第26話 理不尽な結果
二日間限定でスタートダッシュということで一日10話更新。二日目です。
更新時間は12時・13時・14時・15時・16時・17時・18時・19時・20時・21時の一時間ごとになります。
楽しんでいただけますと幸いです。
輪島という6級探索者に絡まれ困った剛志、そんな剛志をしり目に輪島は尚も声を荒げる。
「おい、適当なことぬかすなよ。早くイレギュラーエンカウントの場所教えやがれ!」
「いや、だからイレギュラーエンカウントはもうすでに倒した後なんですって、どうしたら信じてもらえるんですか?」
「そんなに言うならなんか証拠でもあるのか?」
「証拠って知っても、もういなくなってしまっているし、ドロップアイテムくらいしか...」
そういって、困る剛志。
ドロップアイテムを見せてもいいが、別にそれはすでにただのマジックアイテムで、珍しくはあるが証拠としては不十分だと思ったのだ。
しかし、これしかないと思い手元にドロップアイテムの短剣と笛を取り出し、見せると輪島は貸してみろと言って奪い去ってしまった。
「いやいや、そんな乱暴に扱わないでください。それにちゃんと返してくださいよ」
そういうと、輪島は不機嫌そうに剛志を睨みつけた。
「うるせぇな、確かにマジックアイテムではあるようだが、これだけじゃお前がイレギュラーエンカウントを倒したって証明にはならないな。まあ、イレギュラーエンカウントの報告を出したお前らがもう大丈夫って言うなら今日はこのアイテムだけで勘弁してやる。これからは無駄な連絡を入れてほかの探索者に迷惑をかけるんじゃねえぞ」
そういって、剛志が出したマジックアイテムを懐にしまってしまった。
それを見て、驚いた剛志が声をかけた。
「いや、ちょっと待ってくださいよ!それは私のドロップアイテムです。今すぐ返してください!」
「ああ?お前のドロップアイテムという証拠はどこにある。それにもしそうだとしても、ここまで俺様が来てやったのに何もなかったは通用しねぇだろ、これは迷惑料だよ」
と言って、話にならない。
そこで剛志はこの輪島がただイレギュラーエンカウントの落とすマジックアイテム目当てでやってきており、すでに倒されたと聞いてアイテムだけでも回収しようとしていることが分かった。
そこで剛志の後ろに控えていた田中達が剛志に加勢しようと身を乗り出すのが見えた剛志は、ここでもめ事を起こすのは得策じゃないと瞬時に判断し三人を手で制す。
「輪島さん、あなたがやっていることは完全なる強奪行為です。いくらここがダンジョンの中でもそれは許されないのではないでしょうか?」
そう冷静に話す剛志に対し輪島はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、
「あん?文句でもあるのか?お前ら全員10級の新人だろ。そんな奴らが束になったところで俺様に勝てるとでも?」
そういって、両手のガントレットをかち合わせ威嚇してくる輪島。
それを見て後ろの控える田中達が顔を青ざめたので、剛志はすかさず、
「いえ、もうそのアイテムはお渡しします。なのでここから立ち去っていただけないでしょうか?もう用はないはずです。」
そういうと輪島は「へっ、腰抜けが。はじめから歯向かうんじゃねえよ」と捨て台詞を吐いてその場を立ち去る。
輪島が居なくなって少しの間誰も声を発していなかったが、緊張の糸が途切れたのか田中達が一斉に剛志に話しかけてきた。
内容はドロップアイテムと渡してしまっていいのかや、怖かったなどバラバラだったが、とにかく戦闘にならなくてよかったと思った剛志は、この件は一旦俺に預けてくれと言い、一緒に地上まで帰ることに。
帰り道の道中も、ぽつぽつと悔しいやら怖かったなどの感想を話し合う田中達に剛志もしっかりと説明してやることにした。
「正直言ってドロップアイテムは悔しいな。でもただのマジックアイテムだ。命の危険を冒すほどの物でもない。それにこの中では俺が一番強いかもしれないが、俺は基本的に後衛職だから、自分よりもレベルも上の見るからに近接職の輪島との戦闘は避けるしかなかったんだ。でもただでは終わらせないさ、しっかりとダンジョン組合には報告して、対処をとってもらうさ」
そう説得すると、田中達も納得してくれ、その後ダンジョンの一階の地上部に出た剛志たちは、そこで解散した。
剛志はその足で組合の上白根さんに今日あった内容を話した。
「取り合えず、無事でよかったです。まずイレギュラーエンカウントの討伐ありがとうございました。これは結果的にありがとうございますですが、無茶をしたことは注意させてください。普通は剛志様のような10級の探索者が立ち向かう案件ではございません。またそのあとのことですが、輪島という6級探索者がイレギュラーエンカウントを討伐したと報告していることは確かです。こちらはドロップアイテムもあることから正式達成として報酬が支払われておりますね。しかしこちらは申し訳ないのですがすでに完了してしまった状況を覆すのは難しいかと…」
そういって、申し訳なさそうにする上白根さんを見て、剛志はやはりそうなるかと思った。
勿論理不尽だと感じるが、以前ダンジョンについて調べていた際に、このようなケースがあることは知っていたのだ。
勿論今回の件を伝えることで、今後輪島を要注意人物として組合に認識させることはできるが、ダンジョンの中で起こったことは証拠がないとどちらが正解かわからないというのが実情なのだ。
これがカメラでも回していたら違ったのだが、今回はイレギュラーエンカウントと戦うためにいつもの配信ではなく、撮影係も戦闘に参加させていたことが裏目になってしまったようだ。
ダンジョンは良くも悪くも実力至上主義、強いやつが正義になってしまうのだ。
そのためこのような輩も多いのがダンジョンであり、その洗礼を受けたと思うしかないようだ。
そのあとも上白根さんといくつかの情報交換を行い、今後の対策等も相談に乗ってもらった剛志は、今回の件を経てダンジョン探索における自分の向き合い方を再度考えなおすのだった。




