第97話 とっさの隠し事
黒塗りの車に乗りながら少し経つと、目の前に病院が見えてきた。
ここは横浜総合大学医療研究センター。日本で一番大きい大学病院の一つだ。
ここに万葉の妹は入院している。
「へー、大きな病院だね。そういえば聞いてなかったけど、妹さんの病気ってどういうのなの?聞いても大丈夫?」
そう剛志が万葉に聞くと、彼女は答えてくれた。
「ええ、別に問題ないわ。百花の病気は先天性の筋肉細胞の異常よ。簡単に言うと、普通の人の20分の一くらいしか筋肉がつかないって病気なの。それのせいで、あの子はずっと入院しているわ。病気が発症したのが10年前だから、それからずっとね。私の目標は彼女の病気を治せるようなマジックアイテムを手にすること。それに一縷の望みをかけて探索者になったというわけ」
そういって、彼女の目標も併せて話してくれた。それを聞いた剛志は、さらに質問を重ねる。
「なるほど、大変だったんだね。でも一つ聞いてもいい?万葉さんくらいのレベルになると、いくらでも上位の回復薬みたいなのは手にすることができるじゃないですが、それでも治らないんですか?」
「ああ、そういうことね。私も最初は回復薬で治るんじゃないかと思っていたのよ。でもあの子みたいな病気の人は、別に体がダメージを負っているわけでもなければ何かの毒が回っているわけでもないわけ。そういう人が回復薬を飲むとどうなるかというと、病気の状態が体として通常なので、病気は全く治らないの。下手すれば、その病気に対する薬の方がはじかれてしまう恐れがある。そういうものなのよ」
と教えてくれた。それを聞いてなるほどと理解した剛志。いくら回復用のポーションなんかでも、万能ではないということみたいだ。ウイルス性の風邪なんかには効果てきめんかもしれないが、使い道を間違えるとかえって悪化させてしまうということもあるようだ。
そんな話をしながら、万葉についていく一行。しばらくすると、奥の方に病室が見えてきて、そこには宮本百花と名前が書いてあった。
「百花。元気にしてた?」
そう優しい声で話しかける万葉。その声に反応するように、ベットで本を読んでいたかわいらしい女性が万葉の方を向き、話し出す。
「おねえちゃん。来てくれたの?ありがとう。私は今日は調子がいいみたい。結構元気よ。あれ?後ろの人たちは?」
剛志たちの姿を確認し、不思議に思った百花がそういうと、臼杵が話し出した。
「初めまして、百花ちゃん。俺は臼杵健司。君のおねえちゃんの同僚さ。こっちが岩井剛志。お姉ちゃんと俺で守っている警護対象。まあ、その実友達みたいな関係だけどね。で、この後ろのいかついお兄さんたちは、この剛志のボディーガード。まあ、いろいろ訳ありでね。ごめんでうるさくしちゃって。」
「初めまして、百花さん。岩井剛志です。いつもお姉さんにはお世話になってます。」
臼杵がフレンドリーに話しかけるのに対し、若干固い剛志だったが、お互いしっかりと百花に挨拶をした。それにこたえるように百花も返事を返す。
「ああ、そうだったんですね。どうも初めまして、いつも姉がお世話になっております。」
そういって、丁寧にあいさつをしてくれた。
それから、たわいもない話をし、数十分が経過する。
色々と話をしたことで、百花とも親交を深めた剛志と臼杵は、楽しい時間を過ごせた。
中でも、あの万葉が今までやらかした恥ずかしい話などの姉妹ならではのエピソードも聞け、代わりに百花が聞きたがっていたダンジョンでの万葉のエピソードなどを話しあった。
しかし、そんな楽しい時間も百花が疲れてしまったため、お開きになった。
また来る旨を伝え、その場を離れる剛志一行。
帰る前に万葉は百花の担当医を少し話したいというので、少しより道をする。
万葉が担当医と話すのを遠目で見ていた剛志と臼杵は、万葉がこころなしか肩を落として帰ってきたのを見て、心配で声をかけた。
「万葉ちゃん、どうしたの?なんか百花ちゃんのことでまずいことでもあった?」
そう聞く臼杵に、万葉は首を振りながら答える。
「いや、そういうわけじゃないの。ここの入院費も私の稼ぎで問題ないし、今のところ百花には問題ないわ。でもこのままだとあの子はずっと入院を続けなくちゃいけないの。だからあの子が治りそうな情報があれば、なんでも教えてって言っているのだけどなかなか情報も入らないのよね。今回も新しい情報はないって言われちゃって」
と、答えた。万葉もなりふり構ってられないんだな。そう感じた剛志は、自分にも何か出来ることはないのかと思い、万葉に尋ねた。
「でも、そもそもどういった情報が欲しいの?」
「そうね、新しい治療法とか、体を治すマジックアイテムの話とかかしらね。どちらかというとお金で解決できるマジックアイテムの方が現実味があるのだけど、さっきも言ったように回復薬じゃだめだから、根本から体を作り変えるようなアイテムじゃないと…」
そういって、ため息をつく万葉。それを聞いて剛志はあることを思いついた。
「体を作り変えるっていうと、ダンジョンでステータスを上げていくっていうのはどうかな?宮本さんほどの実力なら、パーティーを組んでパワーレベリングをしていけば、一般的な身体能力くらいには上げれるんじゃない?もしかしたらスキルで解決するかもだし。」
それを聞いて、臼杵も興奮気味に話し出す。
「おお!それいいじゃんか!万葉ちゃん。これって画期的な解決策なんじゃない?今からでもできそうじゃないか!」
そんな興奮気味の臼杵。しかしそれを聞いた万葉の表情は浮かない。
「そうね、実はそれも昔考えたことがあるのよ。でも結局できなかった。理由はそもそも歩くことすらままならない百花がダンジョンを移動することができないということなの。だから今は少なくともダンジョン内で移動できるくらいになる方法を探しているってところね。そうすれば私がレベリングして上げれるのにって...」
それを聞いて、剛志は不思議に感じた。理由は簡単だ。剛志のゴーレムですべて解決しそうな理由だったからだ。
確かに、動くことも難しい状態なら、万葉がおぶって移動するというのも耐えれないとは思う。でも、剛志のゴーレムならそれこそ全く負担ゼロで、何なら寝たきりの状態でも移動させることは可能そうだ。
しかし、それはいつも剛志のゴーレムを見ている万葉にとっても、ちょっと考えたら思いつくような話だ。なぜ彼女はそのことに思い至らないのだろうか?その時だった、臼杵も同じように不思議に思ったようで、話し出した。
「ん?万葉ちゃん。それっておかしいぜ、だって…」
「臼杵!ちょっと良い?」
臼杵は話し出そうとするのと慌てて止める剛志、それに対し臼杵は驚いたようなリアクションをとるが、剛志に言われるがまま、万葉から離れたところに移動した。
いつもよりテンションの低い万葉を遠目に、剛志に対し話しかける臼杵。
「おい剛志。どうしたってんだよ」
そう攻めるように話す臼杵に、剛志は声を潜めて話しだす。
「臼杵、さっき気づいたようだけど。宮本さんの話って、たぶん俺のゴーレムで解決すると思う。でもそのことに気づいていないのはさすがに変だと思うんだ。」
「だよな。俺も剛志のゴーレムで良いじゃんって思ったところだったんだよ」
話を続ける剛志。
「そうだよね。でもこれってそんなに難しいことじゃないじゃん。これに彼女が気づいていないって状況がある種の気持ち悪さを感じるんだよね。もしかしたら、何かが起きているのかもしれない。だから今彼女に教えるのはやめた方が良いって思って止めたんだ。ただの直感だけど…」
剛志の話を聞いて、考え込む臼杵。そしてしばらくして口を開いた。
「確かに剛志の言うとおりだな。何かがおかしいぜ。冷静に考えるとどこか不気味な気配を感じるな。それもどちらかというと邪悪な部類だ。俺も探索者の勘だけどそんな気がしてきたぜ。一旦このことは持ち帰って、俺と剛志の二人で進めよう」
そういって、二人はとっさに万葉に対し、かくして調べることを決意したのだった。
果たして、一体何が起きているのか。それを剛志は見つけ出すことができるのだろうか…
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