていなかった。

陛下に言わせればふとっちょ裸族らしいのだがそもそも着ぐるみなのでそんなにリアルな質感ではないと思うんだがな・・・

しかし衣装か、こまったぞ。

この世界の人達は女性はドレスでまだ分かるが、男性もシャツにやたらとフリルが付いているのだ。

力士の着ぐるみがフリフリのフリルシャツを着た姿を想像してみる。

駄目だ、ボタンは弾け飛んでズボンのお尻がバリッといく姿しか想像できない。

これは定番のゆかたを作って貰う方がいい気がする。

そう思い紙に絵を描いて説明しようとするのだが上手く座れない。

しゃがもうとして中腰になるとお腹が邪魔をしてスクワットの様な形のまま後ろに転げてしまう。

ならばとその状態から横向きで起き上がり胡坐を掻こうとすればこれまた横に転がってしまう。

ぽよんっ ころころと起き上がりこぼしみたいになっている、まいったな。

いつも休憩中は着ぐるみ脱いでいたもんなぁ・・・

ならば覚悟を決めて脱ぐか?

流石にいい加減何か飲みたいし、トイレにも行きたい。


そう覚悟を決めた時、何やら廊下が騒がしくなった。

何事かと廊下に顔を出せば陛下が凄い形相で走って来る。


「陛下お待ちください!出歩かれては危険です!」

「解っている!だが・・・

 おい、ふとっちょ裸族!しばらく部屋から出るなよ!

 敵国の暗殺者が紛れ込んで」


陛下がそう叫んだ時、衣装係の目がキラリと光り陛下めがけて走り出した。

は? え? 暗殺者ってもしかしてあの衣装係?!

ヤバイヤバイ!止めないと!


「「 陛下!! 」」

「ふらいんぐぼでぃあたーっく!!」


走って勢いをつけ飛び上がり衣装係にボディアタックをかます。

着ぐるみだからそこまでダメージを与える事は出来ないだろうが動きを抑えることくらいは出来るだろう。


「ふにゃぁ~」


衣装係、もとい暗殺者は手からダガーを放し抱き着いて来た。

ちょ、抱き着くんじゃない! ふにゃぁとか変な声も出すんじゃない!


「ぬあぁ、放せ放れろ放れんかー!!」

「いやぁん、もっとぉ~」

 「「「 ぶふっ 」」」

「変な言い方すんじゃない!は・な・れ・ろ!

 ちょっと陛下、笑ってないでこれ引き剝がしてくれよ!

 ほらそこの騎士2人も!笑ってる場合じゃないだろ!おい!」


さっきまでの緊張感は何処行った。

なんでもいいからはよ引き剥がしてくれ!いつまで笑ってんだよ、ああそうかい分かったよ。

こうなりゃ巻き込んでやる!

私はそのままころころと転がり騎士と陛下に体当たりを喰らわした。


「なにをす・・・ふにゃぁ」

「陛下だいじょ・・・ふにゃぁ」

「貴様等何をしておるのだ。さぁ陛下お手を・・・ ふにゃぁ」


じぃさんお前もかいっ!

合計5人に抱き着かれて、私暑いんだけど?

駆けつけた他の騎士さん達になんとか引き剥がして貰い一段落した。


「おのれふとっちょ裸族。私の殺意を消失させるとはなんと恐ろしい誘惑を!」

「してねーし!誘惑なんぞこれっぽっちもしてねぇよ!

 フライングボディアタックかましたら勝手にしがみ付いて来たのはお前だろ!」

「あの質感。肉に埋もれた時の何とも言えぬ至福感。

 あのまま永遠に埋もれていたかった・・・」

「永遠にとかって怖いだろそれ!

 他の4人もうんうん頷いてる場合じゃないだろ!」

「ハッ、そうでした。陛下、暗殺者はまだ他にもおります。

 ささっ、速く安全な場所へ」

「あ、ああ。そうだな。おい、ふとっちょ裸族。貴様も一緒に」


「死ねぇぇぇぇ!」

ドカンッ


あっぶねぇ、魔法だろうか。巨大な火の玉が降って来た。

声がした方を見れば、いかにも魔法使いですといった格好をした人が立っている。

あれも暗殺者か。

と言うかだね、暗殺者が声出すんじゃねぇよ居場所丸分かりだろうが。

しかも覆面するなり口元かくすなりしろよ、顔も丸わかりじゃねぇか・・・

魔法使い以外にもワラワラと姿を現し始める。

え? もしかしてこれ全部暗殺者?


「ちょっと陛下、アンタどんだけ恨まれてんだよ。

 暗殺者の数多すぎじゃね?」

「恨まれる覚えはない!」

「じゃぁなんでこんな大勢に命狙われてんだよ!」

「俺に聞くな!」

「あのお2人共、今は口論をしている場合ではないかと・・・」


確かにそうだった。

と言うか陛下の護衛少なくね?


「陛下、アンタ人望無いの?

 護衛が少なすぎじゃないか?

 普通こういう時ってもっと護衛だの騎士だのって

 ドバーッと集まるもんなんじゃないの?」

「うるさい!いつもはもっと集まるんだ!」

「じゃぁなんで今来ないんだよ」

「たぶん寝返った、もしくは元々偵察で入り込んでいたんですかねぇ」

「ですかねぇじゃないだろじぃさん!」

「ですから今は口論をしている場合では・・・」


しまった、つい。

さて取り囲まれた訳だがこれはどうしたらいいのやら。

確か着ぐるみには魔法が効かなかった。剣や銃も効かなかった。

しかも着ぐるみに触ったら最後皆腑抜けになる。

なるほど、これはもしかしてもしかしなくても私最強なんじゃね?

そうと解れば・・・


「ろーりんぐぼでぃあたーっくっ!ひゃっはーっ!」


まんまるフォルムを活かしてゴロンゴロンと転がっていく。

投げナイフだったり銃弾だったり魔法だったりが飛んでくるけど全てをぽよんぽよんっと弾き返している。

なんて便利なんだこの着ぐるみ。

つい楽しくなって調子に乗ってしまい、すべての暗殺者を腑抜けにした頃には私の目は廻ってしまっていた。

うぅーん、気持ち悪い・・・


「おい、ふとっちょ裸族。大丈夫か!」

「陛下!今肩を揺さぶるのはマズイかと!」

「 ん? 」

「ぎぼぢばぶい・・・」うぇーっぷっ けろけろけろっ

「「「 うぎゃぁぁぁぁ 」」」


見事にリバースした。当然着ぐるみの中に・・・

ただ呼吸の為の空気穴や視界確保の為の穴からもプシャーと溢れ出たようで後に陛下から恐怖でしかなかったと聞いた。

幸い溢れ出た液体は暗殺者に降り掛かったらしく、騎士達にはかかってなかったようでよかった。


私はと言えばそのまま気を失ったようで、気が付いた時には着ぐるみは脱がされておりベッドに寝かされていた。


あの後駆けつけた騎士達が無事に暗殺者たちを捕獲して連行していったらしい。

そして動かなくなった私を抱えて運ぼうとした団長が右サイドにあるファスナーに気が付き脱がしてくれたのだそうだ。

脱がしてみれば女が出て来たので団長は動揺して一度私を落としてしまったらしい。

なるほど、このおでこの痛みはそういう事か、どんな格好で落としたんだろうか・・・

陛下も陛下でかなり動揺したらしく、魔法で嘔吐物を洗い流そうとして氷水をだしてしまったらしい。

なるほど、この微熱が続いているのはそういう事か・・・

一番動揺していたのは見張りに就いていた2人だったようで。


「まさか女性だったとは思わず・・・にぎにぎしてしまった」

「中から人が出て来るとか思わないだろ普通。

 こんな事ならもう少し抱き着いておけばよかった」

「おい、それは駄目だろう!」

「だってあのふとっちょ裸族だから抱き着けたんだぞ。

 中身が女だと解って抱き着けるわけがないだろ!」

「そもそもふとっちょ裸族でも抱き着いたら駄目だろう!」

「じゃぁお前はあの感触を忘れられるのか!」

「無理に決まってるだろう! あ・・・」

「ほら見ろ・・・」


何故抱き着く事を前提にしているのか。

普通に触るだけにしておけば・・・いや駄目だな。変な噂が立ちそうだ。

まぁ時すでに遅しでこの2人に関しては噂が流れまくっているらしいが。


何はともあれ、呼ばれた初日にドタバタと目まぐるしくないか。

まだ何も説明とか聞いてないんだがな。

確か勇者がどうのこうのと言っていた気がする。

そもそも呼び出しておいてなんで行き成り攻撃して来たんだか。

思わず溜息が出た。


コンコンッ

「起きているか?」


顔を覗かせたのは陛下だった。


「何か用です?」

「あー、いや。用と言うか少し話でもと思ってな」


そう言って陛下は私の返事も待たずに椅子を持って来てベッドサイドに座った。


「此度は暗殺者の殲滅に協力して貰い感謝する。

 いや違うな、俺の命を救って貰い感謝する」

「いえ別にお気になさらず。あのままだと私も巻き込まれましたので」

「そ、そうか。

 それで今更で非常に申し訳ないのだが、名はなんと言う?」

「本当に今更ですね。

 これまで通りふとっちょ裸族で構いませんが?」

「うっ・・・さすがにそれは、その・・・」

「そもそもですね

 呼び出しておいたにも拘らず現れて即攻撃とはどういう事ですかね?」

「ううっ、面目ない・・・」


この際だから1から説明して貰う事にした。


先王が病で命を落とし陛下に代替わりしてまだ半年も経っておらず、今がチャンスとばかりに隣国がこの国の乗っ取りを仕掛けて来たのだそうだ。

隣国とはこれまで良い関係を築いていたのにおかしいと調査を進めてみれば、隣国の王は魔物と入れ替わっていた事が解り、魔物と対峙すべく勇者を召喚したと・・・

その事が隣国にも伝わってしまい暗殺者が送られてくるようになったと。

念入りに準備をしていざ勇者を召喚して見れば、今まで見た事が無い様な姿のふとっちょ裸族が現れて動揺したあげくに攻撃したと・・・

なるほど、って納得出来るかぁー!


「あのさぁ・・・

 いくら動揺したとしていきなり攻撃は駄目だろ。

 そもそも安易に勇者召喚とかしてんじゃねぇよ。

 まずは自分達の国の事なんだから自分達で頑張って見ろよ。

 それでもだめなら同盟国や友好国に応援頼むべきじゃないの?

 なんで行き成り勇者召喚してんだよ、そしてなんで私なんだよ」

「攻撃したことについてはすまなかった。

 だがな、友好国や同盟国へ手紙をだそうにも妨害されて届かなかったんだ。

 それに何故其方が現れたのかは俺にも分からん」

「それで? 一段落ついたなら元の世界に戻してくんない?

 バイト中だったんだよね。はっ、着ぐるみ!

 うわぁぁ、クリーニングしないと着れないじゃん・・・」

「着ぐるみとはあのふとっちょ裸族の事か?

 あれならばもうすぐ仕上がると思うが」

「本当に? 嫌な予感しかしないんだけど一応聞くね?

 誰が洗ってるの? そして洗ってる人は大丈夫なの?」

「だいじょ・・・ 近衛兵! 洗濯室を確認してこい!

 いや行く方が早いか。よし、行くぞ!」


そう言われてベッドから抜け出せば・・・

ぐはっ、なんだこのピラピラしたうっすい生地の服は!


「陛下!私無理!」

「何が、ぶぅぅっ」

「うわっ、陛下?! しっかりして陛下! 誰かー! 陛下が流血した!」

「いかがなさ・・・プシュゥー」

「ちょ、団長まで! しっかりしてくれぇー!」


誰だか知らないが着替えさせてくれたのはありがたい、ありがたいが服のチョイスはもちっとどないかならなかったのか。

これ以上流血者が増えても困るのでベッドからシーツを剥ぎ取り身に纏う。

その後落ち着いた団長が無難なワンピースを用意してくれ、着替えてから洗濯室へと向かった。


「ふにゃぁ~んっ」

「はぅ~んっ」

「たまりませんわぁ~」


やっぱり・・・

洗濯室で目に飛び込んで来た光景は、恍惚とした表情で泡にまみれて着ぐるみにしがみ付くメイド達の姿だった。

あかーん! はたから見るとこんな光景だったのか。

メイド服だから尚更なんだろうけど、えろっ! だめだろこれ。

そりゃああの騎士2人に変な噂が立つ訳だ・・・

なんとかメイド達を引きはがし結局は自分で着ぐるみを洗った。

自分がリバースしたせいとは言えかったるい・・・

幸い乾燥はあのじぃさんが魔法でやってくれた。

しまった、魔法で洗うと言う手もあったんじゃ・・・今更だけど。


無事着ぐるみを回収出来たので改めて聞いてみる。


「いつになれば元の世界に帰れますかね?」

「それは、無理だ」

「なんで?!」

「召喚魔法は一方通行なんだ・・・」

「がぁーん、マジか・・・」


なんとなくそうかなとは思ってた。

ラノベとかだと帰れるってパターンの方が少なかったから。


「うわぁ、私のバイト代!貯金!宝くじの当選結果もまだ確認してないのに!

 あの漫画の新刊も明日発売だったのに!

 見たかった映画も明日公開だったのに!」

「すまん・・・

 生活についてはこちらで保証しよう。

 貯蓄や富くじについてはその・・・善処する。

 漫画とやらと映画とやらについては未知の物なのですまん・・・」

「保障とやらは一応頂きますけど、それよりも仕事下さい仕事!

 戻れないなら生活していく上で仕事は必須!」

「無理に働かずとも・・・」

「いや、なに言ってんの。働かずにぼけっと食っちゃ寝してたら

 この着ぐるみみたいになるじゃないか!」

「そ、それは・・・確かに困るな」


と言う事で団長の元で働く事となった。

普段は寮母さんの助手として、戦や魔物討伐の時は着ぐるみ騎士として。

因みに着ぐるみにはちゃんとゆかたを縫い付けて裸族は卒業した。



「おい、いい加減に名前を教えてくれないか」

「なんか今更じゃね?」

「騎士団の連中も文官達もどう呼べばいいか分からず困ってんだよ」

「えー・・・無理に呼ぶ必要なくね?」

「書類とかにも必要なんだよ!」

「どーしよっかなぁ」

「お前、じらして楽しんでるだろ」

「そんな事はないけどさ。

 名前を尋ねるならまず自分から名乗れって習わなかった?」

「ん?・・・ まさか、俺の名前知らないのか」

「知る訳ないじゃん、異世界から来てるのに」

「うぉぉぉ、なんたる失態。すまん。

 俺は」

「私は騎士団長を務めますヴィンセント・ヴァランタインと申します」

「私は寮母のエリスよ、宜しくね」

「自分はジャックであります!」

「自分はジョーンズであります!」

「お、お前等ずるいぞ! 俺はザックス・ブルーギルだ」

「私は東雲橘花、こちら風に言えばキッカ・シノノメです。

 以後宜しくお願い申し上げます」ニッコリ


名を教えれば教えたで陛下はうろたえている。何故に?

そして隣国の王に成りすました魔物は未だ健在だという。

つまり倒すまでは私の着ぐるみが大活躍しそうなのだ。

勇者なんてなるつもりはないけれど、せっかく有能な着ぐるみを持って居るのだから有効利用したいと思う。

ただ他の人がむやみやたらと触らない様に管理はしっかりしておかないとね。


「キッカ、少しだけ。ほんの少しでいいんだ・・・」

「頼むよキッカ。少しでいい、癒されたいんだ・・・」

「ぶはっ、2人がそれだと下の者に示しがつかんだろうが!」


着ぐるみで癒されたいならさっさと問題解決すればよかろうにな。

その為にも2人共さっさと頑張ってくださいねー。



その後無事に問題も解決をし平和に暮らせるようになった、私を除いては・・・


「キッカ殿~!反省しました改心もしました。

 国の為に必死で働きますからどうかもう1度、あのふとっちょ裸族に・・・」


隣国の王に成りすましていた魔物が着ぐるみに執着し、すっかり懐いてしまっているのだ。

勘弁して欲しい・・・ チーン。



                           ~ お・わ・り ~

普段からお笑い要素込みの作品が多いですが、ジャンルとしてコメディを選んだのは初めてでドキドキします。

楽しんでもらえれば幸いです。

読んで下さりありがとうございました(*'ω'*)

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