第4話 担当職員、上白根信之
翌日剛志がダンジョン支部に行くと、受付で昨日と同じように奥に通された。
通された部屋には、初めて見る剛志と同年代の男性がいた。
「おはようございます。剛志様。本日より剛志様の担当職員となりました、上白根信之と申します。よろしくお願いします。」
そういって名刺を渡してくる上白根に「こちらこそよろしくお願いします」とあいさつを交わしながら名刺交換をする剛志。昨日は急に名刺を渡されたのでもっていなかった経験から、今日は自身の名刺を持ってきていたのだ。
そうして、社会人としての一応の名刺交換ののちに、上白根が口を開いた。
「昨日、私どもで話し合った結果、以下のようなサポートをさせていただくことになりました。それは仕事の斡旋とアイテムの貸し出しです。仕事の斡旋は剛志様のスキル『所持制限無視』を活用する依頼の斡旋で、日本にいるほかの15人と同様の仕事になります。剛志様は専業ではいらしゃらないのでスポットごとの仕事にはなると思いますが、こちらさっそく本日の午後6時にこの支部で依頼の方を出させていただく予定になっております。もしお受けいただけるようでしたら、私の方で手続きなどは済ませておきますが、いかがでしょうか?」
「どのような仕事内容で、報酬はいくらになりますか?」
「確かに、そちらを言うのが先でした。申し訳ございません。依頼内容としましては、重量が大きく運ぶのが困難でこの支部で預かり続けていた鉱石の運搬になります。運搬先は北海道にある支部になるのですが、こちらはダンジョン間転移のスキルホルダーの方が往復で送迎してくださいますので、剛志様は鉱石をマジックバッグに入れ、向こうで指定の場所に置いてくるだけになります。こちらの報酬は15万円で、ダンジョン税が取られると手取りで言うと12万です。ただ、剛志様は副業での探索者なので現在は税が免除され15万がそのままてどりになります。いかがでしょうか?」
「なるほど、承知いたしました。お受けいたします。」
そうして、剛志は初めてのダンジョン組合案件の仕事を受けることにした。
ここでダンジョン関連のお金周りの話を少ししておくと、ダンジョンでお金を稼ぐには大きく二つ方法がある。
一つは今回の剛志のように、依頼を受けその成功報酬を受け取るパターンだ。
そしてもう一つは、ダンジョン内で手に入れたアイテムや素材などを売ることで得る利益によるものだ。
ダンジョン内で手に入れたアイテムなどは必ず出る前にすべてダンジョン組合に報告する必要がある。その際に売るのか、オークションにかけるのか、持ち帰るのかが選べる。
ダンジョン外で、取引をすることは基本的に違法であり、そのような際にはその取引内容もダンジョン組合に報告する必要がある。
これらのやり取りは、すべてダンジョンカードと呼ばれる組合から発行されているカードでやり取りでき、お金のやり取りや、引き出し、買い物などもすべてこれで可能だ。
そして、売り上げを得た際にはすべて一律で20%を税金で取られてしまうが、それ以外は追加で税金がかかることはない。そこに現在は一年間の税控除が副業探索者に適用される。
元々は剛志のようにほかに収入源がある場合でも、ダンジョンでの売り上げは完全に別ものとして換算されるため、ダンジョン税さえ収めていれば、そのほかのことを計算する必要はない。そこに対し一年間だけ優遇措置が適用されているのだ。
まあ、このような感じでダンジョンではお金を稼ぐことができ、その稼いだお金でよりいいアイテムや武器などを手に入れ、より深い階層を探検するというのがダンジョン探索の主な流れである。
「つぎに、剛志様へのサポート内容として、アイテムの貸し出しの件について説明させていただきます。内容としては組合が保有しているマジックバッグの貸し出しです。こちらあくまで貸し出しなので破損した場合などは弁償していただくことになりますが、無料で貸し出させていただきます。いずれご自分で新しいマジックバッグを手にするまで期限はなく貸し出させていただきますので、存分にご活用ください。以上で、私どもからの説明はすべてになりますが、何かご質問ございますでしょうか?」
そう聞かれは剛志は、特にないように思ったので、6時からの依頼はどこに行けばいいのかだけ聞き、その場を後にすることにした。
「では、いってらっしゃいませ。ダンジョンに入られる際には、お気を付けください。おそらく一階層なら問題はないと思われますが、例年5階層辺りで死傷者が出始めます。ダンジョンは命の危険と隣り合わせです。剛志様は危険な目に合わなくとも日々の稼ぎは副業としては問題ないと思いますので、どうか慎重な探索を心掛けください。帰りに素材の売却等も私にお声がけください。」
そう、上白根さんが言ってくれたので、剛志は再度気を引き締めなおし部屋を後にすることにした。
次は待ちに待ったダンジョン探索に行くつもりなのだ。
危険だと聞いてはいるが、こう見えても剛志も男の子なので、ダンジョンで戦うのも可能性があると昨日町田所長に言われてから、自分がどこまでやれるのかワクワクしていたのだ。
そうして逸る気持ちを抑えながらも、ダンジョン地下一階への階段に向かい歩き出す剛志。
そしてその姿は、魔物が出る本物のダンジョン、ダンジョンの地下へと消えていくのであった。




