第84話 謎の男vs宮本万葉
「おいおい、俺も年貢の納め時か?さっきはいきなり意味わかんないくらい強いドラゴンが襲ってくるし、そのあとはあんたかよ。もう逃げてもいいかな?」
万葉が謎の男の目の前に現れると、男はそうやって愚痴りだした。
その舐めた態度、前回逃げられたという事実、そして今回自身の不在時を狙われたという不甲斐なさ、そのすべてが入り混じり万葉のイライラは頂点に達していた。
「もうめんどくさい。絶対逃がさないし、必ず殺す!」
そういい攻撃を開始する。
遠くの方で臼杵が「できれば生け捕りで~」と叫んでいるが、その言葉は彼女に聞こえているかは定かではない。
初めからトップスピードの万葉は一足で謎の男との距離を縮めるとそのままの勢いで切りかかった。
相手も来ることは予想済みなのか、体を後ろに倒すことでよける。そしてそのままの勢いを利用して、万葉の顎狙って蹴りをお見舞いする。よく見るとつま先から刃物が飛び出ており、このまま命も削り取るつもりのようだ。
しかし、その蹴り上げを横に移動することでよけた万葉は、その際にすでに刀を振りかぶっており、そのまま横一文字に切り裂く。
その攻撃を今度はアクロバティックにバク転をしながらよける謎の男。しかしそのよけ方も想定済みな万葉はただの横一文字の攻撃ではなく、その際に刀の先から斬撃を飛ばしていた。
その斬撃がどんどん迫ってくるため、何度もバク転を繰り返し距離を取りながら最後は大きく飛び上がることで斬撃を避ける謎の男。この男もかなりの戦闘技術だ。
「ち、全く嫌になっちゃうぜ。こうやって戦ってみるとさすがに強いな。勝てそうにないな。このままだと。」
そういうと、今度はスキルを使用する謎の男。
前回同様男の姿がぶれたと思うとそのまま何人にも分かれていく。影分身の術だ。
前回このまま逃がしてしまった経験のある万葉は、目の前に集中しつつ、遠くでこちらを見ている臼杵に指示を出す。
「臼杵!この技を使った後あいつが逃げるかもしれないわ、警戒を強めつつ何か逃がさないような魔法って使える?」
そういわれ臼杵は軽快に返事をする。
「ああ、任せといて!【雪魔法:猛吹雪の檻】」
そういうと、臼杵を中心に、万葉たちを内側に飲み込む大きさの大きな吹雪の円が発生した。
上空は開いているが、この高さは空でも飛べないと脱出不可能だ。
「万葉ちゃん、この魔法は使っている間俺が動けなくなるってデメリットがあるけど、その間この壁は何人たりとも通さない鉄壁の檻になるよ。万葉ちゃんでも当たったらかなりのダメージになると思うから気を付けて!」
「わかったわ。ありがとう!」
そういって謎の男と戦い続ける万葉、前回は剛志の護衛という面が強かったのか待ちの姿勢だったが、今回はガンガン攻めている。
そんな万葉の猛攻に対し、分身のすべてを使い万葉に反撃する謎の男。いろいろ、おそらく忍術を使い、攻撃している
そしてシンプルに火力で倒し切れないことを悟った謎の男。とても嫌そうにポッケからあるものを取り出す。スキルオーブだ。
「くそ、これだけは使いたくなかったのに。これを使ったらこの場はしのげてもそのあとにげれる可能性が減るんだよな。それでもこのまま確実に負けるよりはワンチャンにかけるか…」
そういい、腕の中でスキルオーブを起動させる男。このスキルオーブも今までと同様バーサーカーのスキルオーブで、男のステータスが一瞬だが10倍に跳ね上がった。
そしてそのままの勢いで万葉に肉薄する謎の男。先ほどまでとは打って変わって、その力や速度は若干万葉を上回っている。
「っ!」
そのスピードに若干の焦りを感じながらも、的確に相手の攻撃をいなす万葉。しかし相手は影分身によって複数に増えている。それらのコンビネーションにより、片方をいなしている間に逆に回った影分身に太ももを切られてしまう。
「はは、この短刀は毒が塗ってある。お前さんはこれで終わりだぜ」
自信たっぷりそういう謎の男。そしてその発言は間違っていない。剛志が攻撃を食らっても無事だったのはあるスキルのお陰で、万葉に同じ手は使えない。
そうなると、もろに毒を食らってしまうということになる。上位探索者の並外れたステータスによって少しは耐えられるかもしてないが、それも時間の問題だろう。
しかし、最上位職まで行った探索者もまた普通ではない。刀を使う職業とは思えないスキルを使用できるのだから。
「【刀聖術:癒しの刃】」
そういうと先ほど切りつけられた太ももを自身の刀で再度切り裂いた。そして切られたはずの万葉の太ももは先ほど謎の男につけられた切り傷も含めきれいに消え去っていた。
その光景を目にし、びっくりして固まってしまった男。しかしその隙を万葉が逃すはずがない。一気に今度は万葉が踏み込み、そのまま謎の男を切り裂いた。
幸いなことにその切り裂かれた男は影分身だったようで命拾いをした謎の男。しかし先ほどの光景がいまだに理解できずにいた。
だからと言って固まってては意味がない。そうして頭を切り替えた男は残りのすべての戦力(影分身)を使用し、いっきに万葉の命を奪いに行く。
展開していた約20人ほどの影分身たちが一斉に万葉めがけて攻撃を仕掛ける。その波状攻撃を感知した瞬間、万葉は刀を鞘に戻し抜刀術の姿勢をとる。
「【抜刀術:天環返し】【絶対領域】」
次の瞬間、全方位からの攻撃を万葉は感知したその瞬間にその技をいなし、そのまま返す刀でカウンターを打ち込む、この一連の動作を全くの無駄なく、一瞬の間にすべての攻撃に対して返し切った。
そうしてその場に残っているのは残心の構えの万葉と、煙になって消えてしまった影分身たちだけだ。そう、この中に本体はいなかったのだ。
そして肝心の本体はというと、今剛志の命を奪うべく高速で剛志に近づいているところだ。
それを横目で確認した万葉は元々予想していたかのように、全く戸惑うことなく次のスキルを使用していた。
「【刀聖術:空間絶ち】」
スキルを使用して目の前の何もない空間を切り裂いた万葉は、次の瞬間には謎の男の目の前に出現していた。
そのいきなりの出現に驚いた男が驚愕の表情をしているところを、そのまま万葉の刀が襲い掛かる。
袈裟切りで切り裂いた万葉。先ほどまでとは異なり、煙になることなく血をまき散らしながら後ろに倒れる謎の男。
戦いは万葉の勝ちで幕を閉じたのだ。
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