第22話 イレギュラーエンカウント
今日と明日の二日間限定でスタートダッシュということで一日10話更新いたします。
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楽しんでいただけますと幸いです。
地下五階層でも問題なく戦えることが分かった剛志は、その後ゴーレムたちをチームに分け、レベル上げを行っていた。
前回のレベルアップと、一日たったことで回復したMPを消費し、ゴーレムたちを作成していた剛志の今の戦力は、ミニサンドゴーレム40体、ミニウッドゴーレム20体の大所帯にまで膨れ上がっていた。
現在はそのゴーレムたちをミニサンドゴーレム5体、ミニウッドゴーレム2体のチームに分け全部で8チームが探索に出ており、余ったミニウッドゴーレム4体は剛志と一緒にいて投石の練習をさせている。
いつものようにタブレットでゴーレムたちが戦っている様子をうかがいながら、ミニウッドゴーレムたちに投石の指示を出し、たまに自身も攻撃を避ける練習をしながら時間をつぶしている剛志だが、あることに気が付いた。
「うわ、この階層から一郎たちミニサンドゴーレムでもゴブリンたちの攻撃でダメージを負っているな。まだすぐに戦闘不能になるレベルではないけど、定期的にゴーレム再作成で治してやる必要があるな…」
剛志はそういって自身のステータスボードを眺めていた。
この階層からゴブリンたちは上位種であるゴブリンリーダーの指示で連携をとるようになってきており、また単純なステータスも地下四階層よりも高くなっているのだろう。
剛志のステータスボードに表示されるゴーレムたちのうち何体かのHPが若干減少していたのだ。
今までは圧倒的硬さで攻撃を受けてもびくともしていなかったミニサンドゴーレムたちでも、段々と通用しなくなってくるということだ。
そんな当たり前のことを再認識しながらも、今まではゴーレムの作成だけに当てることのできたMPを今度は回復にも使う必要があるという事実が、剛志の中で作戦を立て直す必要性を考えさせた。
「うーん。圧倒的に戦力アップだけを考えるとゴーレムを作り続けられている状況が最善ではあるけど、それだと魔物を倒した際の経験値が得られないし、どうしたものか…、さすがにそろそろMPポーションとかのアイテムを購入するとか、ゴーレムたちに武器屋防具を持たせることを考える必要があるってことか」
そういって大きなため息をつく剛志。
それもそのはず、今までは経費という経費はほとんど発生しておらず、先行投資で購入した指輪型のマジックバックに撮影用のカメラと機材くらいで、かなりの利益率を誇っていたのだ。
しかし今言っているの経費とは、武器や防具、ポーションといった消耗品で、探索を続ければ続けるほどその消費度合いも多くなってくる。それにポーションは剛志一人だけで済むが、武器防具は剛志の無尽蔵に増えるゴーレムたちに与えるものなのだから数がいくらあっても足りないのだ。
そうすると必要経費の額も馬鹿にならない。
やっとこさ先行投資で消費した分のお金を稼ぎだした矢先、また更に出費が増えるとなると、もともと副業で始めたはずのダンジョン探索でまた資産を減らしているだけになってしまうのだ。
「いや、これも先行投資だ。実際俺のスキルはかなりレアでこの先回収は可能なはず。貯金が減るのは痛手だが、それもすぐ回収できるはずだ」
そういって自身を納得させ、今日の帰りにアイテム類を購入しようと決めた剛志だった。
実際剛志がアイテムなどを購入して出ていく金額はそれなりだろうが、先を見通せば回収の可能性は大いに高く、そのうち今の給料では考えられないような金額を稼げるようになる可能性も十分あるだろう。
剛志が考えている不安は、いわゆる小市民の貧乏根性以外の何物でもないのだが、剛志はまさしく小市民そのものであったので、これから感覚をアップデートするためには必要な投資になるのだろう。
勿論今のゴーレムたちで安全に戦える場所だけでレベル上げとアイテム回収による収入をし続けるということも可能だが、それだと最終的には大金を稼げるようになるまでに時間がかかってしまう。
何かを得るためには何かを失わなければいけない、その際に失うものはそれを失った際に何を得れるのかを考える必要がある。そして今回失うものは貯金でまたためることはできる。そして得れるのは時間で、これは失ったら取り戻せない。そういうことだ。
まあ、そんな小難しいことを言ってはいるが、単純に貧乏性が抜けない剛志がお金を使うのをためらっているだけだという話だ。
そんな事を考えながらも順調にレベル上げを進めていた剛志だったが、またある問題が発生した。
「おい!また彼らかよ。でも昨日あったばっかだからさすがに魔物に間違うことはないと思うんだけど、何をそんなに焦っているんだ?」
画面の中で、第四チームが歩いている画面に昨日であった田中君率いる三人組のチームが慌てた様子で走ってきたのが見えたのだ。
昨日は脅かしてしまったが、その後しっかりと説明して理解してもらったはずなのに必死の形相でこちらに走ってくる田中君たち、そして先頭を走っていた盗賊の加藤君がカメラに向かって何やら叫んでいる。
音声は聞こえるようにしていなかったのだが、何やら大変そうだということを感じ取った剛志は第四グループの音声をミュート解除し、声を聴くことした。
「剛志さん!イレギュラーエンカウントです。早く逃げてください!」
そういって剛志に向かってゴーレムを逃がすように叫ぶ加藤君だったが、後ろを振り返り、田中君と渡辺さんが通り過ぎるのを確認すると、「言いましたからね!」と念押しをし、走っていってしまった。
そのあとだった、一番先まで進んでいた十八郎が魔物からの攻撃を受け吹っ飛ばされたのが見えたのは。
その後カメラの向こうでミニサンドゴーレムたちが肉壁になり魔物たちの進行を抑えながらもどんどん吹き飛ばされていて、ステータスもみるみる減っていっているのが確認できる。
とにかくまずいと感じた剛志はバラバラに探索しているゴーレムたちに戻ってくるように指示を出したのだった。




