第73話 町田虎之助
久しぶりのダンジョン探索を終え、地上に戻ってきた剛志一行。しかしまだ仕事は残っている。いまも尚一生懸命に壁を作ってくれているウッドカーペンターゴーレムたちを回収し、次のダンジョンに向かうという仕事だ。
状況を確認すると、一番最初に始めた壁の作成はすでに終わっているようで、そのダンジョンのゴーレムたちは一か所に集まり、次の指示を待っているようだ。
長く待たせると職員にも悪いと感じた剛志は、急いでダンジョン間転移で送ってもらい回収・移動を始めた。
そんな感じで作成完了した者から順々に回収と移動を行った剛志は、一通り移動作業を終えると、その日は就寝した。
そして似たような日々が続くこと数日。剛志が完成させた壁の総数が50個を超えた頃、剛志たちは横浜第三ダンジョンに来ていた。
壁作成は今も続いており、一日に3つのダンジョンの壁ができるペースで進んでいる。今全部で51個の壁ができているので残りの壁は約700個だ。これを一日3つのペースでやると230日ほどかかってしまう。その辺のことも併せて初めに剛志に依頼をした町田所長との連絡会兼相談会が行われることとなった。
剛志、臼杵、万葉の三名が横浜第三ダンジョンに転移でやってくると、そこはそれなりに復興が成されていた。いまだに仮設住宅が散見されるが、それでも急ピッチでダンジョン組合の支部は出来上がっていた。
そして、職員に案内されるまま部屋に入ると、剛志としては見知った顔の町田桃花と上白根信之、金田守に加え、もう一人イケメンの男性がその場にはいた。
「やあ、初めまして。私の名前は町田虎之助、ここにいる桃花の兄です。君の活躍は聞いているよ、まずは組合を代表して最大限の感謝を送らせてほしい。剛志殿、この度は我が国のダンジョンスタンピードに対する一連の貢献、心より御礼申し上げます。」
そういって剛志に向かい深く頭を下げた。このイケメンこそ先ほど紹介があったが、ダンジョン組合組合長、町田龍之介の秘書官である、町田虎之助だ。
急に始まった堅苦しい挨拶に、慣れない剛志があたふたしていると、先ほどまでのカチッとした雰囲気がなくなり、ふわっとしたとっつきやすい雰囲気に虎之介が変わった。
「まあ、堅苦しいのはこのくらいにして、フランクに行こう。剛志君はそういうほうが好みだと桃ちゃんから聞いているからね。」
「桃ちゃん?」
虎之介の町田所長に対する桃ちゃん呼びに、思わずオウム返しをしてしまう剛志。そして時同じくして町田所長の鉄拳制裁が虎之介の後頭部を襲う。
「馬鹿兄貴!人前でその呼び方するんじゃないよ!」
「いたた、いくら何でも本気で殴りすぎだろ…」
そういって頭を押さえながらぼやく虎之助。そのやり取りがおかしく気が抜けた剛志が話し出す。
「はは、仲がいいんですね。それにしても今回の要件って何なんですか?」
そう聞いた剛志に、金田が説明してくれる。
「はい、今回の要件は剛志さんへの報酬の件になります。当初は壁建設一つに当たり1000万で、その際にかかる費用や材料はこちら持ちということでした。これはかなり安い金額で剛志さんに働いてもらっている計算になります。ただその際にゴーレムを増やす際の費用もこちらが持つことで剛志さん的にもメリットが少しはあるような契約でした。ただ、その契約も現状材料の供給が追い付かず止まっている状況です」
そういながら、手元に資料を見せてくれる金田は、そのまま続けて話した。
「この穴埋めを行うべく組合からの提案が一つございます。まず剛志さんの現段階で一級への昇格を行いたいと思います。こちらは元々全国の壁を作り終えた暁には昇格は決まっていたので、ただ早めただけです。そしてここからが本題なのですが、日本にある政府所有のシークレットダンジョンの一つ、鎌倉ダンジョンへの探索許可証の発行になります。」
「シークレットダンジョン?」
初めて聞く単語で理解できなかった剛志は周りの皆の反応をうかがうと、臼杵、万葉の両名も分からなそうだった。しかし元々部屋にいた組合側の面子は知っているようで、かなり機密性が高いのだろうと思われる。
そんな剛志たちに対し、町田桃花の鉄拳から回復した虎之助が、説明を引き継いだ。
「シークレットダンジョンというのは、一般に公開されていないダンジョンのことさ。理由はそれぞれで、例えば入っただけで毒ガスが蔓延しており進むこともままならないダンジョンや、出てくる魔物のレベルがなぜか一階層から高く、一般公開ができないダンジョンがこれに当たる。こういったダンジョンは自衛隊の面々や、組合専属の探索者の一部だけに知らされ、定期的にスタンピード回避のための探索が行われている。しかしスタンピード回避だけが目的なので、まだ奥がどうなっているのかは知られていないところが多い。今回はそのうちのひとつへの探索許可証を剛志君とその護衛の二人に発行したいという話だ」
いきなりの話でついていけない剛志だが、なんだかすごそうだということはわかった。これがもし本当ならば、いつもダンジョン内でほかの探索者への迷惑を気にしていた剛志は、普段からほとんど人の居ないダンジョンを潜れるということになる。それだけでも剛志にとってかなり嬉しい話である。
しかし、今聞いた鎌倉ダンジョンはどういうものなのか気になった剛志は、質問してみた。
「何かすごいんだろうことはわかりました。しかし、今回許可証がもらえる鎌倉ダンジョンはどういったダンジョンなんですか?あ、それとそのダンジョンは今回のスタンピードは大丈夫だったんですか?」
「ああ、スタンピードは発生していないよ。おそらく秘匿されていたことが原因だと考えている。これもこないだのスタンピードが人災だった予想を強固にするね。それと、鎌倉ダンジョンはどういったダンジョンかということだね。これは一言で言うと広くて強いって感じだね」
そういって鎌倉ダンジョンの特徴を教えてくれた。
鎌倉ダンジョンは一階層の広さがとてつもなく広いようで、いまだ二階層への階段が見つかっていないようだ。もしかしたらないのかもしれないとまで言われている。
そして出てくる魔物の強さだが、一階層で出てくる魔物はその広いフィールドを使いこなすがごとく、巨大だそうだ。推奨レベルも一階層で100レベルが推奨だといっていた。
そんなダンジョンへの探索許可書が発行されるということの様だ。
そんな剛志に対し虎之介は続ける。
「本来であれば、これは何も君に対し報酬を与えていないことになるとは思うんだ。こちらとしては何も失っていないからね。ただ、めったに発行されるようなものではない。それにこんな状況だから今後は優秀な探索者には探索許可書が発行されていくかもしれない。でも少なくとも現時点では一号だ。ぜひ受け取ってくれないか?」
そういわれた剛志は、特に断る必要性も感じなかったので、ありがたくこの申し出を受けることにした。
そのあとは、いくつかの書類にサインをかいたり、今の状況共有なんかをして、その日は帰った剛志。
帰り際に剛志に向かってと虎之助が、追加報酬も渡せないかと今交渉中だと教えてくれたので、もしかすると何かしら追加で報酬が貰えるかもしれない。
そんな事を考えながらも次のダンジョンに移動した剛志は、用意された仮設テントに行きベットに腰掛ける。
ベットの上で今日の出来事を思い返すと、シークレットダンジョン一階層の推奨レベルは100だと聞いたので、せっかくなら100になってから上級職になった状態で行ってみようと思う。
そして新しい目標ができた剛志だったが、その日はすっかり日も陰りだした空を見て、少し早めに寝るのだった。
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