第46話 日本最強の戦い
今日一日で本章のA.B.Y.S.S.編最終話まで更新しちゃいます!
更新時間は12時から一時間おきになります。
ストックはまだありますが、そのうち尽きるため、今日と明日の一斉投降を終えるとしばらくは通常の更新ペースに戻ると思いますのでご了承ください。
剛志は自身のゴーレム異空庫からどんどんとゴーレムを召喚していく。
しかしこの場所は建物内であるため、いつものように大量の軍団を呼び出しても展開することができない。そのため剛志は比較的小回りの利くウッドナイトゴーレムを30体ほど呼び出した。
このウッドナイトゴーレムはウッドソードゴーレムの強化版で、攻守ともに優れた優秀なゴーレムだ。
しっかりと木製の鎧を身にまとったウッドナイトゴーレム5体を自身の周りに残して、その他は周囲の人間を守るように命令を出した。
ここで問題なのが、現在の剛志のゴーレムは、今回のような高度な状況判断を必要とする場面での運用方法が確立できていないということだ。
誰が敵で、誰が味方か、何から守るのかなど、複数の状況への命令ができないのだ。
そのため今回剛志が出した命令はシンプルだ。【人間を守れ】。そのためゴーレムたちは、たとえ相手がこちらを攻撃してきたとしても、愚直に人間を守る行動をとる。
しかし、今回はそれで問題なかったようで、身動きの取れていない人の前に立ち、各地の戦闘での余波から守るような行動をとっている。
これによりひとまず最低限の被害は抑えられるのではないかと思う剛志だったが、ここで暴れているのは日本最強格だ。その戦闘の余波は生易しいものではなく、早くここから立ち退かなくてはいけない。現に今目の前で剛志のゴーレムが余波を受け、一体使い物にならなくなっている。
「こんな狭いところで、なんていう戦闘をしているんだよ! これじゃ肉壁にしかならないじゃないか。とにかくみんなを避難させなくちゃ!【動かない人は抱えてこの部屋から離れろ】」
ゴーレムたちに新しい命令を下した剛志は、自身のゴーレムたちが無理やり動かない人間を小脇に抱えて走り出すのを確認し、自身も逃げるために入口に向かって走り出す。その時、剛志のいたパーティ会場の床が抜けた。
「うわぁ、【抱えている人を守れ】ゴーレム異空庫【マジックウイングゴーレム】」
咄嗟にウッドナイトゴーレムたちに新しい命令を下し、その横で自身の真下の空間にゴーレム異空庫を出現させ、マジックウイングゴーレムを召喚した剛志。
そのままマジックウイングゴーレムを空中で自身に装着させるという離れ業に成功し、マジックウイングゴーレムを使って空を飛び、難を逃れることに成功した。
横目で周りを確認すると、ウッドナイトゴーレムたちが落ちながらも包み込むように抱えている人たちにかぶさり、自身を下にしながら落ちていくことが確認できた。
これで無事だといいが。
そう思いながらも今度は部屋の中央に目を向ける剛志。そこではとてつもない戦いが今も繰り広げられている。
時間は数分だけさかのぼる。
権蔵と敏則がいきなり会場を襲ったそのあと、西園寺は酩酊中にもかかわらず、とっさに指輪型マジックバックから自身の武器を取り出し、ゴーレムに戦いを挑んでいた。
「なんで裏切った、権蔵!」
そう吠えながら、権蔵が召喚したゴーレムに向かい剣を振り下ろす西園寺。その剣の切っ先から斬撃が飛び出し、炎で作られているゴーレムに当たる。
その威力は万全ではないとは思えないほどの大きな衝撃を生み出すのだが、西園寺は不服そうだ。
「くそ、全然威力が出せない。薬を盛るなんて、お前らしくないじゃないか。正々堂々、真っ向勝負をしろ!」
そう言いながらも何度も斬撃を飛ばす西園寺だが、その攻撃はゴーレムの壁を超えることはない。その攻撃を横目に、権蔵はつまらなそうにあくびをしながら話し出す。
「今のお前さんと戦うなんてつまらん。また今度遊んでやるわい。わしも本意ではないが、今回は計画を成功させることが一番だったのでのう。しかしおぬしの危機察知のスキルをかいくぐるのは、いいアイデアじゃろ」
そう言いながら笑っている。その横で田中敏則が、意味もなく自身の肉体美を確かめていたかと思うと、いきなり権蔵の後ろに移動し攻撃を防いだ。
権蔵に攻撃を仕掛けていたのは、こちらも日本最強格の宮本万葉だった。
すさまじいスピードで近寄り、後ろから権蔵を一刀両断しようとしたその攻撃を、田中は自身の鋼の肉体で防いだのだ。
「ちっ。なんで私の刀でその程度の傷で済むのよ。あなた、おかしいんじゃない?」
「いえいえ、お褒めいただきありがとうございます。しかし私もまだまだですね。せっかくの体に傷がついてしまいました。鍛え方が足りないようです」
そう言う田中の体には大きな切り傷ができており、今もそこから血が流れている。その血を自身の体に力を入れて止血した田中は、それでもじわじわと染み出てくる血を見て嘆いていた。
そんな田中に完全に引いていた万葉だったが、それでもお構いなしに何度も刀で切りかかる。
そんな西園寺、万葉の双方からの連続攻撃にさすがに耐えきれないと思った権蔵は、新たなゴーレムを召喚した。今度は風でできている不思議なゴーレムだ。
そのゴーレムにも同じようにバーサーカーを付与し、強化した権蔵は、西園寺に向かって攻撃を仕掛ける。
風でできたゴーレムは、その巨体からは想像もつかないような速度で西園寺のもとにたどり着き、その巨大な腕を振り切った。
咄嗟に両腕を前でクロスし、防御の姿勢をとった西園寺に強烈な右ストレートが直撃する。勢いそのまま吹っ飛ばされた西園寺は、部屋の壁に直撃して止まった。
かなりのダメージを負ったようだが、それでも西園寺は倒れない。むしろ血を流しながらも、その目には先ほどよりもしっかりとした意識が宿っていた。
「いった。それに気持ち悪いな。二日酔いみたいだ。でも今の一発で酒が抜けたよ。さんざんふざけてくれたな。なめるなよ」
そんな独り言をぶつぶつとつぶやきながら、何かのスキルを自身に使った西園寺は、体に光のオーラをまとい、明らかにパワーアップしたような状態になる。
また、マジックバックからポーションを取り出し、それを飲み干した西園寺は、再度スキルを重ねがけするように発動し、先ほどからまとっていたオーラが倍増したことを合図に駆け出した。
そのスピードは先ほどの風ゴーレムよりも速く、目にも止まらぬ速さで走りながら斬撃を飛ばした西園寺は、自身の加速も併せて繰り出した斬撃の行く先を見届ける。
先ほどまでの斬撃とは比べ物にならない大きさの攻撃を目にし、「これはまずいな」と感じた権蔵は、とっさに自身の二体のゴーレムを融合させて自爆させた。
風と炎の融合によって生まれた超高温の塊は、一つの丸になり、そのまま西園寺の放った斬撃とぶつかった。その瞬間、大きな爆発となって斬撃の威力を殺しながら周囲を破壊し広がり、会場に大きな穴をあけたのだ。
その余波で会場の床が抜け、いろんなものが落ちていく。ダンジョン産の鉱物で作られている丈夫な建物でも、さすがにこのレベルの戦いでは形を保つことができなかったようだ。
土煙がなくなり、辺りの様子を確認できるようになると、会場は見る影もなかった。
権蔵は新たに召喚した巨大なゴーレムの背に乗って落下を免れており、そのゴーレムの腕に田中も捕まっている。
西園寺は、落ちゆく瓦礫を足場にしながら着地を成功させており、下の階にいる。
万葉は自身の刀を壁に突き刺し、それに捕まるようにして途中で止まっていたが、土煙が収まったところで刀を抜き、下の階に降り立った。
そのタイミングで、西園寺の仲間が西園寺のもとにやってきた。
「もう、勝手に先走りすぎなのよ。周りのサポートをするこっちの身にもなってよね」
そう言いながら現れたのは、西園寺のチームメンバーの宮園麗華だった。その後ろには、同じくチームメンバーの嵐山実、白峯真紀が現れた。
「お前が非戦闘員を守れって言うから守っていたのに、会場の床ぶち抜いたら危ないだろうが。ちったぁ頭使え、馬鹿が」
「そんなこと言ったらかわいそうだよ。正義くんも頑張っていたんだし」
そう言いながら嵐山、白峯も加わった。その三人を見て、権蔵は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「全く、見ているこっちが気持ち悪くなるのう、お前ら。どうやったら実際にそんなテンプレみたいなチームで活動できるんじゃ? 全員劇団員なのかの?」
そう言い放つ権蔵に、宮園が言い返す。
「それ嫌いなのよね。わざとこうなっているわけじゃないのだから。でもね、そういうやつらは皆、わからせてあげたわ。圧倒的実力差でね」
「だからそういうセリフをすらすら言うところが気持ち悪いんじゃよ。まあいい、お前さんらが集まるとさすがに面倒じゃわい。あと時間も5分程度じゃな。お前さんらのせいで会場もこの有様じゃし、勧誘はまたの機会にしようかの。わしたちもここから逃げなくてはならんので。敏則、あと五分だけ場を持たせろ」
「了解」
そう言うと、権蔵はおもむろに田中敏則に向けて、自身のスキル「バーサーカー」を使った。
そうしたことで、ただでさえ戦闘力日本最高峰の田中敏則は、時間限定ではあるが現在10倍のステータスを誇るようになってしまった。そして、そこからは完全なるワンサイドゲームが繰り広げられたのだ。
バーサーカー状態の敏則は、先ほどまでとは異なり、万葉の刀でもまったく傷がつかず、西園寺の斬撃も腕一本で簡単に消滅させることができるようになっていた。
それでも果敢に戦いを挑む西園寺パーティと宮本万葉だったが、こちら側の攻撃は効かず、あちらの攻撃は一撃必殺という状況ではさすがに難しく、思うように攻めることができない。
唯一の救いは、田中が積極的に攻めてこなかったことだろう。彼の目的は、通信が再開するまでの時間稼ぎのようで、あまり無理に攻めてくることはなかったのだ。
そんな軽い硬直状態が約5分続き、通信が再開したとたん、権蔵はおもむろにもう一体のゴーレムを召喚した。
そのゴーレムの背中には転移陣が描かれている。これで逃げるようだ。
「逃がすか!」
そのことに西園寺はとっさに止めようとするが、相手には現在超強化されている田中がいる。
「だから、逃げるんですよ」
そう言いながら、突っ込んでくる西園寺に対し、目にも止まらぬ速さで近づいた田中は、西園寺のみぞおちに強烈なパンチをお見舞いする。
完全に決まったその一発で、西園寺は気を失い倒れる。それを横目に、田中が口を開く。
「命までは取らないであげますよ。あなたたちがこれ以上無駄なあがきをしないなら」
そう言う田中に対し、現在の実力差を考え、どうにもできないことを理解しているこの場の面々は、じっと身動きをしないことで意思表示をした。
「ああ、やっと会話ができますね。それでは私たちはこれで失礼いたします。またどこかでお会いしましょう。さようなら」
そう言い、権蔵の出したゴーレムの背中に乗った田中と権蔵は、ダンジョン間転移のスキルを持った何者かの手により、どこかに逃げてしまった。
残っているのは、権蔵が出した転移陣が描かれたゴーレムのみ。しかしそのゴーレムもすぐさま爆発してしまった。
その爆風は何とか宮園の魔法によって抑えられ、被害はそれほどでもなかったが、これで完全に手がかりがなくなってしまった。
「あのじじい、最後まで最悪だったな」
そうつぶやくのは嵐山だった。皆、今の状態にどこか現実味を持てていないようだが、それでもひとまず山場は超えた。そう感じていた。
会場にある男の声が聞こえてくるまでは。
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