第78話 炎vs雪 その1 (臼杵サイド)
「(剛志の方は奥の手があるから問題ないとは思うけど、護衛対象を戦力に数えている時点で任務失敗って感じだよな…)」
そう思いながらちらっと剛志の方を確認する臼杵、剛志は周囲にゴーレムを展開しており戦闘態勢だ。
このまま万葉が到着するまでの数分間守り通すだけではあるものの、今臼杵の足止めをしている相手のと相性は最悪だ。しかしこいつが一番危険そうだと直感が告げているため、意識を集中しないといけない。そう考えだして段々とイライラがつのる。
「ちっ、めんどくせーな。お前さんみたいなのがやってきているあたり、下調べは済んでいるってことだろ。でもよ、いくら何でもくそテロリストに負けるなんてプライドが許さねえんだわ。さっさと倒して剛志の方に行かなきゃならねえからな。」
そういい、周囲に魔力を展開する臼杵。その威圧感はさすがトップ層の探索者なだけある。しかしその臼杵の魔力を浴びてもひょうひょうとしているテロリストの男は、暑苦しい大声で返事を返す。
「は!言ってくれるじゃねえか!さっきので分かったように俺とお前では相性が悪いんじゃないか?それに俺もお前みたいなさわやかイケメン野郎は嫌いなんでね。てことで死ね!」
そう叫ぶや否や、男の足元が爆発し、とんでもないスピードで臼杵に突っ込んでくる。
開口一番の攻撃スタイルからして、相手の男は接近戦で戦うインファイターであることは予想がついていた臼杵。その点も魔法で戦う彼にとっては戦いずらい相手だろう。
しかしそんなことは考慮してくれないのがこういった命を懸けたしのぎあいだ。むしろ命がけならなおさら相手のいやなところを突くのがセオリーだろう。そんな世界に身を置く臼杵は、即座に対応する。
先ほどと同様突っ込んでくる男の目の前に瞬時に雪の壁を展開した臼杵。その壁を爆発とともに突き破ってくるテロリスト。しかし今回は先ほどとは少し異なる。男がツッコんでくるであろう場所にすでに迎撃用の魔法が展開されていたのだ。
「雪魔法【雪のつらら】」
雪で作られた円錐型の大きな雪が、先端を壁の内側から外に向かって待機する形で作成されていたのだ。
雪の壁を突破し、辺りに水蒸気を巻き散らかしながら突っ切ってくる男にとって、雪と同じ色の円錐は判断しにくい。先端の雪が少し体内に食い込んだタイミングで初めて気が付く。
「ぬ!ファイヤー!」
咄嗟にブレーキをかける男。炎を逆噴射することで雪を解かすことと、止まることを同時に行おうとするのだが、自身は止まることはできても、雪の円錐は解けなかった。
そのため、胴体に浅くない傷を負い、口からも少し吐血した状態で何とか止まる男。その体は雪に触れているためか、少なくない出血のためか、体温が下がりだしている。
「くそ!さすがにやるな。俺様の炎で溶けないなんてな。こりゃさすがに俺の負けか。相性さで何とかできると思ったのによ」
そういい悔しそうにする男。それを見て観念したのかと思った臼杵は自身の周囲に先ほどのつららを展開しながら降伏を勧告する。
「今なら命までは取らねぇ、降伏しな。」
その発言を聞いた男は、大きく笑いだした。
「はっはっはっ。命までは取らねえか。そりゃお優しいことで。でもよ、これはそういう戦いじゃねえんだよ。それに俺も紛らわしい言い方しちまったな。それは謝るわ。俺だけの力じゃ勝てなかったって話だ。まだ終わりじゃねえぜ。聞いてないか?こっちにはバーサーカー使いがいるって」
そう不敵に笑った男。そしてズボンのぽっけから水晶の球を取り出し、手の平で砕いた。
以前、輪島が使った時のように、かけらがひとりでに舞い、光の粒になりながら男に吸い込まれていく。
「おい、マジか!」
その様子を剛志から聞いていた臼杵は、すぐにそれが使い捨てのバーサーカースキルのスキルオーブだということが分かった。そして一気に形勢が悪くなることが臼杵には容易に想像できた。
咄嗟に今自分が展開しているつららを射出し、今のうちにとどめを刺そうとする臼杵。しかし時すでに遅し。着弾先から先ほどまでとはレベルの違う熱量が放たれ、辺り一面が水蒸気に包まれた。
そして次の瞬間、先ほどまでとは全く異なった熱量の火を纏った男が、とてつもないスピードで臼杵に肉薄してくる。
「どっかーん!」
そんなふざけた掛け声とともに振り下ろされる拳からは、うけたら命がないとわかるほどの濃密な死の気配が漂っており、先ほどとは打って変わり必死な表情で身を守る臼杵。
「雪魔法【かまくら多重展開】」
臼杵の周囲に何重にも重なるようにかまくらが生成され、男のパンチを受け止める。
一つ一つの硬さもかなりのものだが、何層にも重なっていることで徐々に男のパンチの威力を弱め、ついには止めてしまう臼杵の魔法。相性最悪なのにもかかわらずとんでもない練度と言えよう。
男のパンチが収まったことを感知した臼杵はすぐさま次の攻撃に出る。
「雪魔法【開放】【かまくら多重展開】!」
そうして二つの魔法を続けて発動する臼杵。一つ目の【開放】によってすでに作成されていたかまくらに使われている雪たちが、新雪のようなふわふわな雪に変化した。次に合わせて使用された【かまくら多重展開】によって、今度はテロリストの男の周囲に、周りに漂っていた柔らかい雪を使用しながらかまくらが作成され、男を封じ込めた。
その魔法の作成スピードはすさまじく、さすがの練度と言わざるを得ない。しかし、これで完全に封じ込めたとは言えないらしい。
徐々に鎌倉の雪が赤く灼熱しだしたかと思うと、一瞬の時間ののち、巨大な爆発とともにかまくらがはじけ飛び、中から全身を炎で覆われた男が脱出してきた。
「畜生、足止めも一瞬しか持たねぇってことかよ」
一気に仕留め切っておけばと、後悔する臼杵だったが、まだ戦いは続くようだ。
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