第1話「夢堕ち」
時計の針が午前0時を回る、まだ電気のついている建物なんてこの会社ぐらいだろう。私はそんな呑気なことを考えながらコーヒー片手に残業をしていた。
私は夢見七之、見ての通り私の勤めている会社はブラック企業だ。給料は少ないし残業もほぼ毎日ある、有給は「書類上」は存在しているらしい。
入社1年目だけど、同期はほとんど辞めてしまった。逆になぜ私は辞めないのか?そう考えたことは多々ある。しかしそれでも辞められないのは私がすぐに決断できなく迷ってしまう性格であるから……
昔上司が『君みたいな新参者はどこ行っても良い成果出せないよ?それどころが、雇ってくれさえもしないかもね。うちぐらいだよ?君みたいな特別ずば抜けて良い所があるわけでもなく、周りに迷惑ばかりかける無能を雇ってくれる所なんてね』なんて言われてから一気に自信が無くなった…
実は今日で四徹である、もうカフェインで誤魔化せる範疇を超えている… 私はもう寝たい… いや、寝るならせめて暖かい布団の中で───
そこで私の意識は途切れた、目線は瞼で覆われ、上半身が冷たいデスクと隣り合わせになった。そして次に意識が戻ったときには──
《◇》
私は瞼の中を照らす光に徐々に適応しながら目を開いていくと、見覚えの無い風景が視界に入ってきた
「ここは何処?私は誰……」
そんな在り来りなセリフを吐き捨て辺りを見渡す、やはり見覚えの無い景色、地面は虹色のような砂、空は赤紫色でイルカのような物体のホログラムが各地に浮いていた
「なに?私…もしかして、SFの世界に転生しちゃったの?!」
「どうしよう… このまま助けが来なくて日が経っていったら……」
想像しただけで鳥肌が立つ、辺りは見覚えの無い世界、あるのは会社に着ていく用のスーツだけ。正直ほぼ詰みでは?
「でも、こういう展開だとよく私みたいな異郷の地に舞い降りた美少女を助ける為に、白馬に乗った王子様が来てくれて──
『お嬢さん、何かお困りでしょうか?もしよければ… 僕が──』
「っていう流れがテンプレだけど…」
少女、なんて言える年齢は等に過ぎているが、こんなみじめな私を救ってくれる救世主の一人や二人現れて欲しいものである
「まっ、そんなおいしい話はないか…取り敢えず、辺りを探索してみよう」
私が目覚めた近くに森があった、不自然にもこの辺りの地面は虹色の砂が一面に広がっているが、あの森の周辺は私たちがよく知る「森」それとよく類似していた。
私の感が正しければ、ああいう森には仮面を被った部族とかがいて、異世界から来た私を神として称えたりするのが、映画とかでよくある王道展開だよね?!
「よし、ちょっくら行ってみるか!」
《◇》
「うーん、辺り草木だらけ……もしかして本当に何も無い森なの?」
「あれ?あの木、背が異様に小さい…この世界だと普通なのかな?」
夢見の目先にあった全長10mにも満たない木は、次の瞬間…少しピクリと動いた
「え?動いた…動いたよね?風で揺さぶられただけ…かな…?」
そして次の瞬間、その木には人のような樹皮製の手足が生え、禍々しいオーラを纏っていた
「いやいや… そんな…有り得ない。木から手足が生えるなんて…」
いや、明らかに生えている。今にも歩き出しそうな姿勢だ、だが私には気付いていないようだ… 逃げるのなら今しか無いかもしれない
「あの木、私に気付いてないよね?…よし、き─ 気味も悪いし…逃げよ!」
夢見は地面に落ちていた木の枝を踏みつけ盛大に音を鳴り響かせた
「(やっちゃったー…!)」
音に気が付いたその木を模した怪物は物凄い速度で走り夢見に接近してきた
「(やばいやばい!に…逃げないと!)」
だが私の体は力が入らなかった。理由はなんだろう?恐怖、驚愕、怒り、迷い、どれも違う…人間は未知に遭遇したとき、何をすれば良いのか分からなくなる。今がまさにそれだ。
最善の行動が不明な今、私の体は一切動かない、まるで… 犬や猫の前に… 百獣王が現れたときのように──
「っ…ん?あれは…」
私の目の前には、木の怪物…そして、そのさらに後ろには人影が見えた
「はあぁぁぁぁぁ!」
いきなり現れた黒髪の青年は鉄製のサーベルで木の怪物を一網打尽にした。そして怪物は一言も発すことなく跡形もなく消滅した
「す…すごい…あ、あなたは?」
「俺はこの世界では龍炎と名乗っている狩人だ。君、怪我は無いか?」
「は、はい!(もしかして、この人が私の王子様?!)」
「そうか、このあたりは危険だ。すぐに立ち去るといい」
「(あ、あれ?一緒に同行できたりはしない感じ?いやいや…そんな事今はいい…、今聞くべきことは──)」
「あの!ここは一体どこなんですが?さっきまでオフィスにいたのに…」
「え?いや、こんな時間にオフィスで寝ていたんですか…」
「(っちょ!なんでこの人私がデスクで寝落ちしたって知ってるの!)」
夢見は青ざめた表情で青年を見つめる
続けて龍炎と名乗る青年は夢見にこの夢の世界について詳細を語りかけた
「ここは『夢境』と呼ばれる夢の世界。今世間では『夢境ウイルス』と呼ばれる空気感染型ウイルスが流行っていて、その『夢境ウイルス』に感染した状態で睡眠状態に陥ると…此処、『夢境』に意識が転移する」
夢見は驚愕した表情から、一旦冷静になり話し始める
「む…夢境…なるほど。でも、そんなSFみたいな展開が本当に現実なんて…信じられない…」
「夢境には『悪夢』と呼ばれる怪物が出現する、先程木を模した怪物があなたを襲ってきたが、あれも『悪夢』の一種。俺達はそれを『樹液の悪夢』と呼んでいる」
「なんとなく状況は理解しましたが… でも、この夢境から出るにはどうすれば良いんですが?」
「夢境から脱出するには、現実で夢を見ている自分が目覚めるしかない。基本的に7時間から10時間後と言った所か、それまでは悪夢からの攻撃に耐える必要がある」
「そ…そんなに耐えられるんですか?」
「夢境は意識だけが点在する世界、この身も幻影に過ぎなく、現実のものとは違う。そして痛覚も存在しない、疲労も。勿論精神的な疲れは多少生じるが、7時間ほど耐久する事は可能だ」
「それでも、だいぶ難しそうに聞こえますけど…それに、私には悪夢と戦う力なんて無いし…」
「…なら、この夢が覚めるまで…俺があなたを守ります。ご一緒に同行しましょう」
「(こ…この人が私の白馬に乗った王子様〜!)」
「あぁ、そういえば…まだ名前を聞いてなかったですね、もしよければ聞かせてもらいたい」
「えぇと、私は夢見──」
「あぁ待ってくれ、忘れていたが、この夢境では本名は名乗るのは御法度。偽名を名乗ってもらえるか?」
「なんで本名は御法度なんですか?」
「見ての通り、夢境では見ず知らずの人達と遭遇する、それに本名を知られていると戦闘面で厄介な「悪夢」なども存在している。だから偽名を名乗るのがこの世界では一般常識なんだ」
「なるほど、えぇと…私の偽名…」
偽名なんて現代社会で使っているのはどこぞの探偵や警察、裏社会の人間ぐらいだろう… まさか私が偽名を使う日が来るなんて──
自分でも言うのも痛いが、私は中学二年生あたりでかかる不治の病を今も尚患っている…その為、私は既に『偽名』をいくつも持っている。そう…使う日なんて来ないと思っていた…でも、来てしまった、今日、この時。
「そうですね〜…じゃあ私の偽名は、『跡夢』にしようかな」
軌跡を紡ぐ夢、跡夢。と言った所か。我ながら素晴らしい名前だ。そういえばこの人の偽名は「龍炎」だった、もしかすれば…この人も病を患っているのではないか?
「跡夢か、分かった、では跡夢。共に行こう。…『夢境の悪夢』を、討ちに」
第1話はこれで終了です、キャラがまだ固まってないので今後の展開に合わせて後日セリフを多少修正したりするかもしれません。まぁ1話なんで物語の中心人物の登場と世界観の説明がメインになってしまい話的にはあまり進んでいませんが、ここからが本番なので気長に待って応援してくださると幸いです。
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