第83話 相馬悠翔
新人探索者、相馬悠翔。彼は最近探索者になったばかりのルーキーだ。
そんな彼のことをなぜ臼杵や剛志が知っていたのかというと、彼が少し特殊な存在だったからだろう。
彼が探索者になったのは、ほんの一か月前ほどで、かなり遅めのスタートだった。
年齢はすでに18になっており、探索者になる資格自体はあったのだが、大学に進学し、いろいろとなれるのに時間がかかったというありきたりな理由で、彼は探索者になるのが遅れた。
探索者になった理由も、バイト感覚でちょっとお金が稼げたらなといったものだったので、その点剛志と少し気が合うかもしれない。
そんな事はどうでもよく、彼が特殊だったのが運の悪さだ。
なんと彼はスキルを手にし、職業を得て初めてのダンジョン探索を行った日があの全国一斉スタンピードのタイミングだったのだ。
彼の職業はテイマーだったこともあり、何かの魔物をテイムしようと思った矢先、あの事件に巻き込まれてしまいテイム魔物ゼロでただ守られるだけの存在になったというわけだ。
しかし、何の因果かスタンピードで地上付近に来ていたドラゴンの赤ん坊に気に入られ、レベルゼロの段階でドラゴンの主人になったという特殊な経緯の持ち主なのだ。
そしてそのドラゴンもかなり変わっているようで、ユニークスキルを複数所持しており、その特殊性からドラゴンだけでもと勧誘が来るほどだ。ただ当の本人が悠翔のことを気に入っているので、その勧誘を断り続けているのだが。
まあ、何はともあれ、同じ横浜第三ダンジョン出身で、特殊な事情の悠翔の存在は職員の中ではもちろん話題に上がっており、その職員経由で剛志たちとも顔合わせを行う機会があり、それでお互いのことをちょっとだけ知っているのだ。
まあ、そんな不思議な少年相馬悠翔と彼のドラゴンがなぜか剛志たちを助けてくれているというのが今の状態の様だ。
「おいおい、悠翔。あれって君のドラゴンか?あんなにでかかったっけ?」
そう臼杵が効くと、悠翔も少し困ったように答える。
「たぶん、そうだとは思います。俺もあんなに大きなピー介を見るのは初めてなので…。たぶんスキルのどれかのお陰だと思うんですけど」
そういって一緒に巨大なドラゴンになっているピー介を見る。
剛志たちの視線の先では、巨大なドラゴンとなったピー介が謎の男を攻撃しており、その戦況というと五分五分といった感じだ。
ピー介の攻撃はかなりの威力のようだが、それを謎の男がうまくかわしており、逆にピー介はちょっとずつ攻撃を食らっている。毒はピー介には効かないらしく、毒によって弱っている様子はないのだが、それでも少しずつ削られていることは確かだ。
一発逆転がありそうだが、このままだと徐々に削られてしまい、ピー介がやられてしまう。でも手を出すにはスピードが速すぎて手を出せない。臼杵なら何とかなるが、MPが心許ない臼杵は剛志の警護で手一杯だ。
そんな何も出だしができない状態で、ピー介と謎の男の攻防を見守ること数分、謎の男にとってはさらに状況を悪くする出来事が起こった。
宮本万葉が到着したのだ。
ドン!!
そんな音とともに現れた万葉、おそらくダンジョン空間に入るや否やその有り余るステータスを使って、一気に駆け抜けてきたのだろう。
おそらく音速を超えていたことで発生した衝撃波とともに現れた万葉、開口一番剛志の安否を確認した。
「間に合った!?」
そう聞く万葉にうなずく剛志と臼杵。その二人の反応を確認し、安心した万葉はほっと一息吐くとそのまま状況を把握しようとあたりを見わたす。
そうするとなぜか以前剛志の命を狙っていた男が大きなドラゴンと戦っているのが分かり、意味が解らず首をかしげる。
「え、ごめんなさい。意味が解らないんだけど、どういう状況?」
そう聞く万葉に臼杵が説明する。
「ああ、俺もよくわかってはいなんだけど、あのドラゴンはピー介みたいだ。ほら、ここに悠翔もいるだろう」
紹介された悠翔は挨拶をする。
「あ、どうもです。」
それでも状況がよくわからなかった万葉だが、取り敢えずあの男をとらえないといけない。それにあのドラゴンがピー介なら、少し状況が芳しくない。
「よくわからないけどわかったわ。じゃあ、ここからは私が相手するからピー介には下がらせて。できる?」
そう悠翔に聞く万葉、悠とは「やってみます」と答えると、ピー介に向かって話しかける。
「ピー介、こっちはもう大丈夫そうだ。戻ってきて!」
その声にこちらをちらりと見るピー介、その場に万葉がいることを確認したピー介は、とても賢く状況を理解し、謎の男に攻撃をかましたのちその場から離れこちらに向かってくる。
それにバトンタッチするように飛び出した万葉と、帰ってくるピー介。そしてピー介は帰って来るや否や以前見たことのある小さなドラゴンパピーの姿になってしまった。
「おお、本当にピー介だったんだな。よくわからないけどありがとよ」
そういってピー介にお礼を言う臼杵。それに合わせて剛志も「ありがとう」と感謝を伝える。
それを聞いたピー介は、気にするなとでも言うようにに、頭を軽く振り、そのまま眠りについてしまった。
眠ったピー介を抱え、体をなでる悠翔は、いまだに自分が一番理解できていないようだ。
「でも、どうやってあんな強くなったんだ?全くピー介はわからないことが多すぎるよ。」
そして、戦いは佳境に差し掛かる。
謎の男とサムライガール宮本万葉の一騎打ちだ。
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