第86話 状況整理その2
万葉の妹が入院しているということを聞いた剛志があたふたしていると、彼女が詳細を教えてくれた。
「私は両親がすでに亡くなっているから妹と二人家族なの。それにあの子は心臓の病気で入院しているから、いつもお見舞いに行っているのだけど、ここのところいけなかったから…。それにあの子の入院費や薬代を稼ぐためにもお金は必要だし。そういう理由で探索者をやっているのよ。」
彼女にもいろいろ事情があるのだということを知り、なるほどと思う剛志。生きるため、そして妹のために真剣に探索者をやっていた彼女にとって、剛志の適当さ加減がイライラのもとだったことを今更になって気づく。今ではある程度良好な関係を築けてはいるが、初めのころは会話もままならなかった。
彼女の事情については理解した。しかしそれは今回の本題ではない、そこで町田所長が話に割って入った。
「そういうことだ。万葉君の事情は理解したかね。では話の続きを聞かせてもらえるかね?」
そういわれ、剛志はうなずいて話しだす。
「そうですね、前回の男が俺を襲ってきたことで戦況は一気に不利になりました。臼杵もその前の戦いでかなりMPを消費しており、戦闘スタイル的にも若干速度負けしていたため、俺が攻撃を受けてしまったのですが、そこは最近になって使えるようになったスキルのお陰で何とかなりました。それから耐えるだけなら何とかなるかといったタイミングでピー介が助けてくれて、男とピー介の一騎打ちが始まり、そうこうしているうちに宮本さんが間に合ったので、最後は彼女の助けによって倒し切ったといった感じです。」
「相馬君、君とピー介はどうやってその場に居合わせたんだ?それにピー介がその男と張り合えるっていうのもにわかには信じがたい。」
そう町田所長が相馬に問うと、彼もどうしてその場に居合わせたのか説明してくれた。
「そうですね。僕の方の説明が必要ですね。僕が居合わせたのは完全にピー介のせいです。0階層に入ったときに、いきなり奥の方で大きな戦闘音が聞こえてきて、それで辺りがざわついたと思ったら、すでに大きくなったピー介が飛び立っていたんです。僕はそれを追いかける形でその場に行ったという感じです。」
「ピー!」
相馬の説明の終わりにピー介もそうだと言わんばかりに鳴き声を上げる。しかし解せないのはまだ初心者の相馬の従魔であるピー介が男と張り合えたという事実だ。
「しかし、その説明だとなぜピー介が大きくなったのかがわからないな…」
そうつぶやく町田所長に相馬は説明を加えた。
「ああ…。それはピー介だからということしかできないですね。おそらくピー介の持っているユニークスキルの中の【勇敢なる竜の魂】のお陰だと思います。このスキルは経験値を獲得できないということと、自分以外の誰かを助けるためのみという二つの制限がありますが、それを満たすと敵に対抗できるまで自身を一時的に強制成長させるというものです。おそらくはこれのお陰で一時的にその男に対抗できるまで自分の体を成長させて戦ったんだと思います。」
と説明してくれた。
しかし、その説明を受けた面々はピー介の規格外のスキルに驚き固まってしまった。
今の話を聞くと、ピー介は今の状態でも状況さえそろってしまえばどんなに強い敵に対しても対抗することができてしまうということになる。一言で言うととんでもない。
全貌は知らないが、ピー介にはそれ以外にもユニークスキルがあるというのだから末恐ろしい。まあ、今回はそれのお陰で一命をとりとめたところもあるのだから、感謝こそしても恐れることはないだろう。
そうしたことで、一連の流れをざっと町田所長に説明し終わった剛志たちは、お開きになり帰ることになった。
今後のサポートもかねて、組合内の部屋で寝ないかと打診された剛志だったが、ゴーレムを展開するには少し狭いことと、何かあったときに戦場になるなら開けた場所の方が安心だという理由で今回はお断りさせてもらった。もうしばらくはテント生活が続くだろう。
相馬とピー介に改めてお礼を言い、剛志と臼杵、万葉の三名はいつものテントに戻ってきた。
「しっかし、大変な目に合ったな。でも今回のでA.B.Y.S.Sの構成員を3人もとらえたんだ、これで少しは奴らの全貌を紐解くことができるかもしれねえな。」
テントに戻るや否や、臼杵がそういいながらベットに腰を落とした。
それに対し、剛志も「そうだね」と言いながら、同じくベットに腰を落とす。
そして今は剛志たちと同じテントに入ってきている万葉が、剛志の心配をし状況を尋ねる。
「あなたたちはのんきね。特に剛志あんたよ。あなた襲われたのよ。体は大丈夫なの?」
そう聞かれた剛志は、答えた。
「うん。びっくりはするけど大丈夫だった。今回はゴーレムマスターになったときに手に入った新要素のお陰だね。でもいくらダメージを肩代わりしてくれるとは言っても自分の体の中に一度刃物が入り込むのを経験するのは、少し精神的に来るものがあったね。感触とかはそのままあったからさ。過ぎた後は何もないって感じで、一度はその攻撃を食らったような感覚になるんだ。痛みとかはないけど頭が痛いと思っちゃうみたいな感じ」
そういって説明した。
そう剛志の今回の奥の手は特殊ゴーレムコアの中の身代わりコアによって、身代わり用のゴーレムを作りそのゴーレムにダメージを肩代わりしてもらうというものだったのだ。
ここで特殊ゴーレムコアとは何ぞやという人のために少しおさらいをすると、スキルの説明はこうなっている。
特殊ゴーレムコア作成
効果:MPを消費して特殊ゴーレムコアを作成することができる。特殊ゴーレムコアはゴーレムコアを取り込むことにより、ゴーレムの構造や中身を変異させる。
現在作成可能コア
成長コア:1000MP
増加コア:1000MP
身代わりコア:1000MP
現在の特殊ゴーレムコアの上限数1。
ここまでは前回までに説明をしていた部分だ。そして今回は各コアの詳細を説明しよう。
まずは成長コアだ。これはどういった事かというと、名前の通りだがこのコアを持ったゴーレムは自分自身で成長していくことができるようなるといったものだ。
詳しく言うと、今まではレベルアップは剛志のスキルゴーレム強化によってしかできなかったが、これが魔物を倒した経験値でレベルアップすることができる。そして上位のゴーレムになるためには剛志が作り直す必要があったのが、レベルと材料さえ整っていれば自分だけの力で上位のゴーレムになることができるようになるというものだ。
そのほかにもレベル上限は今までのゴーレムだと10が上限になるのだが、その上限がなくなるというのも特徴として挙げられる。
次に増加コアだ。このコアを持っているゴーレムはどうなるかというと、どんどん材料を吸収して体を大きくすることができるようになる。
普通ゴーレムは種類によって体の大きさや体積なんかは決まってしまっており、そこから増えることはない。しかしこのコアを取り入れることで際限なく大きくなることができるようになり、超巨大ゴーレムを作ることができるようになるということだ。
ただこれには一定の制限があり、ステータス自体は伸びないので、大きくなってもその体を操れるかどうかは別問題ということだ。なのでこのコアは基本的には成長コアとの共有での使用か、動きはのろくなるが質量攻撃用としてゴーレムを運用するときなどに使用される。
制限はあるが、シンプルに質量があるということはかなりのパワーにつながるので、こちらも強力なスキルだろう。
最後に今回使われた身代わりコアだ。こちらのコアと取り込んだゴーレムは特殊スキル身代わりを使用できるようになる。
この身代わりスキルは、主人(剛志)とほかのゴーレムを対象にすることができ、対象が受ける攻撃を代わりに受けることができるというものになる。
これの運用としては一般には、防御特化のゴーレムに身代わりを持たすことで、攻撃は強くても防御がいまいちのゴーレムのダメージを肩代わりしてもらうことで攻守ともに強力なゴーレムを作り出したり、今回の剛志のように、弱点である主人の盾として攻撃を肩代わりするというのが一般的だ。
そして身代わりを受ける際に、ダメージのみが身代わり先に転送されるという形なので、身代わりしてもらった方は攻撃を受けてもダメージを受けない。逆に身代わりをした方は、ダメージをもらうので、どんどん傷つき最後は破壊されてしまうというものだ。
そして、今回剛志はその身代わり機能を持たせた使い捨てのゴーレムを大量に用意して置き、それらをゴーレム異空庫で待機させて置き、ダメージを肩代わりしてもらったというのが今回の種である。
ちなみに、複数体に身代わりをしてもらうと、それらは初めに身代わりをしていたゴーレムが破壊されることによって2体目のゴーレムの身代わりが発動するようになっている。
「全部で何体お釈迦になったのよ」
事情を知っている万葉が効くと、剛志は自分のゴーレムを数えて回答する。
「全部で12体だね。あの一瞬でそれだけ攻撃を食らっていたと思うとぞっとするね。まああと400体以上身代わりはいるんだけどさ」
と答えた。
今回万葉や臼杵が剛志に対して安心していた理由が、これになる。今の剛志の命を取ろうと思うと、少なくとも400回以上の致命傷を負わせなくてはならないのだ。
完璧というわけではないが、剛志の安全性はかなりのものになっていたのだ。
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