第39話 レイス
「ここまでは正直楽勝だな、魔物の強さが上がったからなのかレベルもこの数時間で一つ上がったし。でもここからが鬼門だぞ。そろそろゴースト系の魔物が出てくるはずだ。皆気を付けてくれ!」
地下25階層に到達した剛志はそう皆を鼓舞した。事前調べではこの階層からゴースト系の魔物のレイスが出てくる。レイスは見た目は死神みたいな見た目で、鎌を持った黒い靄のような姿の様だ。そして壁をすり抜けいきなり奇襲をかけてくるといわれている。
剛志はその職業柄、自らが戦うということはほとんどしておらず、ゴーレムたちに任せきりという状態だ。一応機動力を確保することなど準備自体はしているが実戦は初めてだ。
この階層では少し剛志の周りの戦力を増やすために三チームから二チームに減らし、一チームあたりのウッドメイジゴーレムの数を増やすことにした。
そうして剛志は手元のタブレットを確認して別行動のチームを意識しながら、自身と一緒に進んでいるチームの状況、自分の周りの状況に注意を払う。これも並列思考のスキルを手に入れたからこそできることだろう。
そうして進んでい行くと、タブレットで確認していたチームの方に変化があった。レイスが現れたのだ。
しかし、向こうにはゴーレムしかおらず、レイスの存在に気が付いたウッドメイジゴーレムが魔法にて攻撃したことで戦闘に発展したようだ。
レイスは自身に攻撃を当てたウッドメイジゴーレムに向かって、ほかのゴーレムたちをすり抜け急行し持っている鎌を振りかざす。そこに別のウッドメイジゴーレムが魔法を放ち助太刀をする。レイスは一体しかいなかったためそこからはウッドメイジゴーレムの魔法が五月雨的に襲い掛かりあっという間に魔石を落として消滅してしまった。
タブレット越しだが、初めてレイスを確認した剛志はその見た目と襲い掛かる際にゴーレムたちをすり抜けたことで少しビビってしまった。
しかし冷静になってみるとスピードはそこまで早くなく、ウッドメイジゴーレム達はしっかり反応できてる。
あとは不意打ちにだけ注意すればいいだろう。そう考えて先に進む剛志。そうすると前の方で戦闘音が聞こえた。
レイスか!そう思い身構えた剛志だったが、確認してみるとレイスではなくスケルトンの集団だった。スケルトンナイト5体に、スケルトンウルフが5体の混合チームの様だ。
その魔物たちは特に問題なくストーンゴーレムたちによって蹂躙されている。なんだスケルトンかと思い気を抜いた瞬間。剛志の背後から風を切るような不思議な音が聞こえてきた。
何だと振り返る剛志。そうすると目の前およそ5メートルほどのところにレイスが剛志目掛け突っ込んでいるのが見えた。
「うわっ!」
そういい思わず体が固まる剛志。幸運なことに剛志がいた場所は開けていて障害物がなかったためにすぐにレイスを確認することができたのだが、戦闘経験のなさが祟って、即座に回避行動がとれなかったのだ。
しかし固まる剛志の横をウッドメイジゴーレムたちの魔法が通り過ぎ、襲ってきているレイスに当たった。そしてその一つの魔法を皮切りに複数魔法が当てられ、レイスは剛志に到達する前に消滅し、魔石を落としていた。
しばらく硬直が解けなかった剛志だが、ウッドメイジゴーレムがレイスやスケルトンが落とした魔石を運んできたのを見て気を取り直したようで、ゆっくりと周りのゴーレムたちに感謝をした。
「…みんなありがとう。今の俺だけじゃ死んでいたかもしれないね。みんなが居なくちゃ何もできないままだな。俺も頑張らないと。」
そういい落ち込む剛志。それに慌てたように剛志を励まそうとしているゴーレムたちがなんとも滑稽に見える。
しかし、剛志も落ち込んでいるだけではない。そこから気持ちを新たに周囲を警戒して進み、再度レイスと会敵した。
二回目のレイスは物陰から現れた。地下20階層以降のスケルトンたちが現れるフィールド型の階層では、スケルトンなどのいわゆるお化け系統の魔物が出てくるということもあってか、いたるところにボロボロの墓地や、朽ち果てた小屋などが設置されているのだが、その建物の陰からレイスが出てきた。
一回目の会敵を踏まえ剛志はなるべく開けた場所を進むようにしていたため、今回の物陰からの急襲も冷静に対処できた。風を切るような独特な音を出して進むレイスを見つけたときには剛志との距離は10メートルほどもあり十分対処可能な距離だった。
一直線に襲ってくるレイスを見つけた剛志は前回と違い固まらなかった。即座に「レイスだ攻撃!」と周囲のウッドメイジゴーレムたちに指示を出し、自身は装着していたマジックレッグゴーレムの伸縮を利用しレイスと距離をとる。
伸縮のばねの力を利用した大ジャンプをレイスがいる方向と逆向きに正確に行った剛志は、マジックレッグゴーレムを縮め空中に浮いた状態で、今度はマジックウイングゴーレムのジェット噴射でその場に浮かぶ。これが今まで練習していた緊急回避だった。
その後宙に浮かんだ状態で周りを確認した剛志は、周りに何もいないことを確認しようとあたりを見わたした。
そうしたところ運悪く剛志が跳んだ方にもう一体レイスがいるのが見えた!
ウッドメイジゴーレムたちは一体目のレイスに注目しており、剛志とも一瞬距離が離れている状態だ。とりあえずこちらにもいることを伝え助けてもらうしかない。そう判断した剛志は「こっちにもレイスだ!」と大きな声で助けを呼ぶ。
その呼び声に反応し、何体かのウッドメイジゴーレムたちが剛志のもとに走ってやってくるのを確認した剛志だが、その速さから考えるにレイスが剛志に到達するのが早いとわかった。そのため両手に装着していたマジックハンドゴーレムを使って攻撃をすることにした。
「オーラ!」
そういい、マジックハンドゴーレムのスキル【オーラ】を発動させた剛志。暗い中剛志の両手のマジックハンドゴーレムがほんのりと発光する。この状態なら霊体のレイスにも触れることができる!
そうしてオーラを発動した状態でレイスに向かい合う剛志。レイスが鎌を振りかざそうとしているところに伸縮スキルでリーチを伸ばした剛志の腕が届く。
遠距離から剛志に殴られたレイスは、思いっきり吹き飛ばされ、その距離が一気に広がった。その隙にウッドメイジゴーレムたちも到着し、レイスに魔法を放つ。そうしてレイスは魔石を残し消滅した。
一体目のレイスも倒せたようで、すぐに剛志の手元には二つの魔石が集まってきた。
「…さっきは何もできなかったけど、今回は結構いいんじゃないのか?でももう少しちょっとずつ慣れたかったのが本音だけどね」
そういい、少し先ほどの興奮が残った感じでつぶやく剛志。いきなり危険が増えたため全然緊張が収まらないようだ。
「でも、今回みたいなことがあるということは、あまり緊急回避でもゴーレムたちから離れすぎないようにしないといけないね。もしくはゴーレム異空庫に何体か残して緊急時に対処してもらうのもありか…。あとはシンプルに何らかのスキルを手に入れて俺自身の対処できる幅を広げるのも大事だよな。考えることは多いな…」
どうしてもソロの探索者は一人で多くの状況に対処する必要がある。もともと副業でお金が稼げればいいやと始めた探索者が、最近では趣味であり人生の生きがいになりつつある剛志。この先も今みたいに探索を続けていくには超え行かなくてはいけない事が多くあるのだ。
そうやって反省をし、いろいろ案を考えていた剛志は、周りをウッドメイジゴーレムたち囲まれながら今日はこの地下25階層で探索を続けようと決意し、夕方になるまで探索をつづけた。
そしてある程度遅くなった辺りで切り上げ、その日のダンジョン探索を終了するのだった。




