第51話 ~閑話:ダンジョン組合緊急対策会議②~
今日一日で本章の復興と本業編最終話まで更新しちゃいます!
更新時間は12時から一時間おきになります。
ストックはまだありますが、そのうち尽きるため、今日の一斉投降を終えるとしばらくは通常の更新ペースに戻ると思いますのでご了承ください。
「今、内木所長からあったように、ダンジョンの環境内に入ってしまえばダンジョン間転移のスキルが使用可能になる。そのほかにも監視の目をかいくぐれるようなスキルは、探せばいくらでもある。ということはだ、ダンジョンの管理をするというこの組織の根幹が脅かされるということだ。ひいては犯罪率の増加や、スキルを使用した犯罪等が一気に増えることは容易に想像できる。これは大問題だ。そしてもっと問題なのが、これの解決策が現時点ではないということだ。」
そう組合長の龍之介が話し切ると、会場に集まっていた各支部長たちは重苦しい空気に包まれていた。
今まではダンジョンへの入り口は直径3メートルほどの空間の裂け目だけだった。しかしそれが今では半径500メートルの円すべてが入口になっているのだ。これをすべて監視しきるというのは事実上不可能に近い。
「父さん、一つ教えてほしいのだけど。空中もスキルが使用可能になっているわよね。じゃあ地下はどうなの?」
そう質問をしたのは桃花だ。その発言により、皆一斉に頭の中で最悪のシナリオを思い描いた。そしてそのシナリオは現実だった。
「ああ、そうだ。おそらく地下も同様にスキル使用可能になるだろう。そうなると、より犯罪を犯そうと考えている者にとって都合のいい状況だろう。もちろんスキルを使用できなくさせるスキルなどもあるし、そういった技術開発も進んでいる。しかしすべてを使用不可にすると、今度は普通にダンジョンを探索してくれている探索者に不便を強いることになるし、それでも完璧ではない。我々も今まで使っていたダンジョン間転移での移動ができなくなるのは不都合が大きい。そうなると、もうこの件については諦めるしかないのだ。敵が強くなる可能性を理解したうえで、それを上回るしか解決方法がない。」
そう言い切った龍之介に、全職員の頭の中に不安が募る。しかし、その中でも町田桃花は諦めていなかった。
「じゃあ、話はシンプルね。私たちが探索者のサポート体制を強化して、どんどん強くなってもらうしかないってことじゃない。それに、うちのダンジョンのルーキーなんかは伸びしろ半端ないわよ。他にもそういう探索者はいっぱいいるわ。起きたことをくよくよしても仕方がない。やれることをやりましょう」
そう自信満々に言い放った。
その発言に一気に会場の空気が変わったのを感じ取った龍之介は、豪快に笑った。
「さすが俺の娘だ。この会場の誰よりも強気だな!確かに桃花の言うとおりだ。我々はできることをするしかない。一先ず地上に広がったダンジョン空間の円周に壁を立てなくてはいけない。それがないと次のスタンピードが起きた際に簡単に魔物が出てしまうし、ダンジョンに入る者を完全に把握することができなくなったとはいえ、把握しなくていいというわけではない。その把握のためにも入口を作り、管理体制を再構築する。これが最優先事項だ。そしてそのことと同時に、やらなくてはいけないことがある。それが探索者の保護だ。A.B.Y.S.S.の言っていた勧誘自体も本当だろう。そうなると今後各探索者に接触してくる恐れがある。それも勧誘だけならいいが、最悪暗殺の可能性も見ないといけない。」
やることは明白だ、しかし難易度が高い。どれも人員も資金も足りない。しかしやらなくてはいけない。
また別の内容で頭を抱えることになった面々だが、各々が優秀な職員たちだ。各自のダンジョンにいる探索者の中から、今の状況でどういったことが可能なのかということを洗い出し、解決策を導き出す。
そこからはまた別の裏方たちの仁義なき戦いが繰り広げられた。予算はどうなる。人員はどうなる。どこまでやる。今回をただの被害復興だけに収めるのではなく、より良いものにするためのアイデア。
そんな様々なことが話し合われ、一夜だけでは決まり切らなかった事柄も多いが、優先度の高いものから順に決めていった。
そして、今時点で決まったことは以下の二点だ。
まず重要な人物の保護観察。
これは今のところ、先のパーティーに出席していた各支部の優秀な探索者たちに対し、それぞれ専属の護衛を付ける。探索者はその性質上、ダンジョン内では優秀だが、ダンジョンを出ると一気に弱くなる。
人によってはステータスが1000を超えており、100分の一にしても一般人相当の10を超えるステータスを誇り、若干の超人的な動きができる者もいるが、所詮その程度だ。包丁で刺されれば命を落とすし、銃撃などを食らえばひとたまりもない。
そんなダンジョン外での探索者の命を守るために、護衛を付けるというのが今回の目的だ。期間は今のところ未定だが、A.B.Y.S.S.との戦争状態が続いている限り、これは必要な措置になるだろう。
ただ、探索者は基本縛られるのを嫌がる者が多いため、自身で護衛を雇う等の別案を示してもらった場合はそちらを適用するなど、探索者に寄り添った案に落とし込んでいるのはダンジョン組合ならではだろう。
次に、地上に現れたダンジョン空間の管理体制の構築。
ダンジョンから半径500メートルの土地では、あらかじめこういった際には土地がダンジョン組合のものになるという契約をしているが、それに不満を持つ者も出るだろう。
それらの対応にはかなりの資金が必要になってくるが、そこは龍之介と政府との話し合い次第だろう。
それ以外には、壁の建設と、ダンジョン内にもともとあった支部やデパート等の関連企業の移転作業等、やらなくてはいけない事務方の事柄が考えるのも嫌になるくらいある。そういったことをできるスキル持ちの活用なども必要な事柄だ。
そういったいくつかの重要な取り決めを行い、ひとまず会議がひと段落したころには、すでに朝日が昇っていた。
「ふぁ~、めちゃくちゃ眠いが仕方がない。ここが踏ん張り時だ。皆、頑張ってくれ。一先ず解散!」
そして龍之介の号令で皆、ふらふらの足取りのまま、各支部へと帰っていった。
本作品を楽しんで頂きありがとうございます。
ブックマークや評価、感想、リアクションなどをしていただけますと幸いです。




