第146話 試験運用
宮本姉妹と別れて横浜第三ダンジョンの地下60階層に来た剛志たち。ついにイチロイドに提案された方法を試すときが来た。
「剛志。本当にやるんだな?」
「うん、そのために準備を進めてきたし。じゃあ、イチロイド、準備をお願い」
「『かしこまりました。ではまず、集めた魔物たちを収容するための建物を作りましょうか』」
そう言ってイチロイドは、剛志がゴーレム異空庫から召喚していくカーペンターゴーレムたちを引き連れて、ダンジョン内に巨大建造物を建てるつもりだ。
既にどういったものを作るのかは決めてあり、そのための材料なども準備した。あとはその通りにイチロイドに作ってもらうだけだ。
ちなみにイチロイドは、いくつもの壁を作成した熟練のカーペンターゴーレムたちの経験もしっかりと学習させており、すでに一流の建築家になっている。こういうところは、ゴーレムたちを使用する上での大きなメリットと言えるだろう。
そうして、どんどん出てくるゴーレム。カーペンターゴーレムたちは全部で5万体いる。それらをすべて出すのは逆に邪魔なため、今回出すカーペンターゴーレムは1万体だが、それでもとんでもない数だ。そしてそのすべてを手足のように操り、どんどんと施設を作っていくゴーレムたち。その力はすさまじく、大体2時間くらいで必要な施設を完成させてしまった。
「こんな建物を一瞬で作ってしまうんだから、剛志のゴーレムはやっぱすげえな」
出来上がった処理用施設を見上げながらそうつぶやく臼杵。剛志も、実際に目の前でゴーレムたちが作る様子を見るのは久しぶりだったので「すごい」という感想を抱いているが、実際にはこれよりもすごい壁という巨大建築物をいくつも作っているのが、このカーペンターゴーレムたちだ。これくらいなら朝飯前なのだろう。
出来上がった処理施設の全貌を話すと、その大きさは直径70mの円形だ。そして中には厚さ10mの壁があり、中心から直径50mの空間がある。ここに魔物たちを集めるという算段だ。
建物の入り口は東西南北で4つある。また、内側からも出られるようになっており、10mある壁の内側に移動用の道と活動するための部屋のようなものが点在する構造だ。ちなみに、この壁の内側にある空間は外とつながっており、基本的に剛志たちはそれを利用することになるだろう。それとは別に、大きな扉が東西南北についていると思ってもらうと間違いがないだろう。
天井は、今回は開閉式ではなく、そのまま天井があり、建物自体を遠くから見るとシンプルな球の形状をしている。
そのほかにこだわっている場所がないわけではないが、基本的にはシンプルな構造で作られたこの建物が、剛志のレベル上げ効率を上げることができる施設というわけだ。
「じゃあ、さっそく使ってみようか。イチロイド、よろしく」
「『かしこまりました』」
そう返事をしたイチロイドは、剛志が作ったデコイゴーレムを操る。今回召喚したのは、総勢20体のデコイゴーレムだ。
今回の作戦のために設計図を作成したデコイゴーレムは、身長1.8mほどの普通のトレントウッドゴーレムのような見た目をしている。トレントウッドゴーレムとの違いは、体に走っている刺青のような線だろう。ウッドゴーレム系列は、見た目に違いがあまりないため見分けるのは難しいのだが、紋様が刻印されていたり、若干形状が違ったりで見分けることは可能だ。
見た目の違いはそのような感じだが、動きはまったく異なる。イチロイドの号令のもと、散り散りに走り出すデコイゴーレムたちだが、その走る姿はかなりスタイリッシュであり、地面に倒れ込んでいるのではないかと疑うほどの前傾姿勢で大きく手足を動かしている。
倒れ込む動きによって重力の力を利用した加速と、速度に特化したステータスを生かし一気にトップスピードになったデコイゴーレムたちは、そのまま視界の端に消えていく。
「おお、あいつらかなり俊敏だな。俺みたいな後衛職は速さのステータスが上がりづらいのもあるが、もう俺よりも速いな」
「そうだよね。俺はどちらかというと全体的に上がる感じのステータス分布だけど、もう俺よりも速いね。まあ、そうあってもらわないと困るんだけどさ」
そんなことを話しながら、剛志たちは作った施設の待機場所に入り、デコイたちの帰りを待つ。すると約5分ほど待った頃だろうか、奥のほうからドタドタと魔物たちの足音が聞こえてきた。
「お、来たみたいだね。早速モニターを確認しようか」
そう言って待機部屋に設置していたモニターを見る剛志。施設の内側の空間と、東西南北の入り口、人が通る内側の通路などには、今回監視カメラを設置しており、それを待機部屋で見ることができるようにしてある。
モニターを確認すると、総勢100体ほどのゾンビやスケルトンといった魔物に追われながら走ってくるデコイゴーレムが見える。思いっきり走れば振り切れてしまうため、先頭を走りながらも速度を落としたり、無駄に空中で一回転したりとしながら速度調整をしているようだ。また、追ってくる魔物があきらめないように、定期的に挑発のスキルと騒音のスキルで気を引いているようだ。
そうしてこの施設の入り口まで誘導したデコイゴーレムは、そのまま施設内部に入っていく。それにつられるように魔物たちも入っていくので、全員が入りきったタイミングで扉が閉まる。
ちなみにこのドアの開け閉めだが、ここにもゴーレムを使用している。強度を持たせるためにかなり重たいドアになってしまっており、そのドアをそれなりに早く閉める必要があったため、裏に控えている「パワードゴーレム」というこれまた新しく作成したゴーレムが、扉の開け閉めを担当している。こうして、この建物は機能するようになっているのだ。
扉が閉まったことで、中に取り残された魔物とデコイゴーレム。これで目的は達成したが、それだとデコイゴーレムはやられてしまう。そのため、しっかりとした抜け穴も用意していた。
魔物の最後尾が中に入り、扉が閉まったことを認識したデコイゴーレムは、その瞬間に一気に最高速度まで速度を上げ、魔物たちを振り切る。しかしこのままでは逃げ道がなく、そのうち捕まってしまう。そんなデコイゴーレムの足元が落とし穴のように開き、そのままデコイゴーレムは地面に消えていく。そしてデコイゴーレムを飲み込んだ落とし穴は、デコイゴーレムを飲み込んだ後は元の地面に戻った。これがデコイゴーレムを外に出すための抜け穴となり、同じような抜け穴が施設内に数か所存在する。
これがデコイゴーレムを外に逃がすために剛志が考えた方法だった。
ひとまず初めての実践投入だったが、問題なく機能したようなので、先ほどのデコイゴーレムにはまた探索に行ってもらい、ほかのデコイゴーレムたちの帰還を待つ剛志たち。すると今度は1分もしないうちに、第二陣、第三陣と次々に帰ってくる。それらをどんどん収容していき、どこまで行けるのか試してみることにした。
おそらく探しに行く時間もあるためか、しばらくすると戻ってくる間隔が開きだしたが、それでも順調に魔物たちを集めていくデコイゴーレムたち。だんだんと内側にたまっている魔物たちも多くなり、スペースがなくなってきた。
魔物たちは、一度敵を見失うと待ちの状態になるのか、動きが鈍くなり、うろうろとしだす。
ただ、ここで一つ問題が発生した。ゾンビ系の待機姿勢だ。
奴らの待機姿勢は、初めてこの階層で索敵したときを思い出してほしいのだが、地面から出てくるという演出があった。それすなわちゾンビは地面の中で待機するのだ。するとどうなるだろう。デコイゴーレムたちがいなくなった後にスケルトンはうろうろしているだけだが、ゾンビたちは次々と地面を掘り、地中に隠れてしまうのだ。
それを初めて確認した剛志は、思わず声を上げてしまったくらいだ。
今のところ抜け穴を掘られることはないが、ゾンビのせいで地面はボコボコだ。いつ抜け穴の先の部屋に到達されるかと思うと気が気ではなかった。一応応急処置で、抜け穴の先の部屋はそこから先に出るためにも厚い壁を設置しており、二重のバリケードになっているが、それでもこれは抜け穴を魔物も一緒に通ってしまう場合を想定しているので、大量の魔物が来ることは想定していない。
そんな予定外のハプニングがあった試験運転だったが、一時間もすると内側にはざっと20,000体の魔物が収容されていた。
「こう見るとやばいな。剛志、さすがに大丈夫なんだよな?」
「うん、そのはず……だよね、イチロイド?」
「『はい、問題ありません。それに今回のデータにより、魔物たちは目標を見失うと、しばらくしたら待機状態になることが分かったので、このままでも問題ないはずです』」
イチロイドはそう言うものの、どこか心配になってしまう剛志と臼杵であった。
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