第45話 クーデター
今日一日で本章のA.B.Y.S.S.編最終話まで更新しちゃいます!
更新時間は12時から一時間おきになります。
ストックはまだありますが、そのうち尽きるため、今日と明日の一斉投降を終えるとしばらくは通常の更新ペースに戻ると思いますのでご了承ください。
剛志が招待されたダンジョン組合のパーティーもそろそろ終わりが近づいてきており、最後に今回の主役の西園寺がマイクを渡されて締めの一言を言うことになった。
その光景を会場の端の方から見ている剛志は、このパーティもこれで終わりか、意外に楽しかったな、そんなありきたりなことを思いながら西園寺のスピーチを聞いていた。
「皆さん、本日は私たちの祝の席にご出席いただき、再度お礼を言わせてください。ありがとうございました。今日の会はこれでお開きとなりますが、ここで私から皆さんに決意表明をさせていただきたいと思います。先日アメリカで行われた世界最強の探索者による100階層への到達記念パーティーで起きた事件は皆さんの中でも記憶に新しいかと思います。私はあのような強行は許されないと思います。今は実力が足りないかもしれませんが、いつか私も100階層に到達し、あの組織を壊滅に陥れ、日本最強が世界最強と言われるように成りたいと考えております。皆さんどうぞご協力の方をよろしくお願いいたします。」
後半にかけて政治家の演説のような熱量で話す西園寺、少しお酒が入っていて気が大きくなっているのだろうが、彼は本気の様だ。こういうところが良くも悪くも主人公と言われるゆえんなのだろう。
因みに彼の言っている事件とは、世界最強のと名高い探索者であったアメリカの|Gideon Blackmoorが彼自身の100階層到達を祝うパーティーの場で、全世界に対して宣戦布告を行ったことを言っているのだろう。
詳しい背後関係は知らないが、要するに彼の主張はすべての人間はダンジョンでレベルを上げている探索者によって管理されるべきで、普通の人間に探索者が管理されている現状はおかしいという物のようだ。そのため彼はA.B.Y.S.S.という団体(ほぼただのテロ組織)を立ち上げ、すべての政府にA.B.Y.S.S.の管理下に入れと命令したというのがその事件の全容だ。
その後彼のことを危険に感じたアメリカ政府が部隊を派遣し拘束しようと試みたのだが、ダンジョンの外では100分の一にステータスが落ちるといっても、彼ほどの探索者では100分の一でも十分超人的なステータスを誇っており、現在は逃亡中というのが最新の状態だ。
西園寺はそれを自身の手で片付けるといっているのだ。果たしてそれがビッグマウスなのか実現可能なのかはわからないが、かなり大きなことを言っているのだろう。
周りにいるほとんどのものが、西園寺の発言を聞いて息をのんでいることからもそのことは想像できる。
そして、言いたいことをすべて言い切り余韻に浸っている西園寺を皆が見つめているというだけの数秒無音の時間が過ぎている中、どこからか拍手の音と声が聞こえてきた。
「はっはっは、笑わせてくれるわい。まさかこんなサプライズがあるとはのう。」
そういい話し出したのはバーサーカー使いの藤原権蔵だった。
「これからの催しにあんたが邪魔だったので飲み物に薬を入れていたのだが、気が大きくなりそのようなことを言うとは。攻撃判定から逃れるために泥酔する方向の薬だったのでそうなったのだろうな。しかし一点笑えぬ点があるわい、おぬしまさか日本最強が自分だと思っとりはせんかのう?」
そういい怒気を現にする権蔵。ダンジョンの中なのでそのステータスはかなりの物の様で一人のおじいさんが醸し出すにしては大きすぎるオーラが会場中に広がる。
それを抑えたのは肉体強化のスキルホルダーの田畑敏則だった。
「まあまあ、権蔵さん。今日のところはそのくらいでいいじゃないですか。まさか計画を失敗させるおつもりですか?」
「ふん、若造に舐められるのは好かんのでのう。よいわ、計画を進めよう」
そう言い懐から何かを空中に放り投げた。
その何かは空中で留まり、全方向にホログラムを映し出した。そしてそこに映し出されたのは先日テレビのニュースで見たギデオンだった。
「『ああ、マイクチェック。皆聞こえているかい?おそらくこの声はしっかりと日本語に翻訳されているはずだから問題ないかな?どうもA.B.Y.S.S.のリーダー、ギデオンだ。今日はこの場に日本の中でも選りすぐりの探索者たちが集まっているんだろう?これは勧誘になる。我々の仲間にならないか?日本ではそこにいる権蔵と敏則も我々の仲間だ。我々の目的はすべての人間を我々探索者が管理する世界の実現になる。その志を共にする仲間は世界中にたくさんいるよ。まずは我々の力を示すためにある催しを開催しようと思う。ぜひ楽しんでくれ!』」
そう言い、ホログラムは消え、力を失ったように権蔵がほおり投げた物体は重力に従って軽い音を立てて落ちた。
その音を皮切りに会場は阿鼻叫喚の喧騒を見せた。
突然の出来事、謎の催しの存在、テロ組織に今時点で日本最強と噂されるうちの二人が入っているという事実。そのどれもが特大級の爆弾となり会場を襲っているのだ。
「おい、電波がつながっていないぞ!」
そう誰かが言い、皆がスマホを確認するが確かに電波はつながっていない、外部との連絡は取れないようだ。
「そう慌てるでない。今から説明してやるわ。まずこの新宿ダンジョンではこれから10分間電波を妨害させてもらった。そしてここからが本題なのだが、会場に集まっているわが国のダンジョン最前線の皆。わしたちの仲間にならないか?なる意思のあるものは両手を上げてわしらのもとに来てほしい。そしてもしならないなら邪魔なだけだ死ね!」
そういって権蔵はゴーレム異空庫を起動しゴーレムを出現させた。
そのゴーレムはまだ剛志の見たことのないゴーレムで、なんと火そのものでできていた。
そのゴーレムが権蔵のスキルを使われたのだろう。先ほどまでの大きさから二倍以上の体躯に変化し、その色も青白いものに変化した。そしてそのまま大きく腕を床にたたきつけて、会場に大きな爆炎をまき散らした。
その爆風を受けて吹っ飛ばされた剛志は、ここでようやくとんでもないことが起こっていることを理解した。最強格の探索者によるクーデターだ。
すぐさま自身の近くにいたはずの町田所長の姿を探した剛志は、爆風をうまくいなし着地する町田所長を確認した。
思わぬ身のこなしに少し驚きながらも、町田所長に声をかける剛志。
「大丈夫ですか?こっちは何とか大丈夫です!」
「ああ、私も体に問題はない。しかし状況はかなりまずいな…。剛志君、私はこれから職員たちの救助に回る。彼らのほとんどは非戦闘員だからな。君も出来ればこの場を収めるのに協力してくれないか?」
そう聞かれた剛志は、それが当たり前だと思ったので即答した。
「はい、任せてください。しかしどうすればいいですか?指示をください。」
「君はゴーレム使いだろう。おそらく職員一人一人よりも君のゴーレムの方が強いはずだ。守ってやってくれ。ただ、さっきの話だと誰が敵側かわからないからな。一先ず自身の身の安全を最優先にして、そのうえでできることを探してくれ」
そういってすごいスピードで走り出す町田所長。あの身のこなしから考えるに相当高レベルの探索者だということは理解できた。
そんな町田所長の姿を見送った剛志は、今自身ができる最善のことを考えた。
周りを見ると、全体の5割くらいが逃げまどっており、3割は意識を失っているのか思考が止まってしまっているのか、動いていない。そして残りの二割は町田所長と同じく周りを助けようと動き出していた。
そして自分に出来ることはゴーレムを出すだけだとわかっている剛志は、すぐに自身の目の前にゴーレム異空庫を出現させ、続々とゴーレムを呼び出すのだった。
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A.B.Y.S.S.
Alliance for Bringing Yawning Subterranean Sectorsの略
地下領域であるダンジョンを広げることを目的にした団体。
最終目的は地上のすべてをダンジョン空間にし、スキルやステータスが制限されることのない世界を目指しているテロ組織。
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