第98話 剛志と臼杵の密談
病院から帰った剛志たちは、そのままテントに向かった。
今日はもうすでに夕方といったくらいなので、これからダンジョンに向かうということはせず、特に襲撃もなかったことを喜びながらも、剛志の頭の中では先ほどの違和感のことでいっぱいだった。
最近では剛志たちのテントに万葉が入ってきてたわいもない話をすることも多かったのだが、今日は妹の病気の対処法がまだ見つからないという医師からの発言に、気持ちが落ちていたのか、特に雑談はすることなく自身のテントに入っていく万葉。
その姿を見送った剛志と臼杵は、自身のテントに戻り、先ほどの話の続きをするのだった。
「臼杵、さっきの話の続きをしよう。まだ直感ってレベルだけど何か良くないことが起きてる気がするんだよね。どうしよう?」
そんな剛志に対し、臼杵が帰る途中で考えていた内容を共有しだした。
「ああ、そうだな。俺もあれから考えていたんだけど。考えられることは一つだと思う。おそらく万葉ちゃんは何らかの精神攻撃かそのたぐいの何かを受けているとみていいと思う。気が付かないという状態が、以前耳にした精神攻撃の状態にぴったり一致する。でも、彼女ほどの実力者に対して成功させているってことは相当な実力者だぜ」
臼杵の発言を聞き、精神攻撃について詳しくない剛志は質問してみた。
「精神攻撃って、具体的にどんなのになるの?」
「そうだな、有名なので言うと洗脳のスキルだな。これは文字通り脳みその中をいじくりまわして相手の思考そのものを変えてしまうっていう恐ろしいスキルだ。このスキルは発動するだけで罪に問われて、探索者用の牢獄にぶち込まれて一生を塀の中で過ごすことになるな。それ以外にも身近なもので言うと挑発のスキルも同じ系統だな。とにかく相手の思考にハッキングを仕掛けるスキルを精神攻撃系って分類されていて、万葉ちゃんの状況に一番合っているのがそれじゃないかってのが俺の見立てだな…」
もし万が一臼杵の予想が当たっていた場合、誰かが彼女に対し精神攻撃のスキルを実行し成功させているということになる。でも一体だれが何の目的で…。それがわからないと身動きが取れない。
「臼杵、そもそもなんだけどさ、宮本さんほどの実力者にこういったスキルは成功しずらいんじゃないの?彼女の実力は日本でもトップクラスだよ?」
「そうなんだよ、そこが俺も不思議でならないんだ。普通に彼女に対して精神攻撃スキルを使ってもはじかれておしまいだ。それにこういったスキルは一度はじかれると二度とその人には使えなくなる。そんなもろ刃の剣をトップクラスの探索者にかけるなんて、そいつもかなり狂ってやがるぜ」
かなりくるっている。そのフレーズからある団体が思いついた剛志。
「かなり狂っているって言うと、もしかしてA.B.Y.S.S.の仕業なんじゃない?」
「う~ん、どうだろうな。その線もゼロではないと思うぜ。あいつらならもしかしたらそういったことができるやつがいるかもしれないしな。でもかなりのリスクを払って彼女にかけた精神攻撃の結果が、自分の妹の治療法に気づけなくなるってよくわからなくないか?てかそう考えると担当医が怪しくねえか?あいつが治療法見つからないのも出来すぎじゃねえか。だってあいつが治療法見つけたって言ったら彼女の精神攻撃の意味がなくなっちまうし。考えれば考えるだけ怪しさ満点だな」
そういって憤慨するように語尾を強げる臼杵。しかし彼の推測を聞いた剛志も、同じ感想を抱いた。
でも、同時にあることに気が付いた剛志は、そのことについても臼杵に聞こうと思った。
「でも臼杵、あの担当医だけだとうまくいかないよ。だってあいつが宮本さんと会うのはダンジョンの外だ。そうなると彼女に対してスキルを使うことは不可能だよ」
その剛志の発言を聞いて、ほぼ間違いなく彼が犯人だと思っていた臼杵は、冷静に考えることになった。今にも問い詰めてやろうと思っていたので、かえって良かったのかもしれない。
そうして、考えた末に結論を出した臼杵。
「そうだな。考えるとあいつだけでは難しそうだな。まあ、万葉ちゃんにダンジョン内であったことがあるかと聞くのは聞くけど、冷静に考えると彼女の周辺の人が気づかないってのも変だぜ。もしかしたら共犯者がいるのかもしれない。それこそ万葉ちゃんの妹が入院している件を知っていた町田所長だって容疑者だ」
と言ってまた頭を抱えてしまった臼杵。
臼杵の発言はおおむね正しい。そうなると剛志は町田所長を疑わなくてはいけなくなった。今までよくしてくれていた町田所長を疑うのは心が痛むが、仲間の万葉のため、そして今日であったいたいけな少女の百花のため、剛志は心を鬼にしてこの件を解決しなければいけないのだ。
そう誓った剛志は、今回ばかりは適当に進めるわけにはいかないと思い。真剣に頭をフル回転させた。
いつもはどこか行き当たりばったりで進みたがる剛志だが、今回ばかりは失敗しちゃいましたでは済まされないし、かかっているのは自分の命ではなく百花の命だ。いつにもなく真剣に考えなくてはいけないと考えているのだ。
「臼杵。誰か信頼できる人ってどのくらいいる?たぶん俺たちだけじゃどうしようもない部分があるはずだ。そのためにも人手が必要だと思う。俺が信頼できる人って言うと町田所長くらいだったけど彼女も容疑者なら無理だ。」
そういわれて臼杵は考える。かなり交友関係の広い臼杵は、こういった時に信頼できる仲間は剛志とは比べ物にならないほどいる。そんな中で今回の様なことを得意とするものがいないか考えて、一人思いついた。
「ああ、今回みたいなときにって考えると一人あてがあるぜ。服部哲って男だ。こいつは普段探偵をやっている探索者で、職業は忍だ。隠密行動や情報収集なんかも得意だぜ」
「おお、頼もしいね。じゃあ、その人とコンタクト取ることって出来る?でも宮本さんに気づかれないように動かないといけないって、それが逆に一番難しいんだけどね。そこはどうしよう?」
そう聞く剛志に、臼杵もどうしたものかと悩んだ。しかし考えても考えてもいい方法が見つからない。そこで二手に分かれることにした。
「…ああ!無理だ。全然思いつかねぇ。万葉ちゃんに気付かれないって無理ゲーでしょ。今みたいな一日の終わりのテントの中くらいだろ。でもそれじゃ何も動けないし。よし、こうなったら二手に分かれるか。俺が剛志の護衛をお休みして、その間にいろいろ動くことにするぜ。護衛は万葉ちゃん一人いれば十分でしょ。これなら何とかなるんじゃないか?」
そういわれた剛志は、自分も彼女のために動きたかったが、それしか道がなさそうなので、了承した。
「そうだね。俺も動きたかったけど、それしかなさそうだ。臼杵、頼んだよ。俺の方は任せて」
その後臼杵は服部に連絡をとり、二日後に合う約束を交わす。
そして二日後、臼杵は護衛を休み、服部と会うのだった。
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