第152話 性格診断
イチロイドに提案された、マジックアイテムを素材に使ったゴーレムの作成。
その結果、どんなゴーレムができるのかとワクワクしている剛志の頭の中は、いまもなお「何が可能なのか」といったクリエイティブな思考でいっぱいだった。
しかし、それよりも今優先すべきことがある。それはモンスタードームの増設だ。
増設といっても、同じ階層にもう一つ作るわけではない。そうしてしまうと階層の限界値に魔物の数が達してしまい、いずれ頭打ちになる。それでは意味がない。
今回の“増設”とは、別の階層に新たに建築を行うという意味である。
とはいえ、簡単に増築できるわけではなく、いくつかの条件を満たす必要がある。
まず第一に「他の探索者がいないこと」。
これはダンジョン探索におけるマナーとして、他者の邪魔になるような行為は好ましくない。
この点については、現在、横浜第三ダンジョンの50階以降を探索しているのは剛志たちだけなので、問題はないだろう。
次の条件は「十分な建築空間を確保できること」。
これはシンプルに土地の確保ができるかどうかという話で、ダンジョン内の物質はかなりのペースで元の形状へと修復されてしまう。
そのため、最初から広く開けた空間でなければ、ゴーレムのような無機物がいてもダンジョン空間が修復されてしまい、誰かが常駐する必要が出てくる。
したがって、常駐せずとも済むような、元から空間が開けている場所が必要だ。
最後に、これは“必須”ではないが、「飛行可能な魔物がいないこと」も望ましい。
現在のモンスタードームの構造上、最後に殲滅する際は天井を開けて魔法を撃ち込む必要がある。
しかし、その際に魔物が空を飛べた場合、攻撃のために開けた穴から外に逃げてしまう恐れがある。
大量の魔物を詰め込む構造上、安全面を考慮すると、飛行可能な魔物が出る階層ではモンスタードームの運用は控えた方が良いということになる。
そして、これらの条件にぴったり合っているのが、現在剛志たちが探索している横浜第三ダンジョンの地下60階層以降。
剛志たちの次の目標は、地下61階層にモンスタードームを作ることだった。
ただし、50階層以降のダンジョンでは魔物の強さの上昇幅が急激になるため、奥の階層へ無計画に進むのは危険行為だ。
そのため、これまでは慎重にレベルを上げ、安全性を確保しながら進もうとしていた。
だが、モンスタードームを「作るだけ」なら、戦闘せずとも比較的安全であり、剛志のレベルもすでに421まで上がっている。
それなら今のうちに一気に潜ってしまおう――それが今日の作戦だった。
「とりあえず、65階層まで作れればいいかな?」
そんなことを言っている剛志に対して、横から臼杵がツッコミを入れる。
「おまえ、さっきのイチロイドの提案で頭いっぱいだろ。そんな無計画に進めていいわけないからな。
それに一つ作るのにも、かなり時間がかかる。何度か行ったことのある階層とはいえ、まずは“一日一階層分”が現実的じゃないか?」
「『はい、マスター臼杵様のおっしゃる通りです。いきなり4階層分も作成するとなると、移動や建築の時間を考慮すると不可能だと思います。
ここは一階層ずつ、着実に進めていきましょう』」
臼杵とイチロイドに諭され、少しばつの悪そうな剛志。
だが、安全第一である。二人の意見を受け入れ、計画を見直すことにした。
最初の目標はやや無謀だったが、安全策を取る現在の方法は特に難しくない。
そのため、剛志たちは難なく61階層へと到達し、すぐにやるべき作業を終えてしまった。
現在も、イチロイドの指示のもと多数のゴーレムたちが急ピッチでモンスタードームを建設中。
手持ち無沙汰になった剛志と臼杵は、二人で“マジックアイテムを材料にしたゴーレム”について話し合うことにした。
「じゃあ、臼杵。なんか思いついたら案とか出してよ」
「そうは言ってもな。やっぱりこの件は剛志が詳しいし、俺はあまり役に立てないと思うぜ。
相談相手も、俺よりイチロイドの方がいいんじゃないか?」
そんな軽い自虐を交えて返す臼杵に、剛志も笑いながら返す。
「でも暇でしょ? それに臼杵と話す中でアイデアが浮かぶことも今まであったし、俺の話し相手になってくれよ。
イチロイドが相手だと、ちょっと難しいっていうか……」
「『マスター、私では“役不足”でしょうか?』」
剛志に“話し相手として不適”と言われ、少し不満そうに応じるイチロイド。
それに剛志も、慌てたように訂正を入れる。
「いや、そういう意味じゃないよ。でもイチロイドは、何事にも効率的すぎるからさ。
馬鹿話とか、そういうのはちょっと苦手でしょ? 逆にイチロイドが効率的じゃないことを始めたら、それはそれで困るしさ。
これは向き不向きの話だよ」
――この剛志との会話をきっかけに、イチロイドは少しずつ“ユーモア”を学び始める。
だが、それがわかるのはもう少し先のことだ。
こうして謎の分岐点を通過しながら、剛志と臼杵の「マジックアイテムゴーレム」についての話し合いが始まる。
「結局さ、剛志が作りたいゴーレムって、どんな形なんだ? 今回は素材にマジックアイテムを使うんだろ?
それがどんなものかにもよるけど、現時点じゃイメージが湧かないんだよな」
「そうだよね、まずはそこからだよね……俺もまだイメージが固まってないんだよな~」
そう言って悩み始める剛志。
そこで臼杵が、基本的な疑問を投げかけた。
「そもそも、“マジックアイテム”って言ってるけどさ。今、剛志が持ってるマジックアイテムってどんなのがあるんだ? それ次第じゃね?」
「確かに。そこも把握しておかないとだね。
……マジックバッグの中ってさ、別に一覧表示されてるわけじゃなくて、イメージで『何がどれくらいあるか』って感じで分かるんだよね。
普通は容量が少ないからそれで問題ないんだろうけど、俺の場合は容量が無限だから、中身の把握が面倒なんだよね」
その言葉を聞き、臼杵はまたもや大きなため息をついた。
「お前さ……そういう不便なことって、どうにかしようとか思わないのかよ。これ、何回目だ?
いつも適当に生きてると、周りが助けてくれないときに本気で困るぞ。
そもそもマジックバッグって、高級品だと“中身の情報を記録する機能”もついてるんだよ。
お前も今は金持ってんだから、ちゃんと良いの買えって」
「えっ、そうだったの? 知らなかった……早速、今日帰りにでも買って帰るか」
「良いやつは値段も高いし、今日は手に入らないかもな。でも店員に伝えとけば、取り寄せられると思うぜ」
またしても、剛志の“無知っぷり”が明るみに出た。
こうやって周囲が助けてくれるからこそ、剛志は無知なままでも何とかなる。――だからこそ、たちが悪い。
“ゴーレム使い”という、「自分が動かず周囲を動かす」ジョブを持つ者は、こういう性格になりやすいのかもしれない……
そんなこんなで、マジックアイテムを素材にしたゴーレムの構想はまだ決まらず。
剛志と臼杵の話し合いは、もうしばらく続いていくのだった。
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