第149話 話題に事欠かないゴーレム使いの話
剛志と臼杵は、今日もダンジョンに向かい、新しいモンスタードームの作成と、昨日作ったドームの収穫をしている。その一方で、万葉と百花の宮本姉妹は、横浜第三ダンジョンの地上のダンジョン空間内にいた。今日はここで百花のならしを行う予定だ。
彼女たちのそばには、イチロイドの分体がいた。今日はダンジョンに潜らないということと、百花自身のステータスが上がったことで、移動手段は必要なくなったからだ。
「お姉ちゃん、楽しいね!」
「ええ、そうね」
ここ何年もほぼ寝たきりだった百花にとって、こうやって姉と歩いてぶらぶらできる今がとても楽しかった。そしてその二人の後ろを、てくてくとついていくミニサンドゴーレム姿のイチロイド。彼はなぜかこの姿が気に入っているのだ。
「イチロイドちゃんも、今日もついてきてくれてありがとう。」
「『いえ、私はマスターから指示を受けておりますので。お気になさらず。』」
イチロイドは本来ただのゴーレムでしかないのだが、人工知能を搭載していることで、普通に会話ができる。今では、自然に言葉を交わすような仲になっていた。
「ま、このままいろいろショッピングしてもいいけど、それよりもまずは探索者組合の横浜第三支部を案内するわね。訓練場もあるから、そこで体の使い方にも慣れないとだし、剛志から頼み事もあったから、それも早めに済ませちゃいたいわね」
「そうだね、いつもお世話になってるし、まずは頼み事を終わらせちゃおう。私の訓練はそのあとでいいよ」
「そう言って、訓練するのをさぼりたいだけじゃないの?」
「あ、ばれちゃった?」
そんな他愛もないやり取りをしながら、横浜第三支部に向かう宮本姉妹。百花は口ではこう言っておちゃらけているが、本心では早く体を動かしたいと思っている。その辺は姉譲りなのだろう。
そんな彼女の現在のステータスがこちらだ。
名前:宮本 百花
パーティメンバー:岩井剛志・臼杵健司・宮本万葉
職業:格闘家
スキル:自動回復
職業スキル:気功術
レベル:15
HP:47/47(45up)
MP:16/16(15up)
攻撃力:48(45up)
防御力:47(45up)
器用:33(30up)
速さ:47(45up)
魔法攻撃力:0(0up)
魔法防御力:0(0up)
こう見ると、かなりステータスが上がっていることが分かる。おおよそ「10」が一般の人のステータスなので、すでに百花はダンジョン内に限れば一般人以上の身体能力を持っていることになる。
ダンジョンの外では、まだ病気が完治したわけではないため、レベル0時点の身体能力に、上昇分の100分の1が加算される計算だ。元々の能力値が2〜3だったことを考えると、外でも一般人レベルになるには、ステータスの平均値が700を超える必要がある。つまり、まだまだ道のりは長い。
そんな二人はそのまま支部に入り、受付で町田所長へのアポイントを取った。
剛志の案件は優先されるようになってはいるが、町田所長も忙しい人だ。会うまで少し待たされるかと思っていた万葉だったが、運よくすぐに通されることになり、そのまま所長室に向かう。
扉をくぐると、いつもの席に町田所長が座っており、二人を歓迎してくれた。
「おお、いらっしゃい。今日はどうしたんだい?…おや、今日は女子だけかい?……ん?後ろのゴーレムって、もしかして例の?」
思った面子ではなかったことで若干戸惑った町田所長だったが、目ざとくイチロイドの存在に気づいた。
「ああ、久しぶりだな町田所長。今日は剛志からの頼み事を預かっていてね。その件で話があって寄らせてもらったんだ」
そう言う万葉に対し、真剣な表情で話を聞こうとする町田所長。そんな二人の空気に、少し置いてけぼりになった百花が困ったような表情を浮かべる。
それに気づいた町田所長は、表情をすっと柔らかくし、百花に向き直る。
「ああ、こうやって病院以外で会うのは初めてだね。改めて、同じ『ももか』同士よろしくね、百花ちゃん。私の方は、皆『町田所長』とか『所長』って呼ぶから、そっちで呼んでくれればいいよ。急にこんな真剣な雰囲気で驚いたでしょ。お茶を用意させるから、ソファーでくつろいでいて」
その言葉に、少し緊張がほぐれた百花は「ありがとうございます」と言って勧められたソファに座る。
その隣に万葉も座り、イチロイドはそばで立っていた。
「で、万葉ちゃん。話って何?」
「ああ、話ってのはこのイチロイドのことなの。この子のことは聞いている、でいいのよね?」
「ええ、報告は受けてるわ。人工知能搭載型のゴーレムの作成に成功したって。本当に剛志君には驚かされてばっかりだよ」
「『ご紹介にあずかりました。イチロイドと申します。以後お見知りおきを』」
自身の話題になったことで、イチロイドが挨拶する。初めて体験する“人工知能搭載ゴーレム”の受け答えに、町田所長は驚きを隠せず一瞬固まってしまった。
そしてフリーズから復帰すると、いつもより興奮気味に声を弾ませながら話し出す。
「おお、実際に会ってみるとこのレベルとは驚いた!でも、そもそも剛志君の戦力アップが目的だったじゃないか。ここにいて大丈夫なのかい?」
「『はい、今ここにいる私は本体が作成した分体ですので。マスターの身の安全は、本体が守っております。ご心配ありがとうございます』」
そう言って、ぺこりと頭を下げるイチロイド。その所作に感心した町田所長は、続けざまに尋ねる。
「なるほど、そんなことができるのかい。今も本体とは連絡が取れるのかい?」
「『今は少し遠いため、通信できません。いずれ可能にしたいと考えております』」
「へぇ〜」
感心する町田所長。その流れに乗って、万葉が本題に切り込む。
「本題に入ってもいいかしら?今日話したいのは、このイチロイドのことなの。この子はいま現在も、さまざまなことを学習中なのだけど、私たちだけの運用だと、どうしてもインプットに偏りが出たり、スピードが足りなかったりするの。だから相談なんだけど、イチロイドの分体を、ダンジョン組合全体で借りてもらえないかしら?」
「ほう。私たちがこの子を借りることで、こちらにはどんなメリットがあるんだい?」
「『ここからは、私が説明いたします。現在、本体は材料さえあれば無尽蔵に分体を作成可能です。これは、本体の所属がマスターのゴーレムであるため、制限がないからだと推測されます。これにより、私たちは事実上、無限の労働力として機能できます。現状、組合において人手不足が深刻なことは把握しており、それに対して、私たちは無償で労働力を提供いたします。』」
そう言って反応を待つイチロイド。町田所長はしばし考えたのち、静かに口を開いた。
「なるほどね。こちらはイチロイド君を育てる代わりに労働力を得ると。……ただ、こちらも探索者にタダで仕事をお願いするのは本来の方針に反するし、学習が目的となると、機密情報の取り扱いやセキュリティ面も気を付けなきゃいけない。その辺りを考えると、振れる仕事もかなり限られてくるな」
「『命令には忠実に従います。したがって、機密保持に関しても契約書で定めていただければ、マスターにも口外しないことは可能です。ただ、現実的にはやはり信頼関係の構築が不可欠となるでしょうから、まずは非機密業務から始めていただければと思います。また、私たちが望む学習内容は、専門知識の伝授ではなく、人との会話を通じて情報を網羅的に得ることです。そのため、教育に力を入れていただく必要はなく、純粋に労働力として使っていただければ十分です。』」
イチロイドの理路整然とした説明に、町田所長の心が少しずつ傾き始める。
「『そこで提案なのですが、まずは一か月間、無償で試用していただくというのはいかがでしょう。その間に、どのような業務に適性があるのかを見極めていただければ。私たちは基本的に労働分野が得意ですし、人と関わる業務の方が望ましいですが、それが難しければ倉庫整理や清掃、備品管理などでも構いません。また、探索者のサポートとして同行し、安全確保や戦闘補助なども対応可能です』」
「なるほどね。戦闘訓練の相手なんかもできたりする?」
「『はい、可能です。』」
「……分かった。詳しい話はこれから詰めていく必要があるが、まずは上に掛け合ってみよう。とりあえず、今のところはその提案で進めてみようか」
「『よろしくお願いいたします。』」
こうして、イチロイドと町田所長の商談は成立した。
その後、万葉は町田所長に改めて挨拶し、いきなり始まった難しい会話についていけていなかった妹の百花と、役目を終えたイチロイドを連れて所長室を後にする。
所長室に一人残った町田所長は、イチロイドの提示した内容を頭の中で反芻していた。確かにメリットは大きいが、扱いに注意が必要な案件であることも事実だ。
毎度のことながら、メリットとリスクが表裏一体の案件を持ってくる剛志に対し、ありがたいような、困ったような、何とも言えない感情を抱えつつ――。
「……ふぅ」
町田所長は、深く、長いため息をついたのだった。
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