第82話 剛志・臼杵vs謎の男
謎の男からの不意打ちを何とか耐えた剛志。しかし先ほどの経験からあの男の攻撃を現状防ぐことが難しいというのも理解している。
臼杵なら何とかなるかもしれないが、彼も基本的には後衛職だ。先ほどの炎胴なる男との戦いによってかなりの消耗をしてしまっているだろう。
「臼杵、俺はたぶんあいつに対してほとんど戦力にならないと思う。臼杵はどう?」
「いや、俺もさっきの戦いでの消耗が激しいからな。そうやすやすと剛志をやらせはしないけど、それでも守り切れるって言いきれるほどの根拠はないかな。現実的なのは万葉ちゃんを待つことだけど、それでもあとどのくらいかかるか」
「宮本さんは5分でくるっていってたし、あれからざっくりだけど2,3分ってところでしょ。微妙だね」
そうやって剛志たちが話している間も、謎の男は待ってくれない。一瞬で見えなくなったかと思うと、次の瞬間剛志の目の前に移動しており、そのままの勢いで剛志の心臓を一突きしてきた。
「うわぁ!」
一瞬のことで、反応できなかった剛志と臼杵。そのまま剛志の心臓を刺した謎の男は返す刀で臼杵にも攻撃するが、それは何とか防ぐ。
「剛志!大丈夫か!?」
そう叫ぶ臼杵に、さすがに今回は確実に仕留めたと確信している謎の男が答える。
「さっきの種はわからないけど、今回はさすがに仕留めたよ。この血が何よりの証拠でしょ」
そういって自身の短刀にたっぷりと付いている血の跡を見せてくる。
しかしその予想とは裏腹に剛志からは返事が返ってくる。
「俺は何とか大丈夫!臼杵はどう?」
その剛志の声を聴き、頭の中が?でいっぱいになる謎の男。いつもは冷静に目的だけを遂行するのだが、今回ばかりは動揺が隠し切れない。
「はぁ?一体どういうことだ。さすがに今回のは致命傷だろ。そうなるようにやったんだから。意味が分かんねぇ」
そういい、若干引いたような感じで剛志のことを見る謎の男。
それに対し剛志も胸を抑えるような動作はするものの、傷跡はなく本当に問題なさそうだ。
「くそ、どうなってんるんだよ。こうなったら確実に仕留めるしかないな」
そうつぶやくと謎の男は臼杵のことなどお構いなしに、一直線に剛志のもとに近寄り、何度も何度も剛志の体を切り裂いた。
その光景は半ばやけくそのようにも見え、明らかにオーバーキルだということが見て取れる。
そんな謎の男の攻撃は臼杵からの攻撃によって妨げられた。
「くそ、剛志!【雪魔法:スノーマン】」
臼杵の魔法によって作られた雪でできた大男が、剛志を今も攻撃し続けている男の横を殴り飛ばす。
剛志への攻撃で半ばやけくそになっていた謎の男は受け身をとることもなく横っ腹に攻撃を食らい飛んでいく。そんな男をしり目に臼杵は剛志に駆け寄ってくる。
「おい、大丈夫か!さすがに今回のはまずいんじゃないのか!?」
そういう臼杵に、剛志は答える。
「…はぁはぁはぁ。臼杵ありがとう。さすがに今回のはビビったよ。でもまだ何とか大丈夫。」
「さすがに肝を冷やしたぜ。あとどれくらいいける?」
「う~ん、今のペースだと5~10分が限界だね。でもそれまでには宮本さんが駆け付けてくれるはずだし。それまでの辛抱だね」
と息も絶え絶えになっているが、命に別状はなさそうな剛志。
先ほどのスノーマンの攻撃で少なくないダメージを負っている謎の男は、吐血をしながらも瓦礫から立ち上がりながら先ほどの会話を聞いていた。
あれだけ殺したはずなのにまだ命がある剛志にある種恐怖を感じる謎の男。先ほどのラッシュでも殺し切れなかったことに驚きが隠し切れない。
「おいおい、どういう種だよ。意味が分かんねぇ。これは情報を持って帰る方が先決か?でもさすがに二回の失敗はこっちの身が危ぶまれる。めんどくせえことこの上ないな」
そうつぶやき、回復薬らしきものを口にする謎の男。回復薬でダメージを回復させたのか、口についていた血の跡をぬぐって、口の中の血の塊を吐き出す。
その一連の動作が、戦いになれていることを暗に伝えており、この謎の男の戦闘力がとてつもないことがよくわかる。
その間にゴーレムたちを展開する剛志、ほとんど意味がないにしても少しは抵抗できると考えての行動だ。
臼杵も自身の周りに先ほどの戦闘で使っていた雪のつららを展開し、迎撃態勢をとる。
そんな迎撃準備を終えている二人に対し、謎の男は特に気負った感じもなく同じような動作で剛志たちに肉薄していく。
そんな時だ、いきなり今まで聞いたことのない声が聞こえてきたのは。
「ギャオオオン!!!」
そんな怪獣の叫び声のような声があたりを震わす。そしてその声によって剛志、臼杵、謎の男三名の体が硬直し一瞬固まった。
「な!」
剛志が声の聞こえた方を確認すると、そこには今まで見たことのないほどの大きさのドラゴンがこちらを向いて口を開けていた。おそらく先ほどの叫び声はこのドラゴンの物だろう。
「(ドラゴン???)」
急なドラゴンの乱入によって、思考が一瞬固まる三人。一瞬のうちにいろいろなことが頭を駆け巡るのだが、どれも答えを導き出すことはない。
意味が解らないまま、硬直している三人に対し、次に動いたのはドラゴンだった。
ドラゴンは咆哮を終えるとそのまま地面をけり、空を飛びながら剛志たちの方に突っ込んでくる。そしてそのままの勢いで剛志たちの目の前にしていた謎の男を咥え、連れ去った。
剛志たちから少し離れたところまで男を運ぼうとしたドラゴンだったが、途中で口の中で男が短刀を構えるのを感知し、攻撃を受ける前に男を吐き出した。
それによって動けるようになった謎の男は空中で受け身を取り、何とかきれいに着地をする。
しかし、今度はその着地位置に追いついたドラゴンが勢いそのまま尻尾を振りかざし、謎の男に追撃を加える。
目の前で急に始まった謎の男とドラゴンの戦いに、あっけにとられた剛志たちだったが、その答えを知る人物が近づいてきたことによって状況を把握することになる。
「はぁはぁはぁ。全く急に走り出して、どうしたんだよ。さっきから大きな音もするし…あれ、臼杵さん?それにこのゴーレムの数。剛志さんですか?どうしたんですか⁉」
そう剛志たちに話しかけてきたのは今この場に現れた男。横浜第三ダンジョンの新人探索者、相馬悠翔だった。
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