第85話 状況整理その1
万葉の刀が謎の男をとらえたことでこの戦いは終結を迎えた。
男はそのまま後ろに倒れ、白目をむいて泡を吹いている。致命傷の様だ。
それを確認した臼杵は、慌てて展開していた雪魔法の防御壁を消し、そのまま倒れる男を雪魔法で固めた。
「ちょっと、さっき俺が言った事聞いてなかったでしょ。できれば生け捕りって言ったのに死んじゃいそうじゃん。組合からも言われてたでしょ」
そうやって愚痴をこぼす臼杵、しかし万葉は気にした様子もなく答える。
「別に、まだ生きているでしょ。それに私に対して生け捕りを依頼する方がどうかしているわ。それにそこまで手加減できる相手じゃなかったし」
「それもそうだけどさ。まあ、今冷やしているから応急処置で命は何とかなるかもだしね。バーサーカーが切れたら死ぬかもだから、それまでにちょっとだけ回復させれる?」
そう聞かれた万葉は、渋々了承し先ほど自身にかけたスキルを再度使用する。
「【刀聖術:癒しの刃】」
そのスキルはなぜか切られることで回復をすることができる。そして再度、今度は癒しの刃によって切られた男は、何とか一命はとりとめたのだった。
事件が終わってみれば現場に残っているのは剛志と臼杵、後から合流した万葉、なぜかやってきた相馬とピー介、残るは生け捕りにされたテロリストが三人という状態だ。
捕虜となった三人は、先ほどの謎の男、燃える男(おそらく炎胴と呼ばれていた)、逃げ出そうとしたモブの三人だ。
取り敢えず、この三人をいつまでもとらえておくのは労力がいるので、今すぐにでも組合にあずかってもらおう。そう考えた剛志たちは、臼杵の雪魔法で頭以外を雪で固めたいびつな雪だるま状態の三人を剛志のゴーレムによって運び組合本部まで移動することにした。
少し進んでいくと、さすがにこの騒ぎを聞きつけたのであろう探索者や組合職員がぞろぞろとやってきたので、事情を話し捕虜を受け取ってもらうことにする。
剛志たちから事情を聴いた面々は一様に顔色が一変し、本部に人員を呼びに行ってくれた。
その後捕虜とともに本部まで移動し、本部内に入ったところで奥の方から剛志の専属職員の上白根さんが小走りでやってきた。
「はぁはぁはぁ…。皆さんご無事でしょうか?」
そう息も絶え絶えで話す上白根さんに剛志が代表して答える。
「ああ、何とかね。一度経験していたし、今回はスムーズに対応できたんじゃないかな?」
そういつものような口調で答えた剛志を見て、上白根さんは安心したのか一言「よかったです」とだけいい、そのまま町田所長を呼びに行った。
しばらくすると、上白根さんが戻ってきて、町田所長が部屋で待っていると言い、剛志たちを連れて奥の部屋に通してくれた。
急ごしらえの横浜第三ダンジョン本部建物は、まだまだ無骨な部分の多い建物だが、さすがに所長室ということもあり、以前の部屋に合ったものなども持ってこられているのかこぎれいになっている。
「ああ、座ってくれ。…ん?なんで相馬君がいるんだ?」
剛志たちを中に入れてそのまま椅子に座るように促した町田所長だったが、なぜか剛志たちと一緒にいる相馬悠翔の姿も見て疑問を投げかけた。
その言葉に相馬も場違い感を感じたのか、「お邪魔ですよね。帰ります」と帰ろうとするので慌てて臼杵が止めに入る。
「ああ、ちょっと待って!所長、彼も今回の当事者の一人です。詳しくはわからないんですが彼のテイムモンスターのピー介が戦闘を助けてくれて…」
と、説明した。それを聞いてなるほどなと理解した町田所長は、相馬にここに残るように指示を出して、話し出した。
「では、ここにいる皆に対して、まずは謝罪を述べさせてくれ。私の管轄で二度も襲撃を許してしまい、誠に申し訳ない。今回は君たちの活躍で助かったが、まだまだ警備に穴があるようだ。」
といい、謝罪から入る町田所長。それに対し面を食らった剛志だが、気にしていないのは本音のため、問題ないことを伝える。
「いえ、また襲われることは警戒していたので想定の範囲内です。それにいろいろと試せたので結果オーライですよ。」
「いや、剛志君はそういってくれるが、こちら側の落ち度でもある。ここはしっかりと謝らせてくれ。まあ、言い訳もさせてもらえるとするなら、ダンジョンスタンピードによってダンジョン空間が広がったことで、かなりセキュリティ面では不安が残っているのだが、それもただの言い訳だ。申し訳ない。」
そういって再度頭を下げる町田所長。それを受け、真剣に受け止めないと逆に失礼になると感じた剛志は、「わかりました。謝罪を受けいれます」と返し、この件はこれで終わった。
先ほど町田所長も言っていたが、現在ダンジョンのセキュリティが弱くなっているのも事実だ。
剛志の壁作成もまだまだ追いついていないダンジョンの方が多く、そういったダンジョンは悪意のあるものが入ろうと思うとそう難しくない。それに今後は地下に穴を掘ってダンジョン空間に入ろうとするものもいるだろうし、悩みの種は消えないのが現状だ。どこかの時点で根本的に対策を講じないといけないだろう。
話を元に戻すが、剛志たちに対し謝罪をし終えた町田所長は、まずどういったことが起きたのかを剛志たちから聞きたがった。そのため、代表して剛志が話すことにした。
「まあ、順を追って話すとすると、まずは俺たちが0階層に戻ってきたところを襲ってきた形です。はじめは炎を操る男一人と、その他大勢のテロリストが約10人ほどでした。それらを何とか対処しつつ、宮本さんに連絡をして彼女に急いで戻ってきてもらう間に、前回俺を襲ってきた男が再度襲ってきたという感じです。」
「ん?万葉君はその場にいなかったのか?」
「ええ、今日は彼女にお休みを取ってもらっていたので、その隙を狙われたのだと思います。」
そう答えると、横にいた万葉が悔しそうに話し出す。
「あいつら、私の不在を狙ったのよ。剛志、ごめんなさい。私が休みを取ったばっかりに、護衛失格だわ」
そういい剛志に頭を下げた。
いつもの彼女からは想像もできない行動に驚いた剛志と臼杵、二人してあたふたしていると、町田所長が話し出した。
「ああ、なるほど万葉君は今日休みだったというわけか。それは災難だったな。でも君も最近顔を出せてなかったからということだろう。護衛としては失格かもしれないが仕方のない面もあるんじゃないのか?」
「顔を出す?」
剛志が不思議そうに問い返すと、町田所長は驚いたようで、
「え!?知ってて彼女に休みを取らせたわけじゃないのか?」
というので、よくわからなかった剛志は、とぼけたように答える。
「知っててが、何を指すのかわかりませんが、彼女のプライベートなことは聞いていませんね。今日はいつも護衛をしてくれていたので、たまにはお休みしていただいてもいいかと思っただけです。」
そういう剛志の横から、臼杵も助け舟を出す。
「まあ、万葉ちゃんがいなくても俺がいれば大丈夫って算段だったんだ。まあ、結局のところ剛志にも活躍してもらったし、万葉ちゃんがいなかったらあの男には勝てなかったけどな」
そういう剛志と臼杵、それに横にいる万葉にあきれたように町田所長が話し出す。
「全く、君たちはお人よしだな。それに剛志君、君は命が狙われているんだ、特に用事も聞かないで休みを出す奴がいるか!それに万葉君もだ、事情があるんだからその辺はしっかり伝えてから休みをもらうべきだろう」
そういい、少し説教モードに入る町田所長。剛志はどこかかみ合っていない部分もありおそうだが、おおむね町田所長の言いたいことはわかったので、頭を掻きながらすみませんと謝った。
しかし、まだ町田所長の説教は続く。
「まあ、これからもこういったことは起きるかもしれないんだ。万葉君もしっかりと事情を話しとくべきだと思うけど、どうかね?」
そう聞く町田所長に、万葉は渋々答える。
「まあ、そうね。今回こういった事にもつながってしまった事だし話すわよ。今日は妹のお見舞いに行っていたの。それで休みをもらっていたのよ」
と話してくれた。それを聞き、そんな事聞いていなかった剛志は驚きのあまりに一瞬フリーズした。
「ええ!お見舞い!?妹さん入院しているんですか?早くいってくださいよ。もっと早くお休みをわたしたのに。もしくは俺がその病院にお見舞いに行けば、宮本さんもついていけるし一石二鳥かもしれない?あ、でも命を狙われている男が来る方が妹さんにとっても危険か…」
そういってまくし立ててしまう剛志。先ほどまで命を狙われていたのにも関わらず、あったこともない万葉の妹を心配するお人よしが岩井剛志という男なのだ。
そんな剛志を見て、先ほどまで自責の念で落ち込んでいた万葉は少し気持ちが軽くなったのを感じ、少しだけ微笑んだのだった。
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